薄明の世界 第十八話
「待てって言ってんだろうが! いててててっ」
足を引きずりながら後を付いてくる黒猫を宗弦は無視を決め込んで、禅清寺へ急ぎ走った。昨日今日出会った、人語を喋るような猫と、和尚を一緒に考えることはできない。比べようもなかった。
ただし、血も涙もない冷血漢でもない。
あやふやな優しさは罵詈雑言に等しい。やがては相手をゆっくりと奈落の底へ引きずり込むようなものだ。
じわじわとなぶり殺す。それこそが、中途半端な優しさの根底なのかもしれない。
そう――綾にそうしたように。
二度、同じ徹を踏むわけには行かない。
「他へ言ってくれ。ああ、そうだ。そこの角を曲がったところに飲み屋がある。そこに、お涼という人がいるから、私の名前を出して助けてもらえ。もう私の名前は知っているのだろう?」
「そういうわけにはいかねえんだ。あんたに助けてもらって、あんたと共にいなきゃいけねえんだ」
「何故だ」
「そうでなきゃ、俺は生きていけねぇ。目ぇつけられちまったからな」
「目をつけられた?」
宗弦は、そのまま聞き返した。
「沖浦家だ。やつら、あんたを捜してくれって俺に頼んだ挙句、殺そうとしやがったんだ」