2020年11月15日に合意署名が成された「RCEP」とは何か?

 

 

●RCEPの概要

 

「RCEP」は、Regional Comprehensive Economic Partnershipの略で、「地域的な包括的経済連携」という意味である。

 

以下の政府サイトを一通り読めば理解できる事項ばかりである。

・RCEP(外務省)

地域的な包括的経済連携(RCEP)

・RCEP(経済産業省)

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)

・RCEP(農林水産省)

地域的な包括的経済連携(RCEP)

 

 

●RCEP加盟国

 

◎ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国

・インドネシア

・カンボジア

・シンガポール

・タイ

・フィリピン

・ブルネイ

・ベトナム

・マレーシア

・ミャンマー

・ラオス

 

◎+5カ国

・日本

・中国

・韓国

・オーストラリア

・ニュージーランド

 

※インドは不参加となった。

 

 

上記15カ国の総人口(22.7億人)は、世界全体の約3割を占める。

上記15カ国の総GDP(25.8兆米ドル)は、世界全体の約3割を占める。

上記15カ国の貿易輸出総額(5.5兆米ドル)は、世界全体の約3割を占める。

 

ASEAN諸国は、既に「+5カ国」(+インド)とは個別にFTA(自由貿易協定)を結んでいる。

 

これらのFTA・EPAを包括的にまとめる事で、2018年12月30日に発効された「TPP」(環太平洋パートナーシップ)を上回る「一大自由貿易圏」が形成される事になり、これによって、日本円で約11兆円の経済効果が創出されると見込まれている。

 

 

「自由で開かれたインド太平洋戦略」をベースに、「RCEP」「TPP」によって、海洋国家の日本はアジア圏・太平洋・インド洋での存在感が更に増す事になる。

 

残る「日中韓FTA」を成せば、いよいよその向こう側にある「FTAAP」(アジア太平洋自由貿易圏)へ繋げていく事ができる。更に、アフリカ大陸を抱き込んでいくのも良いだろう。

 

もはや、日本はアジア経済圏のド真ん中にいる!

 

 

●RCEPのポイント

・JETRO(2020.11.16)

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定、15カ国で署名

 

「点」と「点」を繋げた『線』(FTA・EPA)を【面】で包括したものがRCEPという事。

 

・法の支配が強化され、不正ができなくなる。

・自由で公正な経済圏を構築できる。

・効率的かつ広域的なサプライチェーンの強化。

・経済復興や包摂的な開発、雇用創出を支える。

・国際社会に対して、自由貿易推進を発信を力強く発信できる。

・通関コストの大幅削減。

 

日本側の関税については、重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)は、関税削減や撤廃から全て除外されている。

 

農林水産品の関税撤廃率は、TPP(82%)や日欧EPA(82%)よりも大幅に低い水準に抑制されている。

・ASEAN諸国、オーストラリア、ニュージーランド…61%

・中国…56%

・韓国…49%

 

 

●交渉分野

・外務省

地域的な包括的経済連携協定の要約

協定条文

 

(01)冒頭の規定及び一般的定義

(02)物品の貿易

(03)原産地規則

(04)税関手続及び貿易円滑化

(05)衛生植物検疫措置

(06)任意規格・強制規格・適合性評価手続

(07)貿易上の救済

(08)サービスの貿易

(09)自然人の一時的な移動

(10)投資

(11)知的財産

(12)電子商取引

(13)競争

(14)中小企業

(15)経済協力及び技術協力

(16)政府調達

(17)一般規定及び例外

(18)制度に関する規定

(19)紛争解決

(20)最終規定

 

この中でも、特に(11)「知的財産」と(12)「電子商取引」のルールを整備し、貿易・投資の促進やサプライチェーンの効率化を促せる枠組みを作れたのは大きい。

 

 

そんな中で、(09)「自然人の移動」を取り上げて、今更になって猛反対する人たちが現れた。どうやら、これの事を移民・売国と捉えているらしく、「中国や韓国がルールを守るわけがない!」と言うているw

 

2018年の「入管法改正案」の時も全く同じ主張を聞いたわけだが、入管法が改正されて以降、日本が移民国家になった事実は一切ない。それどころか、5年34万人計画には程遠いものとなっているのが現実である。

 

「自然人の一時的な移動」(人の移動)の意味は、協定条文(p672~p679)及び外務省のサイトにしっかりと書かれてある。

・外務省

わかる!国際情勢 EPAにおけるサービス貿易と人の移動

 

どういう思考回路を持っていたら移民や売国などというふうになるのか、さっぱりわからないのであった。

 

 

何事においても「ノーリスク」はこの世に存在せず、リスク(危険性)はヘッジ(回避)するものであって、恐れるものではない。

 

協定条文にあるように、明確なルールがあるので、加盟国は必ず遵守せねばならず、もし遵守しなかった場合は当然ながら違反となり、加盟国からの信用を失うだろう。貿易協定の法的拘束力は甘くはない。

 

 

●インドが不参加となった理由

 

インドが不参加となった時、保守層の人たちは、

 

・インドが抜けたのは、中国や韓国がいるから!

・インドが抜けたのは、中国や韓国がルールを守らないと知っているから!

・インドが抜けたのは、安全保障上の脅威に繋がるから!

・インドが抜けた事でメリットは無くなった!

 

などという、相変わらずの反中嫌韓むき出しの感情論で「日本も抜けるべき!」とまくし立てた。もはや思考回路が限界を突破しているw

 

そもそも、日本まで抜けてしまったら、それこそRCEPは中国主導のものになってしまうのではないか。

 

 

インドからしたら、貿易赤字の64.8%がRCEP交渉国にあるのと、売れるものが少なく、経済成長も鈍化しているという至ってシンプルな理由である。モディ首相も明確に経済的な理由と声明しており、シンプルにインドにとっては国益にならずメリットが少ないからである。

・日本経済新聞(2019.11.04)

RCEP年内妥結断念 インドが抵抗、離脱も示唆

 

日本やその他の国にとってはインド12億人市場は魅力に見えても、売れるものが少ないインドにとっては輸入圧力と感じたのではないか。

 

他にも理由はあるかもしれないが、現段階ではインドの考えは尊重しなければならないと思う。ただし、RCEPそのものの意義は理解しているので、100%離脱という事ではなく、一旦引き下がって様子を見るといったところか。インド無しでのRCEP合意署名は残念ではあるが、インドは戻ってくるよ。

 

 

 

●交渉の経緯

・RCEP(外務省)

地域的な包括的経済連携(RCEP)

 

当初は、以下の二つの案が併存していた。

・日本が2006年4月から提唱した「東アジア包括的経済連携」(ASEAN+6/CEPEA)

・中国が2005年4月提唱した「東アジア自由貿易圏」(ASEAN+3/EAFTA)

 

この二つの構想をを加速させるためのイニシアティブを受けて、2011年11月に『東アジア地域包括的経済連携』(RCEP)として一本化されたのが始まり。

 

RCEPとしては2013年に交渉が開始された。

 

ASEAN10カ国+6カ国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)の16カ国が交渉に参加。

 

その後、各分野において、交渉会合が31回、閣僚会合が8回、中韓閣僚会合が11回と、何度も交渉が重ねられてきた。

 

 

▲主導権を握っている国はどこか?

 

参加している国々を見渡してみると、最もGDPが高く人口の多い中国と思われがちだ。確かに、当初は中国有利に動いていた事もあり、主導権も中国に握られていた時期はあった。ASEAN諸国も中国の意見に賛同する事が多く、明らかに中国利権に擦り寄っていた。

 

日本はどちらかというと孤立していた方だったと思われる。2017年頃までは。

 

 

▲ASEANで円スワップ展開

 

2017年1月20日、アメリカでトランプ政権が誕生。ここから流れが変わり始める。

 

2017年3月17日~18日。「G20財務大臣・中央銀行総裁会議」。(ドイツ、バーデン・バーデン)

麻生太郎財務大臣が、ムニューシン米国財務長官と会談。

 

2017年4月20日~23日。「G20財務大臣・中央銀行総裁会議」。(アメリカ、ワシントンD.C.)

麻生太郎財務大臣が、ムニューシン米国財務長官と会談。

・財務省(2017.04.20)

 

この時の会談で、ASEAN諸国に円スワップ展開する事を容認されたものと見ている。ムニューシンからすれば、ASEANで日本円が拡大されて米ドルの影響力を下げられようが、日本の国益に資すれば、最終的にはアメリカの国益にも資する事を知っているからね。

 

もしも金融街ポチのヒラリー民主党政権だったら、絶対にできなかった事だ。奴等なら、チンピラみたいに「米ドルを使わんかい!」と圧力をかけただろう。

 

 

2017年5月5日。

横浜市で、日ASEAN財務大臣中央銀行総裁会議が開催された。

・財務省(2017.05.05)

日ASEAN財務大臣・中央銀行総裁会議の開催について

・財務省(2017.05.06)

第50回ADB年次総会 議長国演説

 

ここで日本が提案したのが、ASEAN諸国に最大4兆円規模の資金を供給する事であった。

 

これにはいくつかの狙いがあった。

 ・通貨供給体制の柔軟化。

 ・米ドル依存からの脱却と、日本円の拡充。

 ・為替市場を安定させる。

 ・金融危機の拡大の防止。

 

 

基軸通貨の米ドルだけではなく、日本円での取引が増えれば、それだけ日本円が流通する事にもなり、日本円の安定感や影響力の増加にも繋がる。中国経済の拡大も抑えられる。安定感があり信用力のある日本円だからこそ大きな力を発揮できるのではないか。

5月6日には、ADB年次総会の演説で「日本は、引き続き、ADB(アジア開発銀行)と密接に協力しつつ、アジア・太平洋地域の発展に取り組んでいくことを誓います。」と結び、2015年12月25日にAIIB(アジアインフラ投資銀行)を発足した中国を牽制した。

 

この円スワップの展開が、その後のRCEP交渉において、日本有利に進めていくための布石となったのではないか。

・財務省

アジア諸国との二国間通貨スワップ取極

 

 

▲低水準の拙速合意を回避させた日本

 

2017年11月7日~13日。世耕大臣が、ベトナム(ダナン)とフィリピン(マニラ)を訪問。

 

APEC閣僚会議では、保護主義への対抗、多角的貿易体制の支持を明記した事で、日本の主張を反映!

 

日ASEAN経済大臣会合では、日ASEAN包括的EPAの「サービス貿易・投資に係る改正議定書案」について交渉が合意!

 

そして、RCEPの閣僚会合では、低水準での妥結を回避し、高水準かつ早期妥結の両立を目指して交渉を継続する事となった。

 

これはデカかった!

 

 

・経済産業省(2017.11.14)

世耕経済産業大臣の閣議後記者会見の概要

20171114世耕大臣閣議後記者会見

・外務省

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の首脳による共同声明

 

RCEPにおいて、

 

・貿易自由化の交渉

高水準の貿易自由化を求める日本やオーストラリア。

自国市場の保護を優先する中国やインド。

 

・貿易ルールの交渉

「電子商取引」の関連ルールの整備を求める日本。

自国外へのデータ流通を制限している中国や一部ASEAN諸国。

 

一定の前進はあったようだが、隔たりも多く、課題も残されていたのは明らかだった。この頃、RCEPの主導権を握っていた中国は、低水準での貿易を押し進めようとしていたわけだが、中国RCEPを見事に叩いた瞬間だった。

そして、この時点で、RCEPの合意を退けたのには、もう一つ理由があったと見ている。

 

 

▲TPPの大筋合意

 

時を同じくして、2017年11月10日夜の閣僚会合にて、TPPが参加11カ国による協定を発効させる事について大筋合意が成された。

 

2015年10月5日に大筋合意が成されていたが、2017年1月23日にアメリカがTPP離脱の大統領覚書を発出したため、TPP11としての協定の早期発効を目指した協議が行われていた。

・外務省

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定

・経済産業省

TPP(環太平洋パートナーシップ)

・農林水産省

TPPについて

 

TPPの存在は中国を牽制する「包囲網」の役割も果たしている。従って、RCEPをより日本にとって優位にするために、TPPを先に合意・署名・発効させておく必要があり、そのための時間稼ぎだったのではないか。(日欧EPAも同様)

 

TPPでベトナムやマレーシアなどが低関税の貿易圏を得られた事で、海洋国家の日本はアジア太平洋経済圏において真価を発揮する事になるわけだが、逆に中国経済は日本(TPP)からもアメリカからも牽制されっ放しで、どんどん後退していく事となった。

 

 

▲RCEPの主導権は日本へ

 

更に、「自由で開かれたインド太平洋」で、アメリカ、オーストラリアとの連携を強化して、インドやASEANに対する主導権を握る。

 

そうしている間に、RCEPの手綱を握ったのが日本のアベ政治なのである。RCEPの主導権は日本の手に渡る事になる。

 

 

中国に擦り寄っていたはずのASEAN諸国は、円スワップが展開された事もあり、いつの間にか日本の意見に擦り寄っていた。

 

最終的にインドは不参加となったが、残り15カ国での合意署名に至ったのである。

 

あとは国会で賛成多数となれば承認され、日本として批准する事になる。「ASEAN諸国から6カ国以上の批准」かつ「+5カ国から3カ国以上の批准」を以て発効できるようになる。

 

 

 

 

●ASIA IS ONE

 

アベのスピーチは、RCEPにおける日本の立ち位置や主張を明確にしたものだった。

・首相官邸(2018.07.01)

平成30年7月1日 第5回RCEP中間閣僚会合 安倍総理スピーチ

 

日本は自由貿易の旗手として、ルールを守る側から作る側に回っている。どう考えても、TPPや日欧EPAと同様、日本に主導権があるのは明確だ。

 

自由で公正なルールに基づく21世紀型の経済秩序を作る。

知的財産をしっかり保護するルールを整備する。

 

更に「自由で開かれたインド太平洋」という土台もあり、日本は経済・貿易面でも安全保障面でも盤石なものになる事は間違いないのである。