ファッツ・ナヴァロ - ノスタルジア (Savoy, 1947) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ファッツ・ナヴァロ - ノスタルジア (Savoy, 1947)
ファッツ・ナヴァロ・クインテット Fats Navarro Quintet - ノスタルジア Nostalgia (Theodore Navarro) (Originally Released as '10 Inc. 78prm, rec.'47, including the compilation album "Nostalgia (Fats Navarro Memorial No.2)", Savoy, 1958) - 2:51 :  

[ Fats Navarro Quintet ]
Fats Navarro - trumpet
Charlie Rouse - tenor sax
Tadd Dameron - piano
Nelson Boyd - bass
 スタンダード曲のコード進行を借りてテーマ・メロディーを改作し、オリジナル曲を作るのがディジー・ガレスピー(トランペット、1917-1993)、チャーリー・パーカー(アルトサックス、1920-1955)らが確立したビ・バップ式作曲法ですが、原曲より名曲になった稀有なビ・バップ・ナンバーも数ある中でもこの「ノスタルジア」は名曲中の名曲で、これに並ぶのはホレス・シルヴァー作「スプリット・キック (Sprit Kick)」(スタン・ゲッツ・カルテット初演、アート・ブレイキー・クインテット『バードランドの夜』再演、原曲「あなたなしでは(There Will Never Be Another You)」)くらいでしょう。ナヴァロのこの曲の場合はビ・バップ時代に人気の高かったスタンダード曲「アウト・オブ・ノーホエア (Out of Nowhere)」のコード進行を借りてまったく新しいオリジナル曲に仕立てたもので、元の曲を知らない人でも聴きほれるほど楽しく美しい曲を見事な演奏で聴かせてくれる、モダン・ジャズきっての至福の2分51秒になっています。

 セオドア・"ファッツ"・ナヴァロ(1923-1950)はディジー・ガレスピーに続くビ・バップ最高のトランペット奏者で、クリフォード・ブラウン(1930-1956)の師に当たる人でした。ナヴァロはビ・バップ・ビッグバンドのタッド・ダメロン楽団所属でしたが、26歳で夭逝したナヴァロの生前はまだSPレコード時代だったため公式録音はSP(シュラック製の10インチ・78回転レコード、片面約3分台収録のシングル・レコード)ばかりではあるものの、数少ない自己リーダー名義のスモール・コンボ録音がこれです。メンバーは当時のダメロン・バンドからの親分ダメロンを含むピックアップ・メンバー(ダメロン、マイルスの「ハーフ・ネルソン (Half Nelson)」で名を残すネルソン・ボイド、そしてブレイキーにチャーリー・ラウズ!)ですが、趣味の良く控えめなダメロンの個性を反映してかバンドの一体感、メンバー同士の共感が感じられる素晴らしい演奏には感動を禁じ得ません。SPレコードの収録時間制限のため3分未満のコンパクトな演奏なのもキャッチーです。

 この曲は際立った名曲・名演ですから没後に同曲をタイトル曲にSPシングル集が編まれたのも納得で、とかく選曲やジャケットが雑で悪名高いサヴォイ・レコーズとは思えない、ベツレヘムやリヴァーサイドなどの優良レーベルにも劣らない素晴らしいジャケット(人気ない自然公園のベンチにポツンとトランペットと一輪の花、散らばった楽譜)も印象的です。原曲「アウト・オブ・ノーホェア (Out of Nowhere)」は1931年にビング・クロスビーとスミス・バリューの競作盤でヒットした曲で、AA'32小節ながらひねりの利いたコード進行にアドリブの工夫しがいのある曲で、ビ・バップのジャズマンに好んで演奏されました。もちろんストレート・カヴァーも多く、チャーリー・パーカーの愛奏曲でもありました。パーカーは、どちらかというとライヴ・テイクの方がのびのびと吹いているような気がします。
Charlie Parker Quintet - Out of Nowhere (Johnny Green, Ed Heyman) (rec.'47, from the album "Charlie Parker Sextet", Dial 207, 1950) - 3:55 :  

[ Charlie Parker Quintet ]
Charlie Parker - alto saxophone
Miles Davis - trumpet
Duke Jordan - piano
Tommy Potter - bass
Max Roach - drums
Charlie Parker Quintet - Out of Nowhere (rec.live.Dec '48, from the album "The Complete Royal Roost Live Recordings On Savoy Years Vol. 1", 2000) - 3:17 :  


Charlie Parker with Strings - Out of Nowhere (rec.50, from the album "Charlie Parker with Strings", Verve/MG C-675, 1950) - 3:11 :  

 パーカーに深く心酔し崇拝したジャズマン、エリック・ドルフィー(アルトサックス、フルート、バスクラリネット、1928-1964)はパーカー没後にプロ・デビューした遅咲きのジャズマンでしたが、ツアー先のラジオ出演の折に、現地ミュージシャンをバックにしたリハーサルなしの一発ライヴで痛快なヴァージョンを残しています。この曲ではアルトサックスを吹いていますからパーカーとの比較がしやすいのですが、パーカーを出発点にしてドルフィーが築いたスタイルは突拍子もないものでした。
Eric Dolphy Quartet - Out of Nowhere (rec.live.'61, from the album "The Complete Uppsala Concert", Jazz Door JD1253/54, 1993) - 12:44 :  

  パーカーより1歳年上の盲目のピアニスト、レニー・トリスターノ(1919-1978)はいわゆるクール・ジャズの開祖とされますが、ウェスト・コースト・ジャズ系のクール・ジャズとはまったく関係なく(シカゴ出身でニューヨークが本拠でした)、パーカーから学んだビ・バップをさらに過激にして原曲の跡形もない長いラインの即興演奏を提唱し、アルト奏者のリー・コニッツ(1927-2020)やテナー奏者のウォーン・マーシュ(1927-1987)、ギタリストのビリー・バウアー(1915-2005)らを内弟子に強烈なカリスマを発揮して、後年ビル・エヴァンス、セシル・テイラーに強い影響を与えたジャズマンです。次に上げるトリスターノのオリジナル曲はどれも「Out of Nowhere」の改作で、ナヴァロの「Nostalgia」とは対極にあるようなおよそ主旋律が浮かんでもこなければ、原曲の影も形もないアプローチですが、トリスターノは生涯このスタイルを貫いた人でした。トリスターノのこれらの演奏はミュージシャン・レベルの耳で聴いてようやく判別できるようなジャズの極限にある音楽であり、これらのヴァリエーションを初めて聴いて「アウト・オブ・ノーホェア」の改作とすぐに聴きとれるリスナーは少ないのではないでしょうか。また門下生ウォーン・マーシュはステージでこの曲を演奏中に心臓発作で急逝することになった、という壮絶なエピソードを残したでもあります。以下、トリスターノによる「Out of Nowhere」ヴァリエーション集はすべて必聴で、これらがすべて同じ曲を原曲にしているとは信じがたいほどです。
Lennie Tristano Trio - Blue Boy (Billy Bauer) (rec.'47, from the album "The Complete Lennie Tristano", Mercury 830 921-2, 1987) - 2:51 :  

Lennie Tristano Trio - Coolin' Off with Ulanov (Lennie Tristano) (rec.'47, from the album "The Complete Lennie Tristano", Mercury 830 921-2, 1987) - 2:53 :  


Lennie Tristano Quintet Featuring Warne Marsh And Lee Konitz - 317 East 32nd (Lennie Tristano) (rec.live.'52, from the album "Live In Toronto 1952", Jazz Records JR-5, 1982) - 7:03 


Lennie Tristano Trio - It's Personal (Lennie Tristano) (rec.'64-'65/'93, from the album "Note To Note", Jazz Records JR-10, 1993)  - 7:51:  


(旧記事を手直しし、再掲載しました。)