薄明の世界 二十話
歳を重ねた猫で、尾が二股に分かれていることから、猫又と呼ばれ、妖力をその身に宿した猫又は、人をも食らうと言われている妖怪であった。
猫又と自称するこの黒猫の尾も、良く見れば二股に分かれている。ただ、それ以外に単なる猫と変わりはなく、むしろ愛嬌のある可愛らしげな目をしている。言葉を発しなければ、何と可愛らしいことか――などと称され、どこぞの娘にでも飼われていただろう。
ところが、口を利くことでここまで憎らしくなる。
不思議なものだ。
言語とは、人にだけ許された叡智というわけではないということだ。
止めていた足が無意識にぴくりと動く。宗庵和尚の下へ走らなければならない。その想いが、そうさせたのだろうと宗弦は思った。
そうだった。
「その話は後だ。いいか、これより禅清寺へ向かう。望みどおり、共に連れてゆくが……大丈夫なのか?」
「心配はいらねえよ。あんたに抱かれてるだけで俺ぁ満足だからよ」
思いもしない黒猫の言葉に、宗弦は気分を悪くする。
「気持ち悪いこと言うな」
「あんたは相当の法力を持ってるからな。てめえの傷を治すにゃ充分すぎるさ」
「おまえ……今から亡霊を払うと言うに、力を奪うとは……!!」
宗弦は激昂した。
その激しく高ぶった心が、いらぬ考えを頭の中に浮かんでくる。
この猫又は綾に関係あるのではないだろうか。そして、綾に飼われている猫又ではないだろうか、と。
「心配すんねえ。その亡霊を払う法力までは奪うつもりはねえよ」
「おまえ、それをどこで……」
「わずかな妖力の消費で、人間のそれとは比べ物にならねえ情報を手に入れることができる読心術でぃ。任せな。あんたに力を貸してやるよ」
「ふん、期待はしておかんよ」