長暦三年(1039年)十一月しもつき六日,わたしは三十二になっていました。
みなさん,わたしの宮仕え初日は,ぼうっとしてしまって,何が何だか訳も分からぬままに終わりましたけれど,
考えてみますと,田舎住まいの気持ちであれば,却って決まり切ったような田舎の生活を続けるよりは,
面白いことなどを見たり聞いたりして,気持ちも慰められるだろうと感じることは時々あったのですね。
けれども,実際に内裏に参上申し上げましたら,内向的なわたしの性格からか,たくさんの女房がたの内での居心地はたいそうきまりが悪く感じてしまって,
この先も悲しいに違いないようなこともあるのでしょうねぇ,と思いますけれど,今となってはもう仕方が無いのですよね。。
(「悲しかるべきこと」 口語要約文と段付け,「」タイトルはfiorimvsicali。)
「里びたる心地には,なかなか,定まりたる里住みよりは,
をかしきことをも見聞きて,
心も慰みやせむと思ふをりをりありしを,
いとはしたなく悲しかるべきことにこそあべかめれと思へど,いかがせむ。」
【更級日記,菅原孝標女すがわらのたかすえのむすめ 原作】