音譜   ラブラブ   ドキドキ   ラブラブ   音譜


わたしは十八になりました。万寿二年(1025年)七月ふみづき二十六日。


       三日月   半月   満月   星   星空


明け方になってしまっただろうかと思われるような時間に,山の方から人々がたくさん来る音がしました。


のことかと驚いて外を見ると,鹿達が群れて縁側の側まで来て鳴いていました,その声は近くで聞くと親しみが感じられないような声でした。

 

秋の夜の妻を恋しがって我慢できないでいる鹿の鳴声は,離れた所の遠い山からの鳴声を聞くと良いものだと感じましたよ,近くでは風情も何もありませんでしたから。


 わたしの知人が近くの所まで来たのにそのまま帰ってしまったと言うことを耳にしまして,


まだ人の出入りも知らないような山の辺りの松風でさえも,松の木に風の音を立てて帰るものだと聞いていますから,その貴女が音沙汰無しで行ってしまうとは残念なことでしたね。


(「訪れざりし知りたる人」 口語要約文の編集と「」タイトルはfiorimvsicali。)





暁になりやしぬらむと思ふほどに,山のかたより人あまた来る音す。


驚きて見やりたれば,鹿の縁のもとまで来てうち鳴いたる,近うてはなつかしからぬものの声なり。
 

 秋の夜のつま恋ひかぬる鹿の音は遠山にこそ聞くべかりけれ


しりたる人の近きほどに来て帰りぬと聞くに,


  まだ人め知らぬ山辺の松風も音して帰るものとこそ聞け


【更級日記,菅原孝標女すがわらのたかすえのむすめ 原作】