ある夜、日本に帰ってから一度も見なかった彼の夢を見た
『由…ただいま。起きて…僕だよ』
そう言って優しくkissをし私を抱きしめた
朝、彼がいた頃のようにとても安らかな気持ちで目覚めた
その日から何度も彼の夢を見るようになり
「ちょっとソウルに行って来る」
と、以前ソンジェの事で相談に行った先生を訪ねた
「今日はどうされました?日本に帰られたと聞きましたが…また何か問題でも?」
「あの…問題と言えるのかどうか…日本では、生きる気力も無くしていた前と違ってご飯も食べるし普通に暮らしていたんです。それで彼との想い出をひとつひとつ書き始めたんです。そうしたら彼の夢を見るようになって…」
「夢に出て来てくれたのですね」
「ええ…それが…夢の中で彼は、生きていた頃のように優しく私を愛してくれるんです…そんな夢を見た朝は、彼の腕の中で目覚めていた頃のようにとてもやすらいだ気持ちになるんです。そんな夢をたびたび見るようになって…私…どうかしてしまったんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。ただ…日本で生活して少し落ち着いてきたのでしょう。彼との事を想い出として書き綴り想い出として認識しようとし始めたのですから…そしたら、閉じ込めていた彼への想いが溢れ出してしまったんじゃないですか?」
「この頃、ご両親の元へ送るのではなく“私の所へ戻って来て”と、なぜ引き止めなかったんだろうと後悔する事もあるんです」
「またソウルに住まれたらどうですか?」
「でもそれは…」
「荒療治って知っていますか?」
「ええ」
「日本で彼との事を思い出すのではなく、彼との想い出が沢山あるここでひとつひとつ想い出として認識し、彼の死を受け入れられる様になるまで過ごされたらどうですか?」
「………」
「でも彼の事だから、あなたに逢いたくてまた戻って来たのかも知れませんよ」
社長に電話をかけ、ソンジェの部屋がもう売れたか確かめて不動産屋さんに鍵を持って来てくれるよう頼んでもらった
「イヤー助かりました…社長さんから電話をもらって。いい部屋なので何人か見に来たんですけどね…売れなくて困ってたんですよ」
と鍵を開けその人は恐る恐る中に入った
「大丈夫ですから」
と言ってはいるけど、何かビクビクした感じで
「大丈夫ですから」
を繰りかえし
「あれ?今日は何も起きない。変だな?いつもは、何か物が落ちたり急に水が出たり何も無いのに転んだりして…気味悪がって売れなかったんですよ。でも大丈夫みたいです。鍵お返ししますので」
と帰って行った
窓を開けた
一筋の風が部屋中を吹き抜けて行ったような気がした
すべての窓を開け、クロゼットの扉やバスルームすべての扉を開けて掃除をし必要な物を買いに出かけた
ソンジェとの想い出の部屋で一人食事をしていたら涙が溢れ、テレビを見ても何をしてもソンジェを思い出した
(泣かない…ソンジェと約束したもの)
涙を拭きいつもの様にソンジェの写真に今日一日の報告をし、おやすみのkissをしてベッドに入った
夢を見た
ソンジェが私の髪を撫でながら話している夢だった
『由…おかえり。やっと帰って来てくれたね。日本にも会いに行ったのに気付いてくれないから悲しかったよ。でも今夜からまた由と一緒だ。この部屋は誰にも渡したくなかったのに売りに出しちゃうから大変だったよ。でも売れなかったから良かっただろ?今日は疲れただろう…ゆっくりおやすみ』