万寿元年(1024年)七月ふみづき七日。
そうした時,四十九日なども過ぎていきまして,親族お一人の方の処から
「みまかったあなたの姉さんが生前に,必ずやきっと探して送ってほしいと仰っていたので,探してみましたが,その時には見つけられなかったのですが,折しも丁度今この時,先方の人が送ってよこしてくれましたのですが,本当に間に合わずじまいになって,心より残念なことです。」
と仰って「かばね尋ぬる宮」と言う悲恋物語を送って下さいました。
本当にわたしも残念なことと身にしみて悲しく暮れる気持ちになりました。そのお返事として,次のように送りました。
「これは苔に埋もれていないかばねのお話ですね。姉さんはどうしてそれを尋ね求めたのでしょうか。自身は今苔の下に埋もれてしまって,逆に物語の主人公から尋ね求められるようになってしまって,この上なく悲嘆の思いで居ることです。」
(「かばね尋ぬる宮」 口語要約文の編集と「」タイトルはfiorimvsicali。)
そのほど過ぎて,親族なる人のもとより,
「昔の人のかならず求めておこせよとありしかば,求めしに,その折はえ見出でずなりにしを,今しも人のおこせたるが,あはれに悲しきこと」
とて,かばね尋ぬる宮といふ物語をおこせたり。
まことにぞあはれなるや。返りごとに,
うづもれぬかばねを何に尋ねけむ苔の下には身こそなりけれ
【更級日記,菅原孝標女すがわらのたかすえのむすめ 原作】