デシャノンさんのご近況 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

Jackie DeShannon (1943.8~)

 アメリカの女性シンガーソングライター、ジャッキー・デシャノンさん(1943.8~)は14歳で地元の地方局のラジオDJとなりローカル・バンドのシンガーとしてレコード・デビュー、ロカビリー時代に15歳(1958年!)でソロ・アーティストとしてデビューしたロックンロールの母のような存在です。デシャノンさん自身の公式X(ツイッター)の最新投稿によると今年2024年4月にはナッシュビルで行われる「カントリー・ミュージックの殿堂」入りの祝典に参加されるそうで、近影が添えてありました。それが上の画像ですが、とても現在82歳、今年の夏には83歳を迎える方とは思えない容姿です。ジャッキーさんはデビュー以降ずっとクリーンで健康的なアメリカン・ガールのイメージを自然体で貫いてきた人なので、何ともあっぱれな感じがします。ジャッキーさんは2011年には全米音楽家協会の「ソングライターの殿堂」入りしていますが、本来ならその業績とキャリアの長さにおいて、それこそビートルズやストーンズよりも早く「ロックンロールの殿堂」入りすべきだった人です。

 ジャッキーさんを一言で言うと、早すぎた女性シンガーソングライターでした。65年を越えるキャリアで、ジャッキーさん自身のヴァージョンでアメリカ本国でトップ40入りしたヒット曲は2曲しかありません。その代わりジャッキーさんの曲をカヴァーしたバンドやソロ・アーティストはトップ10ヒットやトップ3ヒット、No.1ヒットを次々と出しているので、例を上げればサーチャーズの「針とピン (Needles and Pins)」や「ウォーク・イン・ザ・ルーム (When You Walk in the Room)」、アーマ・トーマスやトレイシー・ウルマンの「ブレイク・アウェイ (Break-a-way)」、ブレンダ・リーの「ダム・ダム (Dum Dum)」、リック・ネルソンの「サンキュー・ダーリン (Thank You Darlin')」、マリアンヌ・フェイスフルの「カム・アンド・ステイ・ウィズ・ミー (Come And Stay With Me)」、極めつけはグラミー賞で最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞したキム・カーンズの「ベティ・デイビスの瞳 (Bette Davis Eyes)」など、枚挙にいとまがありません。特に原曲の良さもさることながらアレンジの勝利とも言える、1981年に全米No.1(5週間)かつ年間No.1ヒット、世界21国でNo.1ヒットになったキム・カーンズの「ベティ・デイビスの瞳」はグラミー賞最優秀楽曲賞史上現在に至るまで唯一女性ソングライターによる楽曲という記録を打ち立てています。にもかかわらずそれらの曲のジャッキー・デシャノンさん自身のヴァージョンはヒットしませんでした。
Marianne Faithful - Come And Stay With Me (Decca, 1965) :  

Kim Carnes - Bett Davis Eyes (EMI, 1981) :  

 デシャノンさんの自身のヒット曲と言えるのは、バート・バカラックから(ディオンヌ・ワーウィックのために書かれたもののディオンヌが録音拒否したため)提供された1965年の「世界は愛を求めている (What the World Needs Now Is Love)」(全米7位・カナダ1位)、1969年のデシャノンさん自作の「恋をあなたに (Put a Little Love in Your Heart)」(全米4位)の2曲、あとはせいぜい1963年にソニー・ボノ&ジャック・ニッチェ共作名義の楽曲を歌った「針とピン (Needles and Pins)」が全米84位ながらカナダではNo.1ヒットになったくらいです。この「針とピン」は1964年にサーチャーズが全米13位のスマッシュ・ヒットにしましたが、ソニー・ボノとジャック・ニッチェの共作というのは建前で、スタジオ・ミュージシャンとして関わったソニー・ボノが鼻歌で断片的に歌っていたのをプロデューサーのニッチェが楽曲にしようと提案し、ジャッキーさんがピアノで曲にまとめながら歌詞をつけたというのが実態で、女性歌手本人の自作では注目されないからとボノ&ニッチェの共作にされたということです。‘60年代には女性アーティストがパフォーマーとしては認められてもクリエイターとしては認められなかった、という事情を物語るエピソードで、本名シャロン・リー・マイヤーズのデシャノンさんが男女どちらの名前でもある「ジャッキー」に、アイルランド系の苗字の「デシャノン」を芸名としたのも、ソングライターとして性別・出身地不詳を名乗る方が当時は有利だったからでした。一方、デシャノンさんの1歳上のキャロル・キングも1958年にはポップス歌手としてデビューし、ソングライターとしては二十歳にしてティンパン・アレーの大御所でしたが(ビートルズさえデビュー・アルバムでキャロル・キングの「Chains」をカヴァーしています)、キャロル・キング自身がシンガーソングライターとして自作曲を歌って成功するのは1970年の特大ヒット・アルバム『つづれおり (Tapestry)』までかかりました。デシャノンさんがジャック・ニッチェのプロデュースを離れセルフ・プロデュース権を獲たのは1968年~1970年までかかりましたが、ロカビリー時代からのキャリアの古さとソロ・アーティストとしてのヒットの少なさからキャロル・キングの足元にもおよばないほど注目されませんでした。それでもレコード会社がデシャノンさんと契約し続けたのは、デシャノンさんのソングライターとしての力量とポップス歌手としての資質を買っていたからとされています。デシャノンさんの全アルバムをリストにしてみましょう。

[ Jackie DeShannon Albums Discography ]
(1) Jackie DeShannon (1963)
(2) Breakin' It Up on the Beatles Tour! (1964)
(3) Don't Turn Your Back on Me (1964)
(4) This Is Jackie DeShannon (1965previously album track compilation)
(5) You Won't Forget Me (1965, previously album track compilation)
(6) In the Wind (1965previously album track compilation)
(7) Are You Ready for This? (1966)
(8) New Image (1967)
(9) For You (1967)
(10) Me About You (1968)
(11) What the World Needs Now Is Love (1968, Singls compilation)
(12) Laurel Canyon (1968)
(11) Put a Little Love in Your Heart (1969) US Billboard # 81
(13) To Be Free (1970)
(14) Jackie DeShannon (Love) (1970)
(15) Songs (1971)
(16) Jackie (1972) US Billboard # 196
(17) Your Baby Is a Lady (1974)
(18) New Arrangement (1975)
(19) You're the Only Dancer (1977) US Billboard # 203
(20) Quick Touches (1978)
(21) You Know Me (2000)
(22) When You Walk in the Room (2011, songs newly recorded)
 オリジナル・アルバムとしてリリースされたのは上記の22枚になりますが、チャートイン・アルバムが3枚、それも81位・196位・203位とヒット作と呼べるアルバムはありません。Capitol/Liberty/Imperialから1994年にリリースされた、1958年~1970年までの代表曲に未発表テイク6曲を含む28曲入り決定版ベストCD『What the World Needs Now Is ...: The Definitive Collection』の詳細ディスコグラフィーには、他にも1962年に制作されながら発売中止になった幻のファースト・アルバム、1964年~1965年に業界内部でのみ配布されたオリジナル楽曲のデモテープ・アルバム5枚が記載されています。28曲入り決定版ベストCDに市販ヴァージョンとしては初収録されたこの曲など、アーマ・トーマスやトレイシー・ウルマンのカヴァーをしのぐ、これがデモテープかと驚くほどの完成度です。
Jackie DeShannon - Break-a-way (demo version, 1964) :  

 ジャッキー・デシャノンの名を高めたのは1964年の全米公演にビートルズの前座として全米を回り、かつビートルズに次ぐマージー・ビートの雄、ザ・サーチャーズが放った「針とピン (Needles and Pins)」(全米13位)、「ウォーク・イン・ザ・ルーム (When You Walk in the Room)」(全英3位)のヒットによるものでしたが、サーチャーズの両ヒットは先駆的なフォーク・ロックと言うべき斬新なアレンジながら、先んじてすでにジャッキー・デシャノンのオリジナル・ヴァージョンでも、一聴してプロデューサー、ジャック・ニッチェの師フィル・スペクター流のサウンド・メイキングながら、フォーク・ロックを予言するスタイルが打ち出されているのは驚くべきことです。当時デシャノンさんは若冠20歳にしてデビューから6年目、ブリティッシュ・インベイジョンに対してもオリジナリティを誇り得るシンガーソングライターでした。
Jackie DeShannon - Needles and Pins (Liberty, 1963, MV) :  

 Jackie DeShannon - Be Good Baby (Liberty, Single B-Side, 1965) :  


 2011年に「ソングライターの殿堂」入りしたデシャノンさんは現在は元ビートルズのメンバーとの親交を生かしてラジオ番組「ビートルズと朝食を (Breakfast with The Beatles)」のDJ活動を中心にされているそうです。入手の容易さも併せてお薦めしたいのは詳細ディスコグラフィーつき28曲入り決定版ベストCD『What the World Needs Now Is ...: The Definitive Collection』と、昨2023年に日本のインディー・レーベル、オールデイズ・レコードから8曲のボーナス・トラック(同時期のアルバム未収録シングルAB面)入りの全20曲で復刻されたセカンド・アルバム『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!(Breakin' It Up on the Beatles Tour!)+8』で、輸入盤28曲入りベストは1970年までのアルバムの全カラー・ジャケット写真つき、詳細な英文解説と完全ディスコグラフィーがつき、オールデイズ・レコード版は2023年現在までのジャッキー・デシャノンの全キャリアと全アルバムの日本語による詳細解説がついています。この2枚でジャッキーさんの‘60年代の代表曲や隠れ名曲はほぼ聴ける上にジャッキーさんの全キャリアを知ることができるので、2枚併せてお薦めします。ジャッキーさんについてはアメリカ本国での2大ヒット曲、1965年の「世界は愛を求めている (What the World Needs Now Is Love)」(全米7位・カナダ1位)と、1969年のデシャノンさん自作の「恋をあなたに (Put a Little Love in Your Heart)」(全米4位)は外せないので、末尾に引いておきましょう。まだ20代だった60年代と80代を迎えた2020年代で、クリーンなイメージのまま容姿も声質・歌唱力も変わっていないのは、デシャノンさんが一度もスター歌手として脚光を浴びる経験を経なかったからかもしれません。早すぎた女性シンガーソングライター、デシャノンさんについては65年を越えるキャリアの中であまりに触れるべきこと(例えばエルヴィス・プレスリーやエディ・コクラン、ジョージ・ハリソンやジミー・ペイジ、ブライアン・ウィルソンとの交友まで)が多いので、機会を改めてまた記事にしたいと思います。
Jackie DeShannon - What the World Needs Now Is Love (TV Broadcast, 2022) :  

Jackie DeShannon - Put a Little Love in Your Heart (TV Broadcast, 1969) :