日本人にとってラテンアメリカ社会は遠い存在である。関心の大半は日系人や現地に居住する日本人に対してであり、先日の小泉首相の歴訪の際も日系人社会
との交流が大きく報じられた。ペルーについても、日系二世のフジモリ大統領がかつて統治し、日本大使公邸占拠事件で多数の日本人が拘束された事件の印象が
突出している。
それに対して本書は、政治学の視点からフジモリ政権の性格を解明したオーソドックスな研究であり、世界的に見ても立派な内容をもつものである。
著者は、民主主義か権威主義かという体制分類よりも、政治秩序が制度化を欠いている点にペルー政治の特質があると強調する。この特質は一八二一年の独立以
来変わらない伝統であり、政党や組織が有力指導者の私党的性格をもち、庶民は指導者に大胆な問題解決を期待する人民投票的志向を有する。フジモリ政権も基
本的にはそうしたペルー政治の伝統の中から生まれ、また失墜したというのが著者の基本的観点である。
ペルーでは七〇年代末に軍政が行き詰まり、
一九八〇年に民政へと移行、同時に有権者の範囲が大幅に拡張された。しかし経済混乱やテロの増大に対して有効な対処を行えない既存の政治勢力への不満が
うっ積していた。少数派の日系人出身で、既存の組織に頼らずに民衆と対話したフジモリが大方の予想をくつがえして九〇年の大統領選挙に勝利した原因
を著者
はこのように分析する。
しかし大統領となったフジモリは、緊急事
態への対処という理由で強権的な政治
指導を行う。国際的には批判をあびたが、あ
る時期まで政権は国内での支持によって支えられていた。しかし深刻な危機を脱した時、大統領は長期的ビジョンを欠き、むしろ諜報(ちょうほう)部の有力者
モンテシノスへの依存
を強め、最後にはその関係が政権の命取
りとなった。
現地での観察と、広汎(こうはん)な文献調査
に基づく筆者の分析はあくまで冷静で説得力に富む。ペルーだけでなく、ラテンアメリカ、ひいては途上国政治研究の一つのモデルたりえる力作である。