「タックスヘイブン」や「ペーパーカンパニー」とは何か?
「課税逃れ」や「資金洗浄」によってどういった問題が起こるか?
今回は、それら4項目を一つのパッケージにしてザックリと考察していく。
●タックスヘイブン (Tax Haven=租税回避地)
以下のような国や地域を指している。
(壱)一定の課税が、「無税」もしくは「超低税率」である。
(弐)法律的な規制が、「皆無」もしくは「超緩い」。
(参)秘匿性が高く、透明性が皆無である。
(四)企業活動を要求しない。
イギリスの海外領土(英領バージン諸島、ケイマン諸島、バミューダ諸島など)やオランダ、シンガポールなどがその代表例である。かつてイギリスの領土だった香港もタックスヘイブンの地である。
※英領バージン諸島
タックスヘイブンは小さな島国に多く、観光業以外ではロクに稼げない事もあり、諸外国の資産を受け入れる事で発展しようと考えられた政策である。ペーパーカンパニー(後述)設立の手数料を主な財源としている国・地域もあるほどだ。
そして、租税回避できる事から、大企業や富裕層、外国資本の資産を次々と呼び込んでおり、いつしか莫大な資産が流入するようになった。これにより、タックスヘイブンに流出される事を防止するために、先進国の間で法人税率の引き下げ合戦が行われるようになった。
こうした背景から、タックスヘイブンは「ペーパーカンパニー設立産業」の地となり、「オフショア金融」の地になった。
●ペーパーカンパニー (Paper Company)
「登記上」設立されている法人の事。
Ghost Company(幽霊会社)、Dummy Company(ダミー会社)、Shell Corporation、Mailbox Company(私書箱だけの会社)と呼ばれる事もある。
特徴としては以下の通り。
・オフィスがない
・企業活動の実体がない
・従業員が配置されていない
・現地には私書箱だけが並んでいる
・法人設立の証明書や印鑑、銀行口座があればよい
・タックスヘイブンに設立される事が多い
役割としては、単純に資金調達をするのに利用する事もあるが、それ以上に、秘匿性の高さから課税逃れや資金洗浄の温床になっている。
●課税逃れ
例えば、日本に法人を設立した場合、たとえそれがペーパーカンパニーであっても決算する事になる。企業活動の実体が無い…つまり、収益(売上)が発生せず利益も出なければ、法人住民税などの維持費もムダにかかり、節税対策の割に合わないだろう。それだったら素直に分社化して企業活動したほうがよっぽど節税対策になるというもの。
では、タックスヘイブンにペーパーカンパニーの設立(もしくは登記の移転)をしたらどうなるか。その会社はタックスヘイブンの税制で課税されるようになる。
タックスヘイブンのペーパーカンパニーにお金を移転するには、「手数料の支払い」「現預金の貸し付け」などの取引を帳簿上に記載する事によって、本国の会社の利益を下げ、ペーパーカンパニーに利益を集中させればよい。
これによって、企業活動がないはずのペーパーカンパニーに取引実績(実体)ができるので、脱税ではなく「節税」となり、法人税を大幅に軽減する事ができ、より多くの利益を留保する事ができてしまう。
※但し、取引実績(実体)がなければ脱税になる。
しかも、一度移してしまえば、タックスヘイブンに資産を"置いているだけ"では課税要件には当たらない。
違法とは言えない、でも合法とも言いたくない、非常にグレーな節税スキームとなっている。
●国外財産調書制度
2014年度から始まった制度であり、日本国外に合計5000万円を超える資産(現預金、有価証券、不動産など)を所有する日本国内の居住者に、その内容を記した調書の提出を義務付ける制度。
・国税庁
●国外転出時課税制度
2015年7月1日から始まった制度であり、国外転出する者が、1億円以上の対象資産を所有している場合は、その資産の含み益を申告し、所得税として納税しなければならない。
・国税庁
●タックスヘイブン対策税制
不当な課税逃れを防ぐための制度が「タックスヘイブン対策税制」(外国子会社合算税制)である。2017年度の税制改正により大幅に変わった。
(租税特別措置法 第40条の4~6、第66条の6~8)
ただし、一定の要件を満たした場合のみ適用される制度なので、それを満たさないようにするなどの対応策は当然あるわけで、課題はまだある。
・JETRO(2018.01)
・財務省
・経済産業省(2018.08.31)
●不動産取引による課税逃れの例
(1)一般的な不動産の取引
Aさんが所有する不動産を、Bさんに売却する。
↓
不動産の所有者が、AさんからBさんに移る。
↓
その事実が不動産登記簿に記載される。
↓
税務署は取引の事実を把握する事ができる。
↓
課税逃れができない。
(2)ペーパーカンパニーを利用した不動産の取引
Aさんが設立したペーパーカンパニー名義で、不動産を所有する。
↓
不動産ではなく、Aさんのペーパーカンパニーを、Bさんに売却する。
↓
ペーパーカンパニーの所有者が、AさんからBさんに移る。
↓
そのペーパーカンパニーが不動産を所有している事実に変化はなく、不動産登記簿には取引の記録が残らない。
↓
税務署は取引の事実を把握する事が極めて困難になる。(売買はタックスヘイブンで完結する)
↓
課税逃れができてしまう。
取引自体は合法であっても、利益が出た場合に税務申告しなければ法人税法違反になるわけだが、タックスヘイブンのペーパーカンパニーは秘匿性が高く、取引の事実や真の所有者を把握する事は非常に困難である。
現状、日本には、海外からの不動産取引に規制がないため、尚さら困難な状況になってしまう。
・NHK NEWS WEB(2019.09.03)
・NHK NEWS WEB(2019.09.11)
●課税逃れをしていると思われる主な企業
PIRG(アメリカの消費者団体)の調査によると、米国企業のタックスヘイブンに保有する資産などのデータがPIRGサイトに纏められてあった。そこから2013年調査版と2017年調査版を紹介する。聞けば誰もが知っている会社の名前がたくさん並んでいる。
・U.S. PIRG(2013.07.31)
・U.S. PIRG(2017.10.31)
2016年に、500の企業がタックスヘイブンとして多く利用した国・地域は、オランダが5割超、次いでシンガポール、香港、ルクセンブルク、スイス、アイルランド、バミューダ諸島、ケイマン諸島と続く。
●資金洗浄 (Money Laundering)
犯罪行為によって取得した不正資金(汚れた資金)の出所をわからなくするために、金銭取引を繰り返し(洗浄)、出所をわからなくして、正当な手段で取得した資金に見せかける事。
犯罪行為とは主に、脱税、粉飾決算、盗品取引、詐欺、規制薬物取引、違法賭博、身代金、裏金、偽札などがある。
通常の銀行取引であれば正当かつ合法だが、犯罪を隠すための取引はもちろん違法である。
(例1)
不正資金で高級品やギフト券などを購入し、それを他の所で売却して「キレイな現金」を手にする。
(例2)
不正資金を、タックスヘイブンのペーパーカンパニーに送金したり、複数の架空名義の金融機関口座で振替したり…これを繰り返して「キレイな現金」を手にする。
何にしても、資金洗浄とは、タックスヘイブンの特徴である「秘匿性の高さ」を悪用した手法であり、れっきとした金融犯罪である。
まさに、ゴミクズのやる事だ。
●中国と香港を取り巻くチャイナマネーの動きと資金洗浄の流れ
ジェトロの資料から、中国と香港の「対内直接投資」と「対外直接投資」のデータを見れば、香港や英領タックスヘイブンにあるペーパーカンパニーに不正資金を混ぜて M&A(合併・買収)をして資金洗浄しているかがわかってくる。
「対内直接投資」及び「対外直接投資」から見たカネの動きに関しては、ジェトロのレポートを用いた考察として以下のMYブログで纏めてある。
【香港】とはどんな地域か?
「直接投資」からカネの動きを追う
こうした一連のカネの流れは、
中国の闇金や不良債権を、香港に流す。(台湾や北朝鮮の闇金も同様)
↓
香港にあるペーパーカンパニー(A)に、闇金や不良債権を混ぜる。
↓
ペーパーカンパニー(A)を、タックスヘイブンにあるペーパーカンパニー(B)に売却。
↓
タックスヘイブンにあるペーパーカンパニー(B)が、別の企業の資産に混ぜる。
↓
香港に売却して返す。
このようにして、秘匿性の高さを悪用した資金洗浄が横行しているのが事実で、『中国⇔香港⇔租税回避地』の間で巨額のチャイナマネー(=香港ドル)が動いている事を意味するのではないか。
こうした、香港を取り巻くチャイナマネー(=香港ドル)の流れは、1992年10月5日にアメリカ・ブッシュ政権時に成立し、1997年7月1日より施行された「香港政策法」(Hong Kong Policy Act/合衆国法典第22編第66条)による優遇措置の影響が非常に大きい。
・Office of the Law Revision Counsel UNITED STATES CODE
なお、香港の税制は、このようになっている。
・JETRO
●北海道の森林は資金洗浄されたカネで買収されている
林野庁(農林水産省)の調査結果を見てみると、北海道の不動産を買収しているのは「中国(香港)」の個人がダントツで多く、次いで「英領ヴァージン諸島」の法人となっており、その法人はペーパーカンパニーである可能性が極めて高い。
・林野庁
外国資本による森林買収に関する調査の結果について(平成27年分)
外国資本による森林買収に関する調査の結果について(平成28年分)
反中界隈では、「中国政府・習近平が北海道の土地を買い占めて乗っ取りに来てるぅ~。(オロオロ)」との事だが、秘匿性の高いタックスヘイブンにおいて、買収された不動産の真の所有者が誰なのかを特定するのは難しい。中国政府と言い切る人は、どこでそんな情報を掴むのか?という事になる。
そして、日本における反日活動の資金源は、香港を経由している可能性が非常に高い。
●パナマ文書
2016年4月3日。秘匿性が高いはずのタックスヘイブンで、租税回避に関する一連の機密文書の内容が情報漏洩してしまった。
・MONEY VOICE(2016.04.21)
これまたタックスヘイブンの国であるパナマの法律事務所によって作成された文書である事から「パナマ文書」(Panama Papers)と呼ばれ、2016年5月10日に正式公開された。
リストには、1977年から2015年までの金融取引資料があった。大企業や富裕層ら著名人の名が多く連ねており、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立して、そこに資金をプールしている事がバレてしまった。日本の大企業や個人の名もあったようだ。
そして、その流出にはアメリカ国際開発庁(USAID)と、ジョージ・ソロスが関わっていると、ウィキリークスが暴露した。ps://twitter.com/ https://twitter.com/wikileaks/status/717458064324964352?s=20 wikileaks/status/717458064324964352?s=20
●反中嫌韓バカの番組にもこんなに輝かしい時代があったw
そう言えば、2016年4月30日に、「チャンネル桜」という番組で、タックスヘイブンなど今回のテーマに近い内容を配信していた。今ではすっかり反中嫌韓バカの筆頭となってしまった番組だが、この回はなかなか突っ込んだ内容だったので、紹介しておきますw
・チャンネル桜(2016.04.30)
現在の日本において、法人税の基本税率は23.2%(2018年)、所得税の最高税率は45%(課税所得4000万円以上)となっている。
・財務省
日本共産党やれいわ深圳組信者など一部界隈で、「儲けている大企業から税金(法人税)をもっと取れ!」という声があるわけだが、もしそうなったら、タックスヘイブンやペーパーカンパニーを巧みに利用しようとする大企業が現れるかもしれないよw
そうならないように、前述の「国外財産調書制度」「国外転出時課税制度」「タックスヘイブン対策税制」といった"網"を敷いてはいるけど、まだまだ課題も多く、先に「法の支配」によって固めて、「租税回避の防止」を更に強めていくのが先決なのではないか。
それに何より、国民の暮らしを視点にして考えるのなら、法人税や消費税よりも、所得税の減税をしたほうが一番効果がある。
確かに消費税の減税や廃止は、国民に与えるインパクトは大きいが、給料自体が上がるわけではなく、消費マインドが突き動かされるかどうかは分からない。
●2019年のG20
2019年6月に福岡と大阪で行われたG20で議論された内容が非常に重要である。G20で議論されたメインテーマは、「租税回避」の規制と、「金融犯罪」(資金洗浄、テロ資金供与など)の対策である。
そのタクトを振ったのは議長国・日本である。つまり、森羅万象すべて担当するアベである。国家間の結束を強め、インド太平洋戦略により「法の支配」を強め、「デジタル課税」を国際的に推進する。国際的コンセンサスを得る事もできて大きく前進した。
どおりで、度重なる課税逃れをしたり資金洗浄したりする連中が激しく抵抗したがるわけだ。俯瞰的に見ていくと、同時期に香港で起きた暴動テロの正体が見えてくる。これはまさに、G20での動きに激しく抵抗するという、金融屋の「悪足掻き」なのである。
利益を上げている企業が、適正な税金を払わずにタックスヘイブンで課税逃れをすれば、国家の税収は大幅に減少する事となり、結果としてそのシワ寄せが国民への税負担増加という事になってしまう。
「課税逃れをする企業の是正」と「資金洗浄されたカネの取り締まり」を期待したい。
・OECD
・財務省
20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)(2019年6月8-9日 於:福岡)
・財務省(2017.10.16)
・国税庁
税源浸食と利益移転(BEPS)への取り組みについて -BEPSプロジェクト-
・経済産業省
・財務省
・外務省(2019.06.29)
・JETRO