嬉しそうに支払いを済ませて
タクシーに乗り込む彼は
マンションに着くまでずーっと手をつないだままで。

これからのことを、考えると
ドキドキしすぎて吐き気がしてくるから。
今は、喉の渇きを癒す事だけ、考えよう。
冷たいビール、少し辛口のシャンパン。
泡がシュワシュワ~~~
それしか今は考えちゃダメだって。


カッラッポの冷蔵庫にビールを押し込んで
シャンパンは冷凍庫に…。
ぬるくなったシャンパンもこれですぐに冷えるだろう。

キッチンについて、簡単に説明しただけで。
彼女は引き出しを自由に開けて
食器やグラスを取り出し。
スモークサーモンとチーズをガラスの器に盛り付けている。
その流れるような動きに、目が離せなくなる。
輪郭を彩る髪色は明るいブラウンで
彼女が向きを変えるとサラサラと揺れる
柔らかそうなその髪そっと指でなでつけ
無造作に耳にかける仕草を目にして
「何か手伝おうか」
と近づいたのは

ただ、触れたくなっただけ。
「あとはチキン温めるだけだよ~、あっでもせっかくだからグラス運んでもらおうかな?」
と…彼女の髪を指で弄ぼうとして伸ばした手に
グラスが渡されてしまう。
「あと、サーモンも持ってってね」
と微笑んだと思ったら。

「なんか焦げてる匂いしないっ?ピザっ!!!」
と勢いよく、彼女は目の前から居なくなった。

焦る必要はない…。
しかし、なぜか調子が狂う。
いつもとは違う自分の反応に驚きながら
言われたとおりに皿を運びテーブルのセッティングを手伝う。
そして、もう料理なんてどうでもいいコトに気付く。
「シャンパンも冷えた頃だし乾杯しよう」
と音を立てて栓を抜きながらも
考えているのは『彼女のどっち側に座ろうか』だったし。
嬉しそうにグラスを掲げる彼女との距離を詰めながら
シャンパンを流し込むけれど。
絡み合った視線は、そのままで。
口に含んだ冷たい液体を
柔らかいキスとともに彼女に注ぎ込んで。
細やかな泡とすっきりとした甘味を、ふたり一緒に味わう。

「もうひとくち飲む?」
と再びシャンパンを口移しで与えると
こくこくと飲み下す彼女の動きがいとおしくて
思わず強く舌を絡め、吸い上げていた。
肩からうなじ、そしてそのまま背中を指で辿って
ブラウスの裾から中に手を差し入れ肌に触れる
それに気付いた彼女が
そっと身体を反らし距離を取ろうとしている。
…けど、させない。

両手を背中に回して強く抱きしめながら
ブラのホックを手早く外す。
なのに、離れようとするから…先を急ぎたくなった。
キスを続けながら、ボタンに手をかける。
指が微かに触れるだけで
息が漏れて…。


「シャンパン飲むっ」
と慌ててユキが言う。
少し時間が欲しかったからおねだりしてみる。
はだけたブラウスを合わせて
彼のほうを見上げると
「ん~~?」
って片方の眉を上げて、拗ね拗ね顔。

荒っぽく流れ込んでくるシャンパンが
くちびるから溢れ、雫は顎から胸元に落ちてゆく。
「もっとゆっくり~」
と言った彼女の言葉にふてぶてしく微笑んで
ユキが必死に前で合わせてるブラウスを強引に開くと
シャンパンの雫をゆっくりと舐め上げる。
胸元、鎖骨の下から首筋…まで上がってくる彼のくちびる
雫の落ちてないところにまで触れられて
時折チュっと音を立てるのはワザとでしょ?その度に
あたしの表情見上げてくるもん。
ダメだ。立ってられない。
声出しちゃうともっとドヤ顔されちゃいそう
その顔が好きすぎるから。
息を止めてる。
倒れこむように彼の肩に手かけて
その勢いで、あたしからキスしたのは。
これ以上、勝手にされたら何も考えられなくなっちゃうから。

「まだご飯も食べてないんだよ、ちょっと落ちつかなきゃ」
「なんで?」
「なんでって?お腹減ってるでしょ?」
「さっきまではそうだったけど、今食べたいのは~ユキw」
「っ!!!!」
「あたしはお腹減ってるんだけど」
「我慢できないくらい?」
「うん」
「…そっか、でも俺も我慢できないw」
って満面の笑みだよ、なにコレ?
言ってやったゼ的な顔!
笑っちゃうって。

「冷めちゃったけど、一切れだけ食べようよ」
ユキはソファー倒れこんで。
ピザを食べ始めた。
お腹減ってるっていうのはウソ。
でもこのまま終わっちゃうのはあっけなくて嫌だから。
どうせすぐに忘れられちゃうんだろうし…。
もう少し二人の時間を楽しみたかった
…ただそれだけなのです

喉に引っかかる乾いたピザを
温くなったシャンパンで飲み込む。
彼の重みで沈むソファー。
すぐ隣に座ってくるから
膝から太ももまで、ぴったりくっついちゃってるよ。
平常心、平常心…。
視線を感じてるけど、気付いてないフリ。
でも何かしていないと誤魔化せない状態なんです。
だから食べたくもないピザをもう一切れつまんでみる。
でそれとなく
「いる?」
って勧めたら、うんうん頷いてて…。
そのままじっとしてくれてればいいのに
彼は意味ありげに太ももに手をおいて
ユキの目の前に回り込む。
膝を着いて座り、彼女の膝を割って身体を滑り込ませて
彼女の持つピザを、手も使わずにくわえると
一口齧っただけで、残りを皿に戻す。

ユキを見上る視線はまっすぐで
やんちゃな口元からは楽しげな微笑がこぼれてる。
視線を外せないってコト、知っている顔。
肌蹴たブラウスを下から器用に引っ張りながら
ゆっくり体重をかけてくる。