ラヴィン・スプーンフル - サウンドトラックス (Karma Sutra,1966/1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ラヴィン・スプーンフル - サウンドトラック・アルバム (Karma Sutra, 1966/1967)
ラヴィン・スプーンフル The Lovin' Spoonful - どうしたんだい、タイガー・リリー(オリジナル・サウンドトラック) Woody Allen's What's Up, Tiger Lily? (Kama Sutra, 1966) :  

Recorded in 1966, NYC & L.A.
Released by Kama Sutra Records Kama Sutra KLP/KLPS-8053, September 1966 / US#126 (Billboard)
Produced by Jack Lewis
(Side 1)
A1. Introduction to Flick (W.Allen, L.Maxwell) - 2:14
A2. Pow! (Theme From "What's Up, Tiger Lily?") (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:26
A3. Gray Prison Blues (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:04
A4. Pow Revisited (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:26
A5. Unconscious Minuet (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:05
A6. Fishin' Blues (Traditional arranged by J.Sebastian) - 1:59
(Side 2)
B1. Respoken (J.Sebastian) - 1:48
B2. A Cool Million (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:02
B3. Speakin' of Spoken (J.Sebastian) - 2:41
B4. Lookin' to Spy (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:29
B5. Phil's Love Theme (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 2:23
B6. End Title (J.Sebastian, J.Butler, Z.Yanovsky, S.Boone) - 4:06
[ The Lovin' Spoonful ]
John Sebastian - guitar, lead vocals, autoharp, harmonica, keyboards
Joe Butler - drums, vocals
Zal Yanovsky - guitar, vocals
Skip Boone - bass
(Original Kama Sutra "Woody Allen's What's Up, Tiger Lily?" LP Liner Cover & Side 1 Label)
ラヴィン・スプーンフル The Lovin' Spoonful - 大人になれば…(オリジナル・サウンドトラック) You're a Big Boy Now - Original Soundtrack Album (Kama Sutra, 1967) :  

Recorded in 1967, NYC & L.A.
Released by Kama Sutra Records Kama Sutra KLP/KLPS-8058, May 1967 / US#160 (Billboard)
Feature Film Directed by Francis Ford Coppola
Produced by Erik Jacobsen
All songs by John Sebastian
Arranged by The Lovin' Spoonful
(Side 1)
A1. You're A Big Boy Now - 2:28
A2. Lonely (Amy's Theme) (Instrumental) - 3:19
A3. Wash Her Away (From The Discotheque) - 2:31
A4. Kite Chase (Instrumental) - 1:21
A5. Try And Be Happy (Instrumental) - 1:04
A6. Peep Show Percussion (Instrumental) - 1:19
A7. Girl, Beautiful Girl (Barbara's Theme)  - 2:23
(Side 2)
B1. Darling Be Home Soon - 3:34 / US#15 (Billboard)
B2. Dixieland Big Boy (Instrumental) - 1:13
B3. Letter To Barbara (Instrumental) - 0:59
B4. Barbara's Theme (From The Discotheque) - 1:26
B5. Miss Thing's Thang (Instrumental) - 1:02
B6. March (Instrumental) - 2:28
B7. The Finale - 2:28
[ The Lovin' Spoonful ]
John Sebastian - guitar, lead vocals, autoharp, harmonica, keyboards
Joe Butler - drums, vocals
Zal Yanovsky - guitar, vocals
Skip Boone - bass
with
Artie Schroeck - Orchestra Arrangements 

(Original Kama Sutra "You're A Big Boy Now" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 今回でリーダーのジョン・セバスチャン在籍時、かつオリジナル・メンバー時代のラヴィン・スプーンフルのアルバム紹介は終わりになります。オリジナル・アルバム4作、プロジェクト作1作(次回ご紹介)、サウンドトラック・アルバム2作を聴き直して、改めてユニークな個性を持ったバンドだったんだな、と感じ入りました。ただしスプーンフルはロックバンドがシングル単位、楽曲単位で作品を制作していた時代のバンドだったため、筆者も聴き始めた当初オリジナル・アルバムは廃盤だったので、ラジオ番組用アセテート盤のような収録時間24分にも満たない全10曲入り(それだけに名曲揃いでしたが)の粗末なジャケットのオーストラリア盤廉価版中古LPを入手したのが最初でした。現在なら26曲収録のベスト盤CDが発売されていますから、オリジナル・アルバムよりもベスト盤CDで精髄を聴く方が集中して楽しめるでしょう。全7作のアルバムはそれから進む方が入りやすいと思います。(そういっておきながら、今回ですでにプロジェクト作以外のアルバム全作の試聴リンクをご紹介し終えるわけですが)。ジョン・セバスチャン在籍時かつオリジナル・メンバー時代で見逃せないのが2作のサウンドトラック・アルバムです。オリジナル・アルバム4作に対してサウンドトラック・アルバム2作、しかも2作ともセバスチャンとともに創設メンバーのギタリストで、セバスチャンに次いでバンドの中心人物だったザル・ヤノフスキー在籍中のオリジナル・メンバー時代の制作発表とあって、この2作のサウンドトラック・アルバムはよくぞ残しておいてくれたというべき作品です。発表順にサウンドトラック・アルバムと、セバスチャン脱退後のプロジェクト作を含む、ラヴィン・スプーンフルの全7作のアルバム年表を記しておきましょう。

『Do You Believe in Magic』Kama Sutra, 1965.11 (US#32)
『Daydream』Kama Sutra, 1966.5 (US#10/UK#8)
『Woody Allen's What's Up Tiger Lily?』Kama Sutra, 1965.9 (US#126)
『Hums of The Lovin' Spoonful』Kama Sutra, 1966.11 (US#14)
『You're A Big Boy Now - The Original Soundtrack Album』Kama Sutra, 1967.5 (US#160)
『Everything Playing』Kama Sutra, 1967.9 or 11 (US#118)
『Lovin'Spoonful Featuring Joe Butler / Revelation: Revolution '69』Kama Sutra, 1968.11 (US#-)

 イギリスでチャート・インしたのが『Daydream』だけというのが意外ですが、このうち『Everything Playing』でザル・ヤノフスキーが脱退しジェリー・イェスターが加入、1968年6月にジョン・セバスチャンが脱退して残留メンバーのジョー・バトラー、スティーヴ・ブーン、イェスターによってプロジェクト作『Lovin' Spoonful Featuring Joe Butler / Revelation: Revolution '69』が制作されます。つまり『What's Up Tiger Lily? (soundtrack)』は絶頂期のオリジナル・アルバム『Daydream』と『Hums of The Lovin' Spoonful』の間に制作・発表がされ、『You're A Big Boy Now (soundtrack)』はザル・ヤノフスキー在籍時の最後のアルバム(『Everything Playing』収録の先行シングル曲の時点ではまだザルが参加していますが)になります。スプーンフルにとっては変則的アルバムとはいえ、見逃せない理由はそこにあります。また『What's Up~』はウッディ・アレンの初監督作(三橋達也・浜美枝・若林映子主演の東宝映画『国際秘密警察・鍵の鍵』にアメリカ人俳優の撮り下ろしシーンを加えて再編集し、全く違う英語台詞をダビングしたスパイ映画のパロディ怪作)、『You're~』はフランシス・フォード・コッポラの無名時代の監督作(後年のコッポラからは想像もつかない青春コメディ映画)であることも注目されます。ラヴィン・スプーンフルが旬のバンドとして引っ張りだこだった上に、いかに器用で創作力に富んでいたかを示す、両作ともヴォーカル曲は少ないとはいえ、才気に満ちたサウンドトラック盤です。

 アルバムとしての性質は、『What's Up, Tiger Lily?』の方はおおむねスタジオ・ライヴの一発録りで、スプーンフルのライヴの雰囲気を味わえる貴重なものです。『Everything Playing』でザルとともにバンドを離れる前は、ラヴィン・スプーンフルのプロデューサーは第5のメンバーといえるエリック・ジェイコブソンが専属でしたが、おそらく映画サントラということから映画会社側のプロデューサーがプロデュースにクレジットされています。意図的に支離滅裂なパロディ映画という内容的から見て(つまりどのシーンにどの曲が使われてもいいわけです)、『What's Up~』のプロデューサー(あるいはスプーンフルの起用は、スプーンフルのメンバーと同じニューヨークのユダヤ系監督のウッディ・アレンによる指名だったかもしれません)は映画側のプロデューサーとして単に映画用にスプーンフルのスタジオ・ライヴ音源を依頼しただけでしょう。映画にはスプーンフルの演奏シーンも2か所ありますが、東宝との版権問題で日本では劇場公開も映像ソフト化も不可能になっています。ほとんどがインストルメンタルのジャム・セッションで主題歌「Pow !」を含めヴォーカル曲は数曲しかありませんが、インストルメンタル曲中「Lookin' to Spy」(おそらくタイトルはすべてサントラ盤にまとめられた際に、楽曲が使用されたシーンに合わせた後づけでしょう)はオリジナル・アルバム第3作『Hums of~』の隠れた名曲「Coconut Groove」の原曲となったもので、『What's Up~』全体が名盤『Hums of~』のリハーサル・セッションというべき位置づけもできる面白いアルバムになっています。

 一方エリック・ジェイコブソンのプロデュースによる『You're A Big Boy Now』は映画に即した、より本格的なサントラというべきで、全曲がジョン・セバスチャンの作曲の上に、大半がオーケストラ・アレンジによるインストルメンタル演奏で占められており、ヴォーカル曲はA1、A7、B1の3曲しかありません。いずれもスプーンフル単体の演奏ではなくスタジオ・ミュージシャンやオーケストラを加えたものです。しかしこの3曲はいずれも逸品で、軽快なA1は従来のスプーンフルらしい曲調の楽しい曲ですが、ノスタルジックでメランコリックなオーケストラ・アレンジが何度聴いてもはかなく美しい素晴らしい大名曲B1「Darling Be Home Soon」(この曲は青春コメディ映画らしく、映画のクライマックスのハッピーエンドにインストのマーチ・ヴァージョンとしても変奏されます)は『Everything Playing』の劈頭を飾る名曲「She Is Still A Mystery」につながっていくもので、曲想の先駆としては『Daydream』の「Didn't Want to Have to Do It」、『Hums of~』の「Coconut Groove」がありますが、これまでは簡素なバンド・アレンジだったものが壮大なオーケストラとの的確な共演でブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)やレイ・デイヴィス(キンクス)の最高の楽曲にも匹敵、または凌駕します。メランコリックなトータル・アルバム『Everything Playing』がザル脱退を受けたイェスター加入によって、セバスチャンがイェスターに引っ張られたばかりの作風転換ではなかったことがうかがえます。ただしこの作風はジェイコブソンやザルの指向していたスプーンフルのサウンドからは外れてセバスチャンのソロ楽曲と言ってよく、『Everything Playing』を最後にリーダーのセバスチャン自らバンドを脱退してしまったのも、すでにセバスチャン自身がスプーンフルに限界を感じていたからかもしれません。その始まりが「Darling Be Home Soon」という、セバスチャンの新境地を開いた大名曲だったと言えそうな気がします。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)