あの頃の私は、壊れそうだった。


自分がなのか、何がなのか、はっきりとはわからない。

ただ、確かに何かが崩れていく感覚だけがあった。


息子たちは言った。

「〇〇君は帰ってくるって。大丈夫」


その声が聞こえていたのか、聞こえていなかったのかも覚えていない。

ただ、生きているだけのような私をよそに、

血の繋がらない父と子の絆が、静かに強く結ばれているように感じていた。


泣いても、落ち込んでも、

時間は何事もなかったかのように過ぎていく。

明日は、当たり前のようにやってくる。


私たちは、家賃の安い築数十年の古くて狭いアパートに、子どもたちと三人で引っ越した。

愛犬は父に預けた。


薄い壁。

どこか湿ったような匂い。

夜になると外の物音がやけに大きく響き、眠りは浅かった。

それでも、ここで生きていくしかなかった。


仕事に行っても頭はぼんやりしたままで、

何をしても現実感がなかった。


家では思春期の息子たちとの距離も難しく、

プライバシーなどない生活の中で、小さな衝突が増えていった。

お互い余裕がなかったのだと思う。


そんなある日、観月ありさの初ミュージカルの情報を知った。


チケットは取れなかった。

けれどファン仲間が一枚譲ってくれ、私は県外へ向かった。


日帰りの疲労など関係なかった。


観月ありさ、香取慎吾、山本耕史のトリプル主演

『オーシャンズ11』。


男性では一番好きな香取慎吾くん、

そして何よりも、私にとって眩しい存在である観月ありさちゃん。


二階席から見た舞台の光は、現実とは別の世界のようで、

止まっていた時間がゆっくり動き出すような感覚があった。

その姿は、はっきりと輝いて見えた。


――生きるのよ。私はちゃんといるよ。


ありさちゃんが、そう語りかけてくれているように感じた。


頑張れない。

それでも、ちゃんと生きよう。


そう思えた私は、また静かに日常へと戻っていった。