「PANIC IN」 スカパー! TVドラマ #6 | フィルム小僧のブログ

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 永野宗典監督は第5話「時をかける寅雄」と第7話「脱俺」。俳優としても第2話の「沈黙のコック」に出演したり、舞台の脚本や短編映画も撮っているマルチタレントだ。       
 新人監督と仕事をすると何時も感じるのだが、極端に難しい注文が多く、実現不可能な事が多い。此方もそれは出来ないと言いたくないのだが、状況的に不可能だと説明するしかない時もある。今回も条件を考えると撮影的に難しい事が多かった。
 「時をかける寅雄」は今の寅男、過去の寅男、未来の寅男が大家の奥様に恋する話。マキタさんの二役、三役でグリーンバックや画面分割で処理するショットが数多くあり神経を使った。          
 まず芝居のタイミングを合わせるため吹き替えの相手と芝居を固め、本人がOKになると衣装を変え、プレイバックの様にOKカットのセリフを現場に流し、タイミングを確認してからもう一人の本番に臨んだ。大半は上手く処理出来たが、昼間の戸外はよく見ると不思議な影の所も有る。今は編集技術が進み、分割ラインもショット中に移動できるので二人の関係位置は結構攻め込んだ。
「脱俺」は日焼けサロンの機械の中に寅男が閉じ込められる話で、撮影は実際の日焼けサロンのマシンと、美術部がマシンの中を作った。実際の日焼けマシンで出来たかも知れ無いが、長時間の撮影だとマキタさんに紫外線が影響する恐れもあり、セットを作った。監督はマシンの中でもキャメラ移動を望んでいたので、芯木に付けたGoProを移動車に乗せて動かし、見慣れない映像とマキタさんのお芝居で抱腹絶倒のショットとなった。出来上がった作品を見ると、マキタさんが一番伸び伸びと芝居をしている印象だ。
 この監督は普段が俳優として活躍しているせいか、作品すべて監督が好きなようにして良いと勘違いしているようで、スカパーから映画のようにとって欲しいとあった画調さえ私の知らないところで明るくするような事をしてくれた。作品は終局的には監督のものであるかもしれないが、スタッフがいてそれぞれの努力によって成立している事を忘れている。少しはその事も考えるのが監督という立場だ。

 SABU監督は第3話「霧の中の二人」と第8話「ラ・ムー」を担当。監督が俳優だった頃に近未来物の作品で御一緒した事があった。
 「霧の中の二人」は「ミスト」のオマージュで、設定は昼間の戸外の霧の中。監督の中では、どこか密閉された空間にフォグを充満させて撮影する構想だったが、それは全員の健康状態にも影響するし、霧の陰影をつくる事が難しいと思えたので、困った時のCG頼り。CGで何層もの霧を被せてもらい、それらしい雰囲気を作った。
 「ラ・ムー」は寅男と彼の人生を見守ってきた宇宙人のお話。考えてみれば宇宙人を撮影したのは初めて。宇宙人はゴムの様な被り物を着ていて、順光で照明をあてると造り物がバレて地球人になってしまう事が解った。何カットか撮影した後で此の事に気付き、それ以降は逆気味のライティングで宇宙人らしくした。
 SABU監督は2話とも絵コンテがあり、人物の配置から動きの方向、目線まで計算されて書かれていた。サイズは相談しながら多少は変化をつけたが、今までで一番綿密な絵コンテだった。

 今回ほぼ全編手持ち撮影が全体の半分の5話、Roninを使用したのが8割と監督の思考がフィックスから動くカメラになっているのを強く感じたし、軽いキャメラを選んで良かったとしみじみ思った。今年の冬は雨が多く、取りこぼした第1話のラストシーンが最終日の深夜。すべてアップした時、鈴木監督がみんなの前でビール片手に「Panic in!次は映画を撮るぞ!」と叫んでいたのが印象的だった。