1曲だけかっこいいバンド~ザ・サード・パワー | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・サード・パワー - 白昼夢に迷って (ロスト・イン・ア・デイドリーム) (Vanguard, 1970)
Drew Abbott - guitar, lead vocal
Jem Targal - lead vocal, bass guitar
Jim Craig - drums, vocal 


 1曲だけ妙にかっこ良く心に残るバンドは多々ありますが、筆者にとってはこれがその筆頭に来ます。ザ・サード・パワーはミシガン州デトロイト出身のバンドで、デトロイト出身バンドといえばミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ホイールズという地元のロック・シーンの開祖となった大物(1964年デビュー、1967年解散)がいますが、'60年代末には急進的なプロト・パンク・バンド、MC5やザ・ストゥージズを輩出するとともに、ミシガン州フリント出身のグランド・ファンク・レイルロードが全米的な成功を収めています。サード・パワーは1968年に地元のインディー・レーベル、Baronからシングル「We, You, I c/w Show」を自主制作リリースし、MC5、イギー・ポップ(当時の芸名はイギー・ストゥージ)を擁するストゥージズ、グランド・ファンクに続いて、1970年にメジャーのVanguard Recordsからアメリカン・ルーツ・ミュージックの巨匠サム・チャーターズ(1929-2015)のプロデュースで1枚きりのアルバム『Believe』をリリースするもまったく売れず、1971年には解散しました。サード・パワーはギタリストのドリュー・アボット、ベーシストのジェム・ターゲルが半々の曲を書き、それぞれが自作曲ではリード・ヴォーカルを取っていたスリーピース・バンドでしたが、クリームかジミ・ヘンドリックス・フォロワーのようなジャケットに反してアルバム全体ではグランド・ファンク的な大味なパワー・トリオ・ロックにサイケデリック臭を残した作風ながら、ターゲル作の「白昼夢に迷って (Lost in A Daydream)」だけは流行から5、6年遅れのようなフォーク・ロック的曲調と、浮遊感と昂揚感、ストリート感覚に富んだ作風の傑出した曲で、のちのボストンの「More Than A Feeling」や「Don't Look Back」にも悠に匹敵すれば、グランジ以降のストリート感覚のあるアメリカン・ロック、特にフー・ファイターズなどを聴いた時にはまっ先に「ロスト・イン・ア・デイドリーム」みたいじゃないかと思ったものです。

 まったく商業的成功を収められなかったサード・パワーは、解散後にターゲルがたまたまボブ・シーガー(シーガーはMC5のローディー出身でした)の隣に引っ越したことから、ターゲルの紹介でアボットがソロ・デビューしたシーガーのバック・バンドに加わることになります。MC5のセカンド・アルバムのプロデューサーは音楽批評家のジョン・ランドーで、ランドーはのちにミッチ・ライダーの系譜にある労働者感覚のロッカー、ボブ・シーガーをロール・モデルにしながらブルース・スプリングスティーンのプロデュースを手がけることになります。ボブ・シーガーの国民的人気、十分ヒット実績を残したグランド・ファンク、パンクやミクスチャー・ロックの興隆のたびに再評価が上がる一方のMC5やストゥージズに対して、サード・パワーは'60年代末~'70年代初頭のガレージ・ロック~サイケデリック・ロックのマニアに、アルバム1枚で消えたバンドとしてひっそりと聴かれるに留まりました。筆者が聴いたのも片っ端からガレージ~サイケの無名バンドをハズレ覚悟で集めまくっていた時期で、当時はアナログLP時代でしたから、盤起こしのコピー盤ブートで出回っているバンドはそれなりに再評価の途上にあるのだろうと毎日のように仕事帰りに中古盤店を回っていた頃です(ブート盤LPは新品は高価ですが盤質やジャケットは粗末なため中古では叩き売り価格でした)。どんな無名バンドでもブート再発されるほどならやはり多少でも見所はあるもので、サード・パワーはこの1曲で忘れられないバンドになりました。1970年にはこの曲、そしてアルバム『Believe』はパンクやミクスチャー・ロックの先駆的存在どころか、'60年代を引きずったサイケデリック・ロックとしても'70年代型ハード・ロックとしても中途半端な、一発屋にもなれないバンドだったでしょう(全米アルバム・チャート194位)。巨匠チャーターズのプロデュースにもかかわらず(あるいはルーツ・ミュージックの大家チャーターズにはかえって手が余ったか)レコード会社も力を入れなかったようでシングル・カット曲すら出されませんでした。しかしデトロイト出身バンドらしく堅実な労働者的ストリート感覚を供えた演奏(ドラムスはやや軽いですが)で聴けるこの曲「白昼夢に迷って (Lost in A Daydream)」は、聴くたびにまるで乙女が尿意をこらえているような可憐な曲調、ミドルティーンに戻ったような感覚、甘酸っぱい少年的メランコリアをかき立てます。ぜひお聴きいただけたら幸いです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)