『白血病』という病名を聞いて、皆さんはどのようイメージを抱くだろうか。
私が一番に思い浮かんだのは、映画『世界の中心で愛を叫ぶ』である。
女子高校が白血病に罹患しながらも青春時代を過ごすストーリー。
その他にも私よりも少し前の世代ではあるが女優の夏目雅子さんや、歌手の本田美奈子さんの事を思い出した。
気持ちが重くなる。なぜなら“亡くなってしまう病気”のイメージしか浮かばなかったからである。
ただ、他にも思い返すと、最近で一人のスポーツ選手を思い出した。
水泳の池江璃花子選手である。
2019年に急性白血病を発症。当時18歳で水泳界のエースであり、ヒロインでもあった彼女の病気が発表された時は、日本中に激震が走り、テレビのニュースや新聞の一面は全てその話題となったのを覚えている。
発表時は絶望と思われていたが、彼女は奇跡を起こす。約1年で完治させ、その1年後には水泳の日本選手権でも入賞。その後は、東京オリンピックにまで出場を果たした。
この病状の経過を思い返すと、なんだかとても心強くなった。
妻と骨髄検査の結果を待つ私。
少しすると妻が子供2人を連れて到着した。
妻『大丈夫?』
平然を装うような声ではあったが、目線があまり合わず、妻の動揺を感じた。
私『もうすぐ結果が出て説明があるから、ここで座って待機しといてほしいって。』
看護士さんが用意した椅子に座る妻と5歳と3歳の息子。
息子2人はリュックサックを背負いながらニコニコして私に話かける。重大さにはこれっぽちも気づいてなく、まるでこれからピクニックにでも行くかのような雰囲気さえ感じた。ただ、その姿が逆に私の心を落ち着かせてくれた。
しばらくすると骨髄検査の結果用紙を持った先生が私と家族の元にやってきて、説明を始めた。
先生『今骨髄検査の結果が出たので説明します。結果としては急性白血病。中でも“急性前骨髄球性白血病”という病気です。』
風貌からもとても真面目そうな先生は、顔色や表情をほとんど変えずに話を続ける。
先生『白血球や血小板の数値が極めて悪い状態。今からすぐに入院してもらいます。』
私のゲン担ぎであった“あまのじゃく現象”の夢など簡単に打ち砕かれた。
更に先生は病気の詳しい症状や治療法を淡々と続ける。
先生『この“急性前骨髄球性白血病”ですが、白血病の中では比較的感知しやすい病気です。9割程の方は完治しますが、1割の方は亡くなってしまいます。特に最初の2週間の急性期の治療がとても大事で、この間に亡くなる方が多い。』
強弱や高低のない口調で、顔色も一つ変えず話す先生はどこか冷徹な人にも見えた。
平然を装っていた妻もポタポタと涙を流し始める。その姿を見ると、私ももらい泣きなのか、不安に思い始めたのか涙が溢れ始めた。
その姿を目にも止めず、更に先生は続ける。
先生『先程も言いましたが、今の血液の状態がかなり悪く“DIC”の状態になっているため、非常に緊急度が高い。この後、すぐに輸血を開始してもらいます。』
DIC(汎発性(はんぱつせい)血管内凝固症候群)とは極めて血液が凝固しにくくなっており、大きな出血があると止血できずにショック状態や心肺停止になりかねない、極めて危険な状態であるとのことであった。
そこから今後の治療法等の説明が続き、一通り終わると先生は席を離れた。
治療の同意のサインをしながらも横を見ると妻は涙を流していた。5歳の息子も何かいつもと違う空気を感じたのか、真面目な顔で妻の顔を覗き込む。
そんな家族の姿を見て、申し訳ない気分と不安な気分が重なり合い、私の目も潤んでしまう。
『9割治るから大丈夫だよね?』という気持ちと『とはいえ、1割は亡くなってしまう。しかも今のかなり悪い血液の状態。本当に大丈夫なのかな…。』
淡々と話す先生の事を思うと、心がざわつき、不安を抱えながらもベッド上で肩を落とす私であった。
続く…。