目をつぶってただけ
眠ってなんか無いのに、見つめられてる気配を感じて
どうして良いか分らなかった。
どんな顔していいかもわからなかったから
じっとしてた。
髪を撫でられてまた鼓動が激しくなってきて…。
我慢できなくなって彼を見上げると。
側にはもういない…んだね。

ソファーに深々と腰掛けている。
明りが落としてあるから
彼がどんな顔してるかはここからは見えない。

汗ばんだ肌の感覚も、噛み付くよう求め合ったキスも
痛いくらいに抱きしめられたことも
夢の中の出来事だったの?
空気までもが濃密に纏わり付いてくる感じだったのに。
重い静寂に摩り替っている。

微かに身体を動かすと手首がヒリヒリと痛む。
触れると左手首が擦れて赤くなってる。

彼が結んだ紐の跡をそっと指で確かめながら。

夢じゃない。
って思ったら苦しくなった。
好きすぎて苦しい。
もっと欲しくて苦しい。

身動き一つしない彼を起こさないように
カオリはそっとベットから抜け出して。
テーブルに置かれたままの苺に手を伸ばす。
本当は彼がいいんだけど…。
今は我慢して
お腹を満たそう、赤ワインもそのまま置いてあるし。
パスタだって手付かずだし。
音を立てずにワインのコルクを抜くのには
気を使ったけど。
大丈夫、タプは眠ったままだし。
今からひとりで飲んじゃう!

グラスにゆっくりとワインを注いで。
グラスを回して~香りを楽しんだ後で、一口。

「ストップ!」

って、背後で急に声がするんだもん。
そりゃびっくりですよ。
「起こしちゃった?」

と振り返ると
「もともと寝てない」
ってすっごく不機嫌な顔してて
「じゃあ一緒に飲みなおす感じでしょうか?」
と自分のグラスを彼に突き出すと。
むっとした表情はそのままなんだけど
嬉しいんだよね?口元だけ笑ってて。
素直に受け取ってるし。
あたしが慌てて自分の分を注ごうとすると

「俺がする」
って注いでくれるから大事にされてる気分なっちゃうよ。

グラスを重ねて一緒に一口味わって。
チーズを食べようとすると
すっごく見つめてくるのは何をして欲しいからでしょうか?
きっと、コレ食べたいんだよね?
なら素直に『あ~ん』ってしてくればいいのに
その距離感がそのままあたしと彼の距離なんだと思う。
「はいっ」
ってチーズを差し出すと。
うんうん頷いて嬉しそうにしてるから。
なんかもうどうでもいいやと思ってしまう。

さっきまでの重苦しさはなんだったのかと考えながら。
カオリはワインを飲み下す。

彼の差し出すフォカッチャを一口食べて
また、ワインを飲む。

考えるのは後にしよう。
ワインwと彼の楽しそうな顔を見ながら
今を楽しんでいよう。
彼の左腕の赤い跡がローブの袖からチラチラ見えるたびに。
『おそろいだ』
とドキドキしているの、気付かれないようにしなきゃ。