暗いことは 明るくならず、
明るいことは 暗くなる

蒸す季節の 遅い朝
気分の悪い目覚め
重すぎる薬剤は軽くしようも ない

じわじわと
意思と関係なく支配されてゆく
抗う自我と
委ねる妥協が
交錯し
また 一番安心する儀式を選ぶ

暗い部屋で眠れない、と
ライトだらけにした部屋から逃げて
闇のクロゼットに丸くなる
体は痛くなるけれど
思いがけない熟睡を得る

意識が置いていかれる
わたしは埋もれたまま
擬似的に明るくなろうとも
暗い所へ住みたいと、粘る
矛盾
誤差
不一致

蒸す季節の 遅い朝
渇望する朝の薬
そのためだけに這って起き上がる

昨晩書きなぐった詩篇を
机で見つけた
茫然と眺め

意味のわらからないまま
捨て置くのも気持ち悪いので
記して
闇の巣へ戻ろうか



『ふと思へば』

我に問ふ 田園たるや
いかばかりにか美しきかな
風に水 町に木々
ただ漠然と 思ふもの

さて空にあるは自由なり
いかような時もそれはあり
ないと言へば 無いものにして
あると言へば恒久にありて
それであるから田園と言ふ

ああ どこに ああ どこに


2016.6.15 廈淡

庭という 小さなすべて

土、草、石、砂、虫、
カビ、枝、木、花、池、川、歩道、
畑、野菜、果樹、野草、薬味、棘、風、雨、貝塚…

メダカ、金魚、アオコ、
クレソン、エビ、ヤゴ、ミズスマシ、
欅、桑、ブラックベリー、ブルーベリー、
柿、ネクタリン、パッションフルーツ、
かぼちゃ、ネギ、ディル、ミント、
ローズマリー、バジル、トマト、
茄子、キュウリ、トウモロコシ、
里芋、つくねいも、オクラ、ピーマン、
蕪、小松奈、丘わかめ、シシトウ、
モロヘイヤ、朝顔菜、ツルムラサキ、
蕗、ツワ、レモン、金柑、柚子、枇杷、
桜島小蜜柑、グミ、三つ葉、サフラン、
薔薇、パセリ、ニラ、グラジオラス、
チューリップ、アネモネ、クロッカス、
ラナンキュラス、ミョウガ、
山椒、ドラゴンフルーツ、てっせん、
月桂樹、椿、南天、野蒜、たますだれ、
ハイビスカス、ブーゲンビレア、セリ、
青蛙、カナヘビ、ヤモリ、蜂、
蟻、雀、シジュウカラ、ウグイス、
蝿、シロハラ、キセキレイ、つぐみ、
椋鳥、ジョウビタキ、アオサギ、
磯ヒヨドリ、鳩、コゲラ、蚊…
あとまだ、もうわからない、たくさん

カオス
狭い、無限

土のあるところ
水のあるところ

狭くて狭くて、
人なんか、いないようだ





そこへ 誰かがやってくる

ふやふわとしたものは、
うつつか夢か判らない
突如としてこれに襲われて、いま
眠気の中にいるようだ

そこへ 誰かがやってくる
なんの矛盾か気にせずに、
それと話をしたりする
笑ったり、或いは相槌をうち
それと話をしたりする
わたしは妄想か夢かしらず、
ただ なんとなく来たそれと、
話しを、している

ふー、ふー、という
規則正しい吐息が、聞こえ、
ああ、夢かな、と夢の中で思う

明るいようだ
昼間かな、それとも明け方か
ぼんやりと後ろを、
思考は横切っていったけれど
ここはまだ眠気の中のよう

そこへ 誰かがやってくる

わたしはまた、それと話をする
ふやふわとしたまま
たとえようのない、
束の間に得る充足感をちぐはぐと握ると、
ここにずっと居たいと思う
何かをば手繰り寄せながら、握ろうと
そうしていても
たあいのない話は続く

ああ、ここにずっと居たい
夢かうつつか、どうでもいい

ふやふわとした眠気は
突如としてやってきて
しらぬまに、ここの中だ、そして
いつも誰かがやってくる

得られぬものは甘美で、
充足感とは違うもの

は、と目を開いた時、
手に残されているのは、虚し さ
何か掴んだか握ってか、
していたはずだのに

心の中は、まだ眠気のさなか
ふやふわとした
誰かがきた記憶を反芻しつつ
虚空にわたしは、帰ってくる
それはつまり
何もかも消えてゆくという意味

また
誰かがやってくるまでを
待ち潰すだけのために
虚空にわたしは帰ってくる