1. 鳥海山への道
標高2236m、秋田県と山形県の県境に位置する東北随一の名峰「鳥海山」。今回は鳥海山への道を紹介したいと思います。
富士山や岩手山などと同じ、大型成層火山(ほぼ同一の火口から噴火を繰り返すことにより、火口の周囲に溶岩および火山砕屑物・火砕流堆積物が積み重なり、それが層を成して火山体を形成)で、他の成層火山と同様「信仰の山」として有名です。
鳥海山は日本で「一番好き」な山で、新潟に来てからは毎年残雪を楽しんでいます。
私の「一番好き」は、10代の頃の自転車旅で出会った「その時」の感情に支配されているといっても過言ではないと思っています。
例えば名古屋の宇治金時(かき氷)が一番好きとか・・・居酒屋(お酒は飲んでいません)は帯広の「いろはにほへと」とか・・・
17歳の時、姫路~青森約1200kmを自転車で4日以内で走れるかどうかを、学食の定食(250円)を賭けて真夏(夏休み)にチャレンジしたのです。1日目は調子が良すぎ、張り切りすぎたこともあって、体中がつりまくり(今考えると熱中症)、2日目は糸魚川(予定:柏崎)までしか到達できず、3日目は鶴岡(予定:象潟)どまりで体はボロボロでした。残りは375km(当時は350kmくらいの意識)でしたが、鶴岡駅の野宿で体力回復(なんでやろ?)、爽やかな気分で走り出して目にしたのが「鳥海山」でした。日本に、こんな美しい山があったのか・・・鳥海山の魔法にかかったのか・・・ひ・と・め・ぼ・れ
下の写真は国道7号線(三瀬付近)から見た鳥海山。
国道7号線は新潟市~青森市559.6km(江戸時代は羽州浜街道・羽州街道)で、全線が国道7号として指定されたのが昭和27年でした。高速道路と同じく、他の幹線道路と比べて遅いですね・・・
4日目、鳥海山で勇気をもらって、無事4日で青森に到達。
賭けでおごってもらった250円の定食は250万円の味がしました。
しかし、こんなばかばかしいことをよくやっていたもんだと思うのですが、オッサンになってから現地で思い出にふけるのも悪くはないかな・・・
下の写真は、当時はなかった日本海東北自動車道(日東道)から見る鳥海山です。日東道も無理な工期で建設しているから凸凹道路になっています。は、新潟市江南区の新潟中央JCT から、秋田市の河辺JCTへ至る高速道路でE7というナンバーが与えられています。日東道は東九州道などと同じで、事業方式の違い(NEXCO・新直轄)で複雑な料金体系となっています。最初の開通は1997年に山形自動車道として庄内あさひIC ~ 酒田IC間が開通しています。その後もちびちびと開通を繰り返し、ようやく全線開通が見えてきました。全長6022mのあつみトンネルは、最近まで東北No1長大トンネル(道路)でした。現在は栗子トンネル(8972m)となっています。
鳥海グリーンラインから見る鳥海山です。鳥海山への道で有名なのは鳥海ブルーライン(鉾立口)ですが、今回は秋田県側を紹介していきます。
グリーンラインのハイライト、鳥海山へ向かう直線道路。毎年5月、ここに来るとアドレナリンが・・・
3年間の定点観測の写真です。雪の多さは2017>2018>2016でした。
下の写真は今回(2018.5.26)
下の写真は1年前(2017.5.21)
下の写真は2年前の写真(2016.5.22)
グリーンラインは地元の要望で秋田県が建設し、完成後は地元自治体に移管し、2005年の市町村合併で由利本荘市が引き継いだ「観光道路」です。開通時期はわかりませんが、高原の中を走るこの道路(秋田県道32号線由利原グリーンランド付近)、好きです。
2018.5.26の秋田魁新報の記事を見つけました。
2013年11月にグリーンラインで発生した土砂崩落事故(復旧工事中に5人死亡)のことです。2018年5月現在でも一部が通行止が続いていますが、5億2800万円をかけて復旧工事が本格化しているということです。
【当時の河北新報の記事を抜粋】
11月21日の午後3時20分ころ、秋田県由利本荘市矢島町元町能千坊の市道猿倉花館線の災害防除工事現場で土砂崩れが発生し、男女ら5人が生き埋め状態となりました。一部報道では、現場は秋田県由利本荘市鳥海町猿倉で、生き埋めになったのは3人だという情報もありますが、正しくは秋田県由利本荘市矢島町元町能千坊で5人が生き埋めのようです。土砂崩れ現場は通称「観光道路」と呼ばれる市道で、去年発生した土砂災害で通行止めになっていたといいます。
【更に】
土砂崩れした市道「鳥海グリーンライン」は観光道路としての重要性から、第三者委の提言を踏まえて復旧を目指す。
「観光道路」って、そんなに重要なのでしょうか?
迂回路はあるのに5億2800万円をかけて復旧する価値があるのでしょうか・・・・・
花立牧場公園付近です。
猿倉温泉から「猿倉登山口」に向かう道路。雪と緑のコントラストがなんともたまりません。
更に標高を上げていきます。このあたりで約1000mです。今回の目的地「祓川登山口」に向かいます。「祓川登山口」は標高1180mです。私が「鳥海山」を好きな理由がもうひとつあります。それはあまり「観光地化」されていないということです。
2. 山を楽しむために「道路」は必要か?
登山を楽しむ人ならなんとなく理解していると思いますが、2000m級の山の登山口は標高1000m付近が多く(3000m級は1500m~2000mが多い)、標高差1000mを歩くことが多いような気がします。なぜでしょうか?
富士山など、日本を代表する観光地で見られるように、戦後復興期に観光主導型の「開発」が進み、欧米のパークウェイを参考にして日本各地で「観光道路」(有料道路が多かった)が建設されました。それまでは、「生活」と「産業」のために建設された道路が、「観光」のためにつくられるようになったのです。経済的に豊かになり一家に一台クルマを持つようになり、良い景色を見るために、楽に標高を上げたいと思うのは自然な流れだと思います。ヨーロッパなんて楽々3000mまで手ぶらで行けちゃうのですから・・・
新島々から登山電車で上高地まで、上高地からロープウェイで槍ヶ岳まで簡単に行けたらいいな~
富士山のブルドーザー道路を舗装して頂上までクルマで行けたらいいな~
それでいいのでしょうか?
日本人なら、登山や自然派の方以外でも、嫌悪感があるのではないでしょうか?
道路を1本つくるだけで、自然環境及び社会環境に相当な負荷がかかります。(里地・里山では良い面もあります)
整備するにあたって費用便益分析を行い、道路が最大限の経済効果と地域活性化をもたらし、環境影響評価の結果、事業が可能になったとしても、新しい観光道路をつくるでしょうか?
比較的観光地化されていない鳥海山でも、観光主導型の「開発」の波が何度か押し寄せ、ブナの原生林の伐採や「鳥海ブルーライン」の建設などによって少しずつ美しい景観をむしばんできたと言われています。
昭和47年、山形・秋田両県にて「標高1200m以上は開発(無車道)を規制する」という「紳士協定」が結ばれて、高山帯の自然は比較的良好に保たれてきということです。その力となったのは地元である山形県や秋田県の鳥海山の自然を守ろうとする登山者の人たちの運動のみならず、全国各地からの「せめて鳥海山だけは、このままにしておいて」という自然を愛する多くの人たちの熱意があったと言われています。
幹線道路から山頂まで、アプローチの長い鳥海山ですが、時間がかかるからこそ素晴らしい自然とふれあえるのです。まさに「不便益」なのです。いざ、スノーボードを背負って頂上へ。
3. Mt.chokai 頂上へ
鳥海山は毎年ソロで登って滑ります。
毎年、この時期は30~40人の山スキーヤー・テレマーカー・スノーボーダー・雪山登山の方をお見かけします。スノーボーダーが一番少ないですね。
独立峰は、はじめから頂上が見えているので、登っても登っても頂上が遠いのです。この苦しみは登ったひとにしかわからない・・・
山頂への最後の斜面、傾斜は緩いように見えますが相当きついです。
4時間で山頂に到達。年々遅くなっている・・・早い人は3時間くらいで登っているようです。
遠くに月山が見えます。まだまだ雪はありますが、今シーズンはこれにて終了です。ひざを痛めて大変な時期もありましたが、大きなケガもなく無事今シーズンを終えることができました。
4. 鳥海山 木のおもちゃ美術館
2018年7月、秋田県由利本荘市の旧鮎川小学校に「鳥海山 木のおもちゃ美術館」がオープンします。東京おもちゃ美術館の活動が全国に広まっています。東北では2019年に花巻でもオープンする予定です。ちっちゃいお子さんがいる方は、是非お子さんを連れておもちゃ学芸員さんと遊んでみてください。大人も楽しめます。