薄明の世界 第四話
昼間、宗弦は呆然と外を歩いた。
どこに向かっているわけでもない。ただ、住まいである長屋に居たくなかった。
このようなことは初めてだった。綾と共に暮らした長屋を引き払わず、住み続けていたのは、彼女を棄てるような真似をすることができなかったからだ。
今は、居たくなかった。
外を歩けば、様々なものを見ることができる。
刀を差しながらも、みすぼらしい格好をした浪人らしき男が足早に歩き、どこかの商家の娘が煌びやかな着物を帯びて足音高らかに歩く。歩様は人それぞれ違えど、皆が皆生きている。
人生の目的を失い、死んだ目をして地べたに横たわり、身体を起こす気力を失った世捨て人ですら生きていることに変わりはない。
生きている、生きている、生きている。
死んでいるものなど、いるわけもない。
宗弦の足は無意識に、ある寺へと向かっていた。
禅清寺――。
かつて、宗弦がいた寺。
小坊主の時分から世話になり、僧として一人前になるまで住み込んでいた。
ここには宗弦の師である住職がいる。
寺の門前で、宗弦の足が動かなくなる。先へ進めないのではなく、先へ進んではならないと誰かに囁かれているようだった。
今更、どのような顔で住職に会えば良いというのだろうか。
破戒の罪を犯した宗弦を相手にするほど、住職も暇ではないだろう。この周辺では高僧と崇められている人物だ。
不肖の弟子を笑顔で迎えるほど、お人好しではない。ただ、慈悲深い人だ。
どうしても期待をしてしまう。
憮然とされてもいい。
師の顔を見たかった。
「そろそろ来る頃だろうと思っていた。入っておいで、宗弦」
その期待は現実のものとなった。
宗弦は夢を見ているような気分で、言われるがまま禅清寺の門を数年ぶりにくぐった。