ラブラブ   音譜   ドキドキ   音譜   ラブラブ


万寿元年(1024年)五月さつき十七日。


       クローバー   黄色い花   ブーケ2   ブーケ1   コスモス


最愛の姉さんが子供を産むとまもなくみまかりました。


乳母や権大納言殿の姫君様のように,よその人のご不幸でさえも小さい頃よりとても慕って愛しいと思い続けてきましたから,


まして肉親の姉さんのことであれば,言いようもないほどのことで,切なく悲しいと心より深く嘆かれてきてそれは仕方がありませんでした。


母など家族みんなは,みまかった姉さんの部屋に居て,わたしは忘れ形見として残った幼い子供達をわたしの左と右に寝かしつけていると,


壊れかけた板葺きの屋根の隙間から月の光が漏れてきて,子供達の寝顔に当たっているのが,青白くて大変に不吉に思われましたので,


わたしの着物の袖を覆い被せて,もう一人の子も引き寄せまして,これからどうなのだろうと先行きを思いますことは,とても悲しく心塞ぐばかりのことでした。


(「姉の旅立ち」 口語要約文の編集と「」タイトルはfiorimvsicali。)






「その五月の朔日に,姉なる人,子産みてなくなりぬ。


よそのことだに,幼くよりいみじくあはれと思ひ渡るに,


まして言はむかたなく,あはれ悲しと思ひ嘆かる。


母などは皆なくなりたる方にあるに,形見にとまりたる幼き人々を左右にふせたるに,


荒れたる板屋の隙ひまより月のもり来て,乳児の顔に当たりたるが,いとゆゆしく覚ゆれば,


袖を打ちおほひて,いまひとりをもかき寄せて,思ふぞいみじきや。」


更級日記,菅原孝標女すがわらのたかすえのむすめ 原作】