長元九年(1036年)九月ながつき二十二日,わたしが二十九の時。
これが生涯最後の別れの際(きわ)だよ,と父がわたしに言って聞かせたときの悲しさはもちろんのこと,
更に今度,無事に帰京するのを待ちに待ち受けたという喜びも嬉しい限りでしたけれど,また更に父が,
「他人の身の上でも見てきたのだが,老い衰えて世間に出て任官したと言うことが差し出がましく,ばかばかしいと分かったから,この後はこれまでとしてわたしは隠退してしまうべきだと思うのだ。」
とばかり,残りの人生が無さそうに年齢を考えて言っているようなので,わたしは心細さを感じてしまって堪りません。。
(「残りなげに世を思ふほどは」 口語要約文と段付け,「」タイトルはfiorimvsicali。)
「これぞ別れの門出と言ひ知らせしほどの悲しさよりは,
平らかに待ちつけたるうれしさも限りなけれど,
「人の上にても見しに,老い衰へて世にいで交らひしは,をこがましく見えしかば,われはかくて閉ぢこもりぬべきぞ」とのみ,
殘りなげに世を思ひ言ふめるに,心細さ堪へず。」
【更級日記,菅原孝標女すがわらのたかすえのむすめ 原作】