ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演の今作は第81回ゴールデングローブ賞の作品賞、主演女優賞を受賞しており、3/11に開催される第96回アカデミー賞にも11部門ノミネートされています。
原作はアラスター・グレイの「哀れなるものたち」
あらすじ
舞台は19世紀後半ヴィクトリア朝時代のイギリス、グラスゴー。天才外科医ゴッドにより、身投げした女性に胎児の脳を移植され蘇ったベラ。身体は大人、中身は幼児のベラは、目まぐるしい速さで言語・知識を習得し成長していく。
ゴッドにより家に閉じ込められていたベラ。
最初はモノクロだったベラの世界は、旅に出ると同時に色を帯び広がっていきます。
無垢な子どもだったベラは知識をつけ、意思を持ち世界を知り、成長していきます。
次第にベラの顔つきがしっかりしていき表情の変化が顕著に現れるエマストーンの演技には感服せざるを得ない。
過激な描写とは反対にSFチックでメルヘンな独特の世界観。色合いが素敵で特に空が綺麗でした。
衣装も素敵でとにかく可愛い!!!
ヴィクトリア朝時代の雑誌を参考にしたり、素材も70年代のものを使用するなどかなりこだわっていたようです。
この作品では、一貫してフェミニズム的メッセージが描かれています。
父親のような存在であるゴッドはベラを一歩も外へ出さず支配下においてきた。自分の実験体、所有物であると認識していただろう。マックスもまだ何も知らないベラとの結婚をあっさりと決める。
ベラを旅へと連れ出したダンカンは、中身は子どもであるベラをグルーミングし都合良く性的に搾取している。ベラが知識をつけ、自我を持ち自己主張し始めると、思い通りにならず疎ましさを覚えたに違いない。
娼館では、性の自己決定が描かれるが実際に女性には選択権は無く利用され尊厳を傷つけられるだけであることがわかる。ここでも娼館を仕切るスワイニーに取り込まれ、金銭的に搾取される。この女性も現実に直面に諦めてきた被害者の一人でもあると感じた。
ベラが蘇る前の身体の持ち主ヴィクトリアの夫であるアルフィー。この男は残忍冷酷で、ベラを城に閉じ込め性器を切り取ろうとし、最後には殺そうとする。
女性は男性の所有物ではない、決して思い通りにもならない、誰の支配下にも置かれず自分自身で自己決定する。学びたいことを学ぶ。誰にも邪魔されることなく、成りたいものになる。
一人の人間として当たり前のことを投げかけていく。
倫理観の欠片もないゴッドの歪んだ愛。
ベラに飜弄され金までも失い精神がおかしくなったダンカン。
ヤギの脳を移植され「動物」となったアルフィー。
みんな哀れなるものたちであり、滑稽にすら思える。
ラスト、アルフィーにや動物の脳を移植した(正直ここはすごくスカッとした笑)ベラでさえ、物語序盤とは違った意味で哀れなのではないかと感じた。
どんなに知性や教養をつけても人は哀れであるが、それが人間味を出すのではないだろうか。
知力や自己を持っていないものは人間ではないのか。フェミニズム的主張と合わせ、人間の愚かさゆえの趣といったものも感じ考えされられた。