
天湖女侠
英題:The Heroine of Tianhu Lake
製作:1988年
●今回の特集で取り上げている作品のうち、『武當』と『神丐』と本日紹介する『天湖女侠』は、長春電影製片廠(以下、長春電影と呼称)というスタジオで制作されました。
長春電影は中国吉林省にある映画会社で、その前身は満州国時代に設立された満州映画協会。満州映画協会は満映とも呼ばれ、当時満州を占領していた日本によって国策映画を作る会社として発足したそうです。
スタッフには日本人も多く、かの李香蘭を擁していた事でも知られています。満映は終戦後に操業を停止し、紆余曲折を経て中国の映画会社として再始動。『白毛女』(未見)を始めとした名作を世に送り出しました。
現在も長春電影は活動を続けており、成龍(ジャッキー・チェン)が主演した『1911』の製作にも参加。国策映画という形ではありますが、今も中国国内における娯楽産業の一翼を担っているのです。
本作『天湖女侠』はタイトル通りのレディースアクションで、敵としてフランス人や日本人が登場したりしますが、『武當』『神丐』と同じく国策映画じみた臭いは感じません。
ストーリーは秘宝争奪戦を描いた物語となっており、天湖という風光明媚な湖を舞台に様々な勢力が入り乱れ、そこにメチャクチャ強い暴れん坊の女傑・何燕(ショウブラザース作品に出演した同名女優とは別人?)が介入します。
この主人公がなかなか魅力的で、明るくお転婆で巨悪にも怯まず、ズンズンと突き進んでいく様は見ていて楽しかったです。彼女は師匠から猿拳と点穴を習っていて、さらに潜水や艦○れもビックリな水上移動(笑)まで見せていました。
その他の出演者に目立ったキャストはいませんが、何燕を助ける高潔な拳士に王建軍が扮しています。王建軍は北京武術隊において李連杰(リー・リンチェイ)とともに活躍し、数々のタイトルを獲得した武術の名手です。
彼は中国のみならず、香港や日本のスクリーンでも活躍。『片腕拳王2005』では黄家達と戦い、『ワル 正伝』では取り巻きの1人ながら段違いの動きを見せ、清水宏次朗と凄まじい打ち合いを繰り広げました。
『天湖女侠』においても彼は技量をフルに生かし、機敏な立ち回りで並み居る悪漢たちを退けています。もちろん主役の何燕も負けておらず、滑らかな立ち回りで堂々とした女ドラゴンっぷりを発揮。こちらの動きも悪くありません。
ちなみに本作の動作設計は中国武術八段の徐学礼ともう1人(字幕の書体の関係で判読出来ず)が担当。徐学礼はフランス人に組する中国側のトップも演じており、主役2人と何度か交戦しています。
しかし香港映画でもよくあるパターンですが、本作は物語が進むにつれて主要人物に犠牲者が続出し、作品の雰囲気が暗くなってしまうのです。
何燕は兄弟子の政府役人を殺され、秘宝の在処を知る唯一の存在であった師匠も失います。フランス人と日本人も秘宝を巡って対立した挙句に全滅。そして王建軍もどんでん返しの末に…という、死屍累々の結末を迎えていました。
私としては死人が出ない軽快な前半の雰囲気が好きだったので、暗いラストになってしまったのは惜しい限り。最後の王建軍の戦いも、ちゃんと地に足を付けたところでやってもらいたかったですね。
ところで本作の後半で、何燕が車夫に化けて敵に迫るという『ドラゴン怒りの鉄拳』まんまな展開があったのには驚かされました。李小龍は中国でも人気だったと聞きますが、こんなところでパロディを見掛ける事になろうとは…(笑
さて、月末に集中してしまった今回の特集も次でようやくラスト。あの香港映画の悪役スターが中国に渡り、とある日本人とタッグを組んで撮った衝撃のコラボ映画とは…詳細は次回にて!

神丐
英題:The Magic Beggar/Beggar Prodigy
製作:1987年
▼かつて李連杰(リー・リンチェイ)と共に北京武術隊に所属し、彼の先輩格として武術界・映画界の両方で名を馳せた1人の人物がいます。その名は王群(ウォン・クァン)…日本では馴染みのない方ですが、彼もまた実力派のスターでした。
『ジェット・リーの軌跡』では進行役として出演し、ワンチャイシリーズの亜流作品である『天地発狂』では堂々の主演として活躍。どちらも便乗作であり、特に『天地発狂』は完全な模倣品となっていますが、彼の見せる技量は本物です。
中国では『太極英雄』などのドラマの他、数々の功夫片に出演しました(残念ながら2008年に48歳の若さで逝去)。本作もその1つで、楊式太極拳の祖・楊露禅の若き日を描いた物語となっています。
■(字幕ナシで観賞したのでストーリーは多少推測が入ってます)
王群はさすらいの武術家(ただし半人前)。市場で狼藉を働く沈保平を止めようとするが、思ったよりも手強くて普通に敗北してしまう。
実はこの沈保平、陳家溝に居を構える武術門派・陳氏一族の人間であった。師匠から陳家の拳法を学ぶように言いつけられていた?王群は、何度となく一族の当主・徐元國に弟子入りを乞うが、先の私闘の一件もあり突っぱねられてしまう。
「ならば私は改めて修行を練り直し、再び貴方の元に馳せ参じます!その時にぜひご再考を!」…てな感じで武者修行に出る事になった王群は、自分に良くしてくれた凧売りの町娘に別れを告げ、別の道場へ身を寄せるのだった。
しかし、道場の主人が道場破りに呆気なく敗北したり、武林の争いに巻き込まれたりとトラブルが続発。遂には自刃しようとまで思い詰めるが、天の声(?)に諭されて再び陳家溝へと舞い戻った。
こうなったら意地でも陳氏一族の拳法を習ってやる! そう決意した彼は、聾唖の浮浪者に化けて接近しようと試みた。一時は冬の寒さで凍死しかけるも、陳氏の邸宅に保護されて住み込みで働く事となる。
幸い、徐元國らは王群のことをすっかり忘れていたため、彼は修行を覗き見て技をどんどん習得していく。また、その一方で一族に仇なす者を秘密裏に倒したりと、師となる相手への忠節も尽くしていった。
その後、色々あって正体がバレてしまうものの、正式に弟子入りを許される事となった王群。だが、今度は凧売りの町娘が病死してしまい、彼は悲しみに暮れながらも墓前で修行の成果を披露した。
そして長年の修行の末、ついに陳家溝から去る日がやって来た。ところが、そこにかつて陳氏一族と敵対し、片腕を落とされて姿を消した男が現れ……。
▲この作品は、「太極楊舎命[イ兪]拳」という武侠小説(著者は「武林」という語句を創作した巨匠・宮白羽)が原作で、実際に伝えられている楊露禅の逸話とはやや違うようです。
劇中では武林での争いなどサブエピソードが挟まれますが、基本的には真面目な功夫ドラマとして作られており、(ビジュアルで判断する限りでは)大きい破綻は見られません。
ただ、作りとしてはとても堅実ではあるものの、ややドラマチックさに欠けるきらいがあります。ヒロインの墓前で演武する所は良かったんですが、正式に弟子入りするシーンはちょっとサラっと流し過ぎかな…と思ってしまいました。
さて武術家がモチーフの作品となると、気になるのはアクションのクオリティです。本作では武術指導を主演の王群とともに、楊式太極拳の元となった陳家太極拳の陳小旺宗師が直々に担当しています。
劇中では陳氏の一人娘に扮した陳永霞(湖北省出身の武術家)らが立ち回り、太極拳のゆったりとしたイメージを払拭するかのような荒々しいバトルが展開! この手の作品には珍しく、足や腕が斬られるスプラッタな見せ場もありました。
そして王群は修行シーンをなかなか見せてくれませんが(おかげで前半の苦悩するシーンが空回り気味)、機敏な動作で蹴りを放ち、ラストでは少林僧っぽい姿の裏切り者と白熱した対決を演じています。
が、やはり本作も殺陣から演武っぽさが抜けておらず、ワイヤーや特殊効果の使い方もいまいち洗練されていません。確かに個々の動きは良いのですが、映画的な演出に適応しきっていないのです。
実は、特集の最初で触れた「激闘!アジアン・アクション映画 大進撃」誌によると、中国映画は政府によって検閲や上映禁止措置が行われ、そのたびに中国アクション映画の歴史は停滞を余儀なくされてきました。
香港映画では絶え間なく功夫片が作られ、アクションの表現方法が驚異的な進化を遂げています。しかし中国映画では、その流れが何度も止められた事で経験値が得られず、ゆえに武術とアクションの融合がスムーズに出来なかったのでしょう。
現在、この問題は技術の発展と香港側のスタッフ導入によって解決し、映画で十二分に武術を生かせるようになりました。しかし、武術とアクションの融合という命題に挑み、苦心を重ねた人々がいたことを決して忘れてはならないのです。
はてさて次回は、奇抜な女流アクションにまたまた中国武術界の精鋭が参戦! ちょいとスケジュールが厳しくなってきましたが(汗)、まだまだ特集は続きます!

京都球侠
英題:Soccer Heroes/Crazy Soccer
製作:1987年
▼皆さんお待たせしました。ここ最近は仕事疲れと夏バテが重なり、思うように更新ができない状況が続いています(汗)。なんとか今月中にこの特集は終えておきたいので、ギリギリですが頑張っていこうと思います。
さて今回紹介する作品ですが、こちらはなんとサッカーと功夫を融合した変わり種の武打片です。サッカーと功夫といえば『チャンピオン鷹』『少林サッカー』が有名ですが、中国でも同様のアプローチは試みられていました。
私はあまりスポーツに詳しくありませんが、中国では古くからサッカーが親しまれており、80年代は長らく不参加だったW杯に復帰して間もない時期に当たります。本作が製作された背景には、そういった事情が絡んでいるのかもしれません。
劇中でも初っ端から現役選手たちの写真が映し出され、続いて当時のFIFA会長だったジョアン・アヴェランジェ氏の御尊顔と、彼の言葉らしきメッセージが画面いっぱいに登場。内容はなんとなく察せますが、翻訳サイトに突っ込んで読んでみましょう。
”足球起源干中国、它在中国有着千年的歴史……(訳:サッカーの起源は中国で、何千年もの歴史がある――)”
…えっと、実際にジョアン氏はこんな発言をしたことがあるんでしょうか?(爆
■(字幕ナシで観賞したのでストーリーは多少推測が入ってます)
時は清朝末期。北京に駐留するヨーロッパ大使館(どこの国かはいまいち不明)の主宰により、西洋人同士が対戦するサッカー大会が開催された。
しかしサッカーを知らない中国の観客に対し、西洋人チームはボールを観覧席に蹴り入れるなどの侮辱行為を連発。ボールは来賓の政府高官にも当たり、一触即発の状況となってしまう。
その時、サッカーを学んだ経験のある張豐毅(チェン・フォンイー)が間に入り、見事なプレーで西洋人チームにボールを蹴り返した。とりあえず事態は収拾したが、先の騒動を重く見た政府はサッカーによるリベンジマッチを提案する。
高官たちは今回の一件を単なるスポーツではなく、国の威信を賭けた大勝負として見ていた。そこで彼らは兵士を鍛え、サッカーチームを選抜しようとするが、ルールを知らないので奇妙な訓練を繰り返すばかりだ。
一方、この事件に一枚噛むことになった張豐毅は、足が不自由な友人・孫敏と協力して独自にサッカー選手候補を探していく。
集まったのは大道芸人の兄弟、お調子者のスリ、荒くれ者の首領に元罪人などなど…。たびたび政府による妨害を受けたが、遊郭を経営する陳佩斯が後援者となり、西洋人チームのキャプテンの婚約者(ポーリーヌ・ラフォン)も協力してくれた。
が、物語は順風満帆とはいかない。張豐毅と孫敏の関係はギクシャクし、ポーリーヌは張豐毅に惹かれるがキャプテンとの仲は険悪に。更には、捕まえた政府高官によってチームメイトの1人が殺されるという、痛ましい事件も起きた。
さまざまな困難を乗り越え、練習を重ねた彼らは遂に運命の時を迎える。政府は自慢の兵士チームを出動させるが、まったくサッカーを理解していないため演武のような動きを繰り返し、試合にすらなっていない有様だ(苦笑
試合は0-6のボロ負け状態となり、西洋人チームは兵士チームを文字通りボコボコにしてしまう。そこへ見かねた張豐毅たちが参戦し、チーム総入れ替えという異例の後半戦がスタートする。だが、試合の結末はあまりにも痛切なものだった…。
▲実を言うとこの作品、あまり功夫については重視していません。確かに劇中では何度か立ち回りがあるし、試合でもアクション的な見せ場が存在しますが、試合を根底から覆すほどの要素になってはいないのです。
とはいえ、クライマックスの試合はなかなか楽しいものになっており、神功(念力)の使い手がボールを操ってゴールを決めまくるシーンは「流石にやりすぎだろ!」とツッコんでしまいました(笑
なお、本作のサッカー指導は60年代に選手として活躍し、撮影当時はコーチとして中国サッカー界を牽引していた曽雪麟氏が担当。おかげで試合は見応え十分ですが、選手の活躍に偏りがある(=活躍しない選手がいる)のは少し残念に思いました。
アクションシーンも僅かながら充分に健闘していて、中盤の大乱闘では大道芸兄弟の弟が大活躍するんですが、演じているのは『カンフー無敵』の王建軍! 彼の詳細については今後の特集で触れる予定ですが、ここでの動きは本当に俊敏です。
ただしストーリーについては消化不良な面があり、先述した張豐毅と孫敏の軋轢・張豐毅とポーリーヌの恋など、簡潔に描き切れていない点がいくつか確認できました。
また、ラストの沈痛な展開は賛否が分かれるところであり、私的には「これはこれでOK」なんですが…やっぱりハッピーエンドで締めて欲しかった気持ちもあります。
功夫片でサッカーをするというユニークな題材に、真正面から取り組んだ意外な佳作。『チャンピオン鷹』『少林サッカー』とは方向性が違うので、見比べてみるのも一興かもしれないですね。
次回は、またも本格的な武術映画が登場! 伝統ある武術の祖に、李連杰(リー・リンチェイ)と切磋琢磨した某武術家が扮します!

武當
英題:The Undaunted Wudang/The Wu Tang
製作:1983年
▼今や世界の映画市場を席巻し、ハリウッドをも脅かしかねない存在となった中国映画界。その勢いは止まるところを知らず、CGを駆使した大作映画がひっきりなしに公開され続けています。
アクション映画においても数多くの話題作が存在しますが、当方は香港映画にばかり執着していたため、中国アクションの過去や旧作功夫片についての知識はサッパリでした(苦笑
そんな私の一助となったのが、今年の5月に発売された「激闘!アジアン・アクション映画 大進撃」(洋泉社刊)です。この書籍は香港映画のみならず、中国・韓国・タイといったアジア圏全体のアクション映画が網羅されています。
無論、私の知りたかった中国アクション史についても触れられていて、武侠片の源流や何度となく政府の検閲が入った事など、詳細な情報が掲載されていました。
そこで今月は、にわかに興味が湧いた中国産の功夫・武侠片…それも『少林寺』以降に作られた未公開作に限定し、何本か紹介していきたいと思います。
この時期の作品は日本でも幾つか公開されており、『武林志』『三峡必殺拳』などがソフト化されました。しかし、日本上陸を果たさなかった作品の中にも隠れた名作・佳作があるはず! という訳で、今回の特集ではそうした作品に着目していく予定です。
■(字幕ナシで観賞したのでストーリーは多少推測が入ってます)
19世紀末の中国では日本人が幅を利かせており、主宰する武術大会で子飼いの空手家たちを暴れさせていた。
そんな中、高名な武當派の拳士・王曉忠が日本人の毒牙にかかり、弟子の林泉(広東省出身の女性武術家)・趙長軍(詳細は後述)・李宇文(広東省武術隊所属)・唐亞麗(陝西省武術隊所属)たちは雪辱を誓った。
程なくして趙長軍たちはリベンジマッチに挑み、勝負を有利に進めていく。が、敵が隠し持っていた暗器によって李宇文が死亡。故郷で帰りを待ちわびていた唐亞麗は落涙し、もともと体の弱かった林泉は体調を崩してしまう。
仲間たちの間に不穏な空気が漂う中、今度は林泉の後見人?だった臧治國が不穏な動きを見せ始める。政府の役人たちと接触した彼は、密かに日本人と結託。時を同じくして林泉たちを襲撃する謎の一団が現れ、趙長軍は真相を探るべく1人で出立する。
どうにか後を追おうとする林泉だが、刺客の1人・鞏鐵鏈から衝撃的な事実を知らされる。刺客を指揮していたのは臧治國であり、王曉忠を殺した張本人こそが彼なのだ…と。彼女は臧治國の元から脱出し、どうにか武当山へと辿り着いた。
自らを鍛え、全ての決着を付けたいと懇願する林泉の願いを聞き入れた道長・馬振邦(韓明男と共に武術指導も兼任…陝西省武術隊にて趙長軍を育て上げた中国武術界の重鎮)は、厳しい修行を施していく。
やがて修行を終えた林泉は、兄弟子を死に至らしめた日本人たちとの再戦に臨んだ。敵は臧治國一派を介入させるが、そこに趙長軍や唐亞麗たちが駆けつけ、今ここに最終決戦の幕が上がる! 果たして勝つのは正義か、悪か!?
▲本作は先述した「激闘!~」にも名前が挙がっていた作品で、恐らく『少林寺』のヒットに触発された製作サイドが「向こうが少林ならこっちは武當だ!」みたいな感じで作ったものだと思われます(爆
しかしキャスティングに抜かりはなく、李連杰(リー・チンチェイ)に対抗する主演格(正確には実際の主演は林泉なんですが・汗)として抜擢されたのは、彼と同時期に活躍した本物の武術家・趙長軍でした。
彼は10年に渡って中国武術界の王者として君臨し、獲得した金メダルの量は54枚を数えるという凄まじい経歴の持ち主。洪金寶(サモ・ハン)や甄子丹(ドニー・イェン)とも交流があり、現在は多数の武術団体や関係組織で要職に就いているそうです。
彼以外にも高名な武術家が多数動員され、本物の武当山などでロケーションを敢行。フォロワー作品としてはかなり頑張っている本作ですが、世界的な知名度では『少林寺』に随分と差を付けられています。
その原因はストーリーとアクションのそれぞれにあります。まずストーリーですが、本作は功夫片にありがちな復讐と特訓の物語を実直に描いており、一定の質は保たれていました。
ただし、あくまでエンタメに徹していた『少林寺』に対し、本作は作りがやや真面目すぎた感があります。臧治國へのトドメも地味だし、仇の1人である日本人もラストで死なずに逃げ出してしまうため、あまり爽快感が得られないのも難点といえるでしょう。
アクションシーンについては、趙長軍を筆頭とした武術家たちの動きは本当に素晴らしく、ラストの林泉VS趙秋榮(オランダ精武會という団体でMMAの指導をしている同名の人物がいるが本人かどうかは不明)などで、丁々発止の攻防戦が楽しめます。
一方でカット割りが粗雑で、戦っている人物の位置関係がおかしくなっていたりと、演出面においての不備がいくつか見受けられました。また、『少林寺』でも表演をそのまま持って来たような殺陣がありましたが、本作でもその傾向が強く出ています。
単独の功夫片としては良作の部類に入るものの、娯楽作としての魅力に乏しく、これで『少林寺』に対抗するのは無理があると言わざるを得ない本作。ギャグやお色気描写もまったく無いので、香港映画を見慣れている方ほど味気なく感じてしまうかもしれません。
さて次回は、趣向を変えてスポーツアクション映画が登場! 元彪(ユン・ピョウ)や周星馳(チャウ・シンチー)もビックリなその作品とは…!?

「ドラゴンヤンキー」
製作:2015年
●松竹倍ヶ原高校で無敵を誇る藤田佳秀は、他校との抗争で先輩の佳本周也や仲間を傷付けられてしまう。深手を負った佳本は姿を消し、場面は安田郁雄(武術指導も兼任)が主宰する世界最強格闘技塾へと移る。
この道場で武術の腕を磨いた武流巣利一こと玖導成近は、師範代の藤原喜明から「荒れた松竹倍ヶ原高校を正して欲しい」と直々に命じられた。玖導は学校へ通ったことすら無かったが、格闘技の腕前だけを頼りに学校へと向かう。
登校初日に知り合った留川真帆によると、松竹倍ヶ原高校は普通の学校などではなく、通っているのは名うての不良ばかり。戦いの勝者には金一封が与えられ、全校生徒が日々ケンカに明け暮れているというのだ。
さっそく玖導もその洗礼を受け、最初の腕試しで相手を一発ノックアウト。あっという間に注目の的となるが、学園長のみろはルール無用の格闘大会を開催しようとしており、不良たちは玖導を率先して潰そうと画策する。
一方、大会をよそに頂点を目指す玖導は、武器使いの教頭たち・留川・中国から来た項羽を次々と下し、ついに藤田との決戦を迎える。だが、戦いの中で学校に対して疑問を抱くようになり、物語は思わぬ方向へと進んでいく。
時は流れて1年後――玖導と藤田たちは協力して身を潜め、生徒を戦わせて金持ち相手の道楽に利用していた高校と戦っていた。そして黒幕はみろではなく、本当の敵が2人の前に立ちはだかるのだが…?
数えきれないほどの不良映画を作り出し、自らのプロダクションで若手俳優とともに戦い続けた佳本監督。その激闘は今も続いていますが、本作では李小龍(ブルース・リー)的な要素を散りばめ、アクション重視の作品で勝負に出ています。
ストーリーについても、冒頭の玖導と藤原による何処かで見たことのある問答、黒幕が主人公と同じ道場の出身者という設定など、『燃えよドラゴン』を意識した描写が幾つか見られました。
ところが、玖導VS藤田が終わった辺りから流れが変わり始め、物語が徐々に迷走してしまうのです。終盤は唐突かつ具体性のない描写が続き、登場人物たちも「何が何だかサッパリ」「訳が分からない」と発言するなど、混迷を深めていきます。
金持ち連中の存在や設定は台詞だけで片付けられ、殆どのキャラクターが何のために動いているのか解らず、学校を出た生徒たちの行方については完全に放置という有様。こうした描写の不親切さ、説明の不足には私も参ってしまいました。
ただし、格闘アクションにだけ集中して見るのであれば、本作は見事な立ち回りを構築しています。序盤は監督自らが派手な蹴りを放ち、玖導VS大村一隆軍団の激突はラストバトルにしてもいいほどのクオリティでした。
その後もハードな小競り合いが続き、玖導VS武器使いコンビでは体当たりのガチンコ勝負を披露。続くVS留川とVS項羽はやや地味(決着も説得で終わり)ですが、玖導VS藤田ではアクロバットな動作も交えた激闘が繰り広げられます。
そして終盤では、先の勝負では決着が付かなかった玖導VS大村のリターンマッチが勃発し、藤田と黒幕が対峙するのですが…残念なことに再び説得する展開に移行し、なんとも尻すぼみな結果となってしまうのです。
ここまで重要な局面のバトルが上質なものばかりだっただけに、ラストバトルもエンジン全開の肉弾戦で締めて欲しかったところ。とはいえ、全体のアクションレベルは決して低くないので、先述の対決だけでも一見の価値はあると言えます。
佳本監督は不良映画のムーブメントに乗り、自らが思い描くヤンキー像を突き詰め、激しい格闘アクションだけを武器に業界を渡り歩いてきました。
全国規模の劇場公開作品と比べると、氏の監督作は完成度という点において後れを取っている部分があり、それが大きな弱点となるケースも多々あります。しかし、佳本監督は怯むことなく作品を撮り続け、不良映画専業の監督として唯一無二の存在となったのです。
果たして今後も不良映画だけを撮っていくのか、それともベーシックなアクション作品を開拓するのか…現時点では何も解りません。ですが、不良映画とそれを求める人々が存在する限り、彼は決して戦いを止めようとはしないはずです。
今回の特集はこれにて終わりますが、佳本監督と若手俳優たちの活躍はこれからも続いていく事でしょう。そんな彼らにネットの片隅からささやかなエールを送りつつ、本稿の締めにしたいと思います。(特集、終わり)