ピンク・フロイド「エミリーはプレイ・ガール」(Columbia, 1967) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ピンク・フロイド - エミリーはプレイ・ガール (Columbia, 1967)
ピンク・フロイド Pink Floyd - エミリーはプレイ・ガール See Emily Play (Syd Barrett) (Columbia, 1967) - 2:53 :  

Japanese released by Odeon OR-1785, October 5, 1967



 ピンク・フロイドはアルバム未収録曲のこのセカンド・シングル(UK#6)とデビュー・シングルの「アーノルド・レイン (Arnold Layne)」(Columbia, 1967.3.10, UK#20)、デビュー・アルバム『夜明けの口笛吹き(旧邦題『サイケデリックの新鋭』) (The Piper at the Gates of Dawn)』(Columbia, 1967.8, UK#6)だけでいい、セカンド・アルバム『神秘 (A Saucerful of Secrets)』(Columbia, 1968.6.28, UK#9)から後はいらない、というリスナーも多いでしょう。「アーノルド・レイン」「エミリーはプレイ・ガール」、アルバム『夜明けの口笛吹き』当時のピンク・フロイドはギタリストでヴォーカリスト、ほとんどの曲を書いていたシド・バレット(1946~2006)がリーダーで、ごく短期間にその才能を爆発させていた時期の名作でした。初期シングルと『夜明けの口笛吹き』の録音はビートルズが『サージェント・ペパーズ』を制作中の隣のスタジオで行われ、アンダーグラウンド・シーンの話題のバンドだったフロイドのレコーディングを見にビートルズのメンバーもしばしば見学に訪れたと言います(ピンク・フロイドからの感化は1967年12月8日発売のビートルズの2枚組『マジカル・ミステリー・ツアー』に表れています)。しかし好事魔多し、LSDの常用で音楽的インスピレーションを得ていたシド・バレットは1967年後半にはLSDに起因する統合失調症により奇行が目立ち、ステージでも演奏不可能な(ギターも弾かず、歌いもせず、メンバーが呼びかけても茫然自失している)状態に陥ります。録音が完了していたシングル曲「Apples and Oranges」、「Scream Thy Scream」も、シドの病状悪化によってプロモーションが見込めないために発売中止になってしまいます。 

 デビュー・アルバムの完成直後から着手されたセカンド・アルバムの制作も難航し、フロイドはバンドごと親しい間柄だったギタリスト兼ヴォーカリストのデイヴィッド・ギルモアを正式メンバーに迎え、レコーディングはシドとギルモアを含む5人、ライヴはギルモアがシドの代役を勤めシド以外の4人というビーチ・ボーイズ(やはりリーダーのブライアン・ウィルソンがレコーディングのみに参加し、ライヴは他のメンバー+サポート・ミュージシャンで行っていました)に倣った方針として、1年がかりでセカンド・アルバム『神秘』を仕上げます。しかしシドの病状はスタジオ録音だけでも在籍を続けるのが不可能(『神秘』でも楽曲提供は1曲、参加曲は半数以下)なほど進んでおり、結局フロイドはシド以外の4人で活動し、シドはソロ・アーティストに転向させてフロイドのメンバーがプロデュースを協力する、という案配になります。シドを失ったフロイドは団結力を固め1作毎に充実したアルバムを作り上げることになりますが、シドはすでにソロ・アルバムのために集まったメンバーたちとすら演奏することが不可能で、ギター弾き語りのシドのデモテープにキーボードやベース、ドラムスをようやくダビングして2枚のソロ・アルバムをリリースしますが、そののち逝去まで完全に引退してしまいます。

 シド・バレットはごく短期間で煌めくような業績を残した天才肌のミュージシャンでしたが、ピンク・フロイドの本格的な出発点はシドに次ぐサブ・リーダーだったベーシストのロジャー・ウォーターズがキーボードのリック・ライトとドラマーのニック・メイソンとともにバンドの方向性を立て直し、バンドの新体制を担うに足る看板ギタリスト、デイヴィッド・ギルモアを迎えたセカンド・アルバム『神秘』でした。西ドイツの実験派ロック(クラウトロック)に対しても、フロイドの『神秘』は、フランク・ザッパ&マザーズの『フリーク・アウト』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』と並んでもっとも影響力の強いアルバムです。シド・バレット在籍時のピンク・フロイドは、サイケデリック・ロックとは言っても、いわばモッズ(ザ・プー、スモール・フェイセスなど)の延長にあるバンドです。筆者はシド・バレットのソロ・アルバム2作『幽玄の世界(帽子が笑う...不気味に)』『その名はバレット』も、フロイドの『神秘』『ウマグマ』『おせっかい』『原子心母』『狂気』『炎』『アニマルズ』も好きですが、やっぱり気合一発入れたい時はこのキラー・チューン「エミリーはプレイ・ガール」がいちばん鮮烈で、一気に万華鏡のような世界に引き込んでくれる、イギリス流サイケデリック・ロック最高の名曲だと思います。