モップス - EXIT(イグジット) (Liberty, 1974) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

モップス - EXIT(イグジット) (Liberty, 1974)
モップス Mops - EXIT(イグジット) EXIT (Liberty, 1974)
'74年4月23日、東京中野サンプラザに於ける実況盤 "モップスさよならコンサート"より
発売・リバティ(東芝音楽工業) Liberty LTP-85014, 1974年7月5日
プロデュース: スズキ・ミキハル
ストリングス・アレンジ: 星勝
ヘッド・アレンジ: 三幸太郎
スペシャル・ゲスト: 深町純(キーボード)
全編曲: モップス
(A面)
A1. イントロダクション - 1:44
A2. モップス・ヒストリー Mops History : YouTube Mops History - 19:23

a) ウォーク・ドント・ラン / Walk Don't Run
b) 朝日のあたる家 / House of the Rising Sun
c) サン・フランシスコ・ナイト / San Franciscan Night ……B.G.M.
d) 好きさ、好きさ、好きさ / I Love You
e) サムボディ・トゥ・ラヴ / Somebody to Love ……B.G.M.
f) 朝まで待てない (阿久悠作詞/村井邦彦作曲)
g) パープル・ヘイズ / Purple Haze
h) 御意見無用 (いいじゃないか) (鈴木博三作詞/喰始訳詞/星勝作曲)
i) たどりついたらいつも雨ふり (作詞作曲吉田拓郎)
A3. イグジット EXIT (星勝作曲) - 2:25
(B面)
B1. わらの言葉 (喰始作詞/星勝作曲) - 10:30
B2. メドレー
a) 抱きしめたい / I Want To Hold Your Hand - 0:49
b) ブン・ブン / Boom Boom - 0:41
c) シー・オブ・ジョイ / Sea of Joy - 2:00
d) トゥ・ラヴ・サムボディ / To Love Somebody - 1:40
B3. ノーボディ・ケアーズ / Nobody Cares (鈴木博三作詞/星勝作曲) - 1:15
B4. 朝まで待てない - 1:40
※A2-c, e, B4はビクター音楽産業の好意により収録しました。
[ モップス ]
鈴木ヒロミツ - ボーカル、リーダー
三幸太郎 - ベース
鈴木ミキハル - ドラムス
星勝 - ギター、ボーカル
桐谷浩史 - キーボード
(Original Liberty "EXIT" LP Front Cover & Liner Cover with Obi)

 モップスのラスト・アルバム『EXIT』は1974年4月23日、東京中野サンプラザで行われた「モップスさよならコンサート」からのライヴ収録とスタジオ録音の新曲で構成された、ドキュメンタリー的性格の強い内容です。残念ながらA2「モップス・ヒストリー」の試聴リンクしかYouTube上にはありませんが、A面はデビュー曲にして代表曲「朝まで待てない」をストリングス・アレンジしたインストルメンタル曲A1「イントロダクション」から始まり、洋楽・GS時代のモップスの同期のバンドの代表曲にモップスの歴代代表曲のメドレーを鈴木ヒロミツのMCによるモップスの歩みを混じえてたどる20分近いA2「モップス・ヒストリー」、スタジオ録音のタイトル・ナンバーでA1のリプリーズとなるストリングス曲A3「EXIT」で終わり、B面は10分を超えるスタジオ録音のプログレッシヴ・ロック・オリジナル曲B1「わらの言葉」(リード・ヴォーカルは星勝)と「モップス・ヒストリー」の続きとなるB2「メドレー」、さらにオリジナル曲の代表曲B3「ノーボディ・ケアーズ」のインストルメンタル・ライヴ・ヴァージョンとデビュー曲「朝まで待てない」のライヴとデビュー曲音源のミックスのB4で終わるアルバムです。実際の解散コンサートとは曲順が異なり、LPフォームの収録時間に収めるためどの曲も短縮編集されているために完奏される曲はスタジオ録音の新曲B1しかなく、実際のコンサートでは完奏されていたはずのB面のライヴ収録曲はいずれも1コーラス程度に編集されています。A2の「モップス・ヒストリー」はバンドが傾倒していたアニマルズの「New York 1963 - America 1968」やゼムの「The Story of Them」を踏襲した楽曲メドレーとMCによるバンド・ヒストリーですが(A2-cの「サン・フランシスコ・ナイト」、A2-eの「サムボディ・トゥ・ラヴ」はモップス自身のデビュー・アルバムでの音源をBGMに鈴木ヒロミツのMCの方がフィーチャーされています)、会場の雰囲気は良くとらえているものの、どの曲もイントロや1コーラスが演奏されるだけなので、アルバムで聴く音楽作品としては不満が募ります。B面のライヴ収録曲もメドレーで1コーラス程度に編集されており、最終曲のB4「朝まで待てない」は2コーラス目からデビュー・シングルのビクター音源とミックスされてフェイド・アウトで終わってしまうので、家庭用映像ソフトが普及していなかった当時に本来ならドキュメンタリー映像として編集されたような映像サウンドトラックが、映像抜きでアルバム化されたような印象を受けるアルバムでもあります。

 プロデューサーは中立的な立場のメンバーが当たる、という合意でドラムスのスズキミキハルが担当しました。鈴木ヒロミツの弟ミキハル氏はモップス解散後、浜田省吾のマネージャー、プロデューサーになります。本作のライヴは演奏よりもMCが多いメドレーで、映像つきでドキュメンタリーならともかく音だけでは少々きついアルバムですが、全曲スタジオ録音でラスト・アルバムを作れなかったのは事実上の解散後では仕方なく、解散記念の意味で解散ライヴと新曲スタジオ録音を混在させた構成でした。モップスのアルバムには、英語詞ロックでは『ロックンロール'70』『御意見無用(いいじゃないか)』、日本語ロックでは『雨/モップス'72』『モップス 1969~1973』を残し、さかのぼっては未CD化・LP廃盤時代にアメリカの中古盤サイトで最高600ドル(80万円以上!)のプレミアで取引されていたデビュー・アルバム『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』があり、本作は解散を迎えたモップスのメモリアル・アルバムとしての意図によって制作されたものでしょう。星勝が手がけた井上陽水のような抜群なソングライターはモップスのメンバーにはいませんでしたが、それでも1974年まで7年間ものあいだ音楽シーンの最前線にメジャー・レーベルのアーティストとして存在感を維持し、現役感を保ったままアルバム9枚をオリジナル・メンバー(第2作でベーシストの村上薫が抜け、本作ではライヴで元ズー・ニー・ヴーの桐谷浩史、スタジオ録音で深町純がキーボードで参加していますが)で残せたバンドは当時モップスが唯一でした。どうしてモップスだけが生き残れたのか、たぶん本人たちも活動中は無我夢中でわからなかったに違いありません。鈴木ヒロミツさんは2007年に肝臓癌で逝去しましたが晩年まで歌唱力は衰えず、現在70歳を越えた他のメンバーも日本のポピュラー音楽界の重鎮となっています。本作はLPフォームの制限のため、スズキミキハルのプロデュース(編集)によってダイジェスト的な内容になっていますが、19時~21時40分まで2時間40分に及んだという解散コンサートの完全版のリリースが実現したら、'70年代前半の日本のロックの金字塔になるかもしれないライヴです。その発掘リリースが今なお実現せず、片鱗しかうかがわれないもどかしさがついて回るアルバムですが、それも時代の制限と思うと、本作を残せただけでもモップスは幸運なバンドでした。それだけになおのこと、もし無編集マスターが残されていたら、2時間40分の完全版『EXIT(イグジット)』の発掘リリースが待望されてなりません。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)