サン・ラ - スペース・イズ・ザ・プレイス (Blue Thumb, 1973) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - スペース・イズ・ザ・プレイス (Blue Thumb, 1973)
サン・ラ Sun Ra - スペース・イズ・ザ・プレイス Space Is The Place (Blue Thumb, 1973) :  

Recorded at Streetville Recording Studio, Chicago, October 19 & 20, 1972
Released by Blue Thumb Records BTS-41, 1973
Produced by Alton Abraham & Ed Michel
All Composed and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Space Is The Place - 21:14 
(Side B)
B1. Images - 6:15
B2. Discipline 33 - 4:50
B3. Sea Of Sound - 7:42
B4. Rocket Number Nine - 2:50
[ Sun Ra and His Intergalactic Solar Arkestra ]
< collective personnel >
Sun Ra - piano, space organ
Akh Tal Ebah - trumpet, flugelhorn, vocal
Kwame Hadi (Lamont McClamb) - trumpet
Marshall Allen, Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, vocal
Danny Thompson - baritone saxophone, flute, vocal
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
Pat Patrick - electric bass, baritone saxophone, vocal
Lex Humphries - drums
Atakatun (Stanley Morgan), Odun (Russell Branch) - percussion
June Tyson, Ruth Wright, Cheryl Banks, Judith Holton - Space Ethnic Voices 

(Original Blue Thumb "Space Is The Place" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side A Label)

 このアルバムはサン・ラ・アーケストラのスタジオ・アルバム中、サン・ラを初めて聴く方にも、ジャズには馴染みのない方にも、現行CDの入手も容易で、楽曲・演奏ともにキャッチーな、もっともお薦めできる作品としてすでに何度かご紹介してきましたが、何度聴いても飽きない名作かつサン・ラ屈指の人気盤なので再度ご紹介いたします。このシリーズでは発掘盤(多くはライヴ盤)を含めて録音年代順にサン・ラのアルバムをご紹介してきたので数枚没後発掘の未発表ライヴ盤ばかりが数作続きましたが、ようやく数枚ぶりにサン・ラ生前発表の公式アルバムが出てきました。それが本作で、年代順にはこの位置に入るのです。サン・ラは1972年から1975年までの3年間大手ABCレコーズ傘下のジャズ・レーベル、インパルス!レコーズと契約していましたが、ABCレコーズでサン・ラの担当プロデューサーだったエド・ミッチェルがインパルス!ではなくABCレコーズ傘下でも大衆的な黒人音楽(ブルースやR&B)のレーベル、ブルー・サム・レコーズから発売したのが本作『Space Is The Place』です。本作は以前にも単発でもっともポピュラーなサン・ラの代表作としてご紹介しましたが、これはサン・ラのスタジオ・アルバムでも屈指のキャッチーでポップかつダンサブルで、しかもサン・ラ・アーケストラの本流からも外れない名作になりました。全5曲中新曲は3曲ですが(A1, B2, B3)このうちA1「Space Is The Place」と「Dicipline」シリーズのB2「Discipline 33」は1971年秋のヨーロッパ・ツアーからステージ・レパートリーになっており、旧レパートリーのB1(『Jazz In Silhouette』1959年録音・発表から)、B4(『Interstellar Low Ways』1966年リリース・録音1958年から)の新アレンジによる再録音もステージの定番曲でした。この2曲は何度も再録音されている代表曲で、初録音から15年を経て本作にも最新アレンジで収められることになりました。アルバム・タイトル曲「Space Is The Place」は白熱した演奏にアーケストラの歌姫ジューン・タイソンのヴォーカルをフィーチャーしたLPのA面全面を占めるスペース・ジャズ・ファンクのキラー・チューンで、本作以降サン・ラ・アーケストラのアンセムとなる代表曲です。この21分のタイトル曲のためだけでも中古CDで安く見かけられたらお勧めできます。B面4曲もまるでブルー・ノート・レコーズのハード・バップ・アルバムのようにわかりやすくかっこいいジャズが聴けて、これほど親しみやすいサン・ラのアルバムはそれほどないでしょう。とんでもない土星人の大冠をかぶったサン・ラを青バックで写したジャケットも実に雰囲気があって、おそらくアルバム・ジャケット用に特別なフォト・セッションが行われたサン・ラのアルバムはこれが初めてではないでしょうか。誕生日の贈り物やクリスマス・プレゼントにも向いています。

 本作が制作された由来は、元はといえば地方テレビ局からサン・ラ・アーケストラのドキュメンタリー番組の企画が持ち上がったことに発しました。テレビ番組の企画は流れましたが、むしろ発展する形でサン・ラとサン・ラ・アーケストラを実名で主役にしたオール黒人キャストのSF音楽映画の企画に拡大されます。それが映画『Space Is The Place』で、脚本も用意され監督も立てられましたが内容はサン・ラのアイディアでどんどん変更されました。当時は『シャフト』に代表されるブラック・アフロ・アメリカン・ムーヴィー・ブームで、本作もその流れにありました。サン・ラが映画の実権を握ったのは撮影途中からサン・ラ側のマネジメントが版権の50%を穫ることになったからで、つまり製作費の半分はサン・ラ側が負担してプロデュース権を得たのです。完成した映画はプレミア上映時には95分ほどありましたが、サン・ラによって不本意なシーンが削られ、1974年に最終的に編集されたヴァージョンでは70分強程度になりました。数回上映されたきり幻の映画になり、アーケストラのライヴのバック・スクリーンに抜粋上映される以外全貌は不明でしたが、1993年に初めてヴィデオ・ソフトが発売され、またブルー・サムからのアルバムとは別に映画用に代表曲を再録音したLP2枚組相当分のサウンドトラック録音がCD時代になって発掘されました。

 従来ブルー・サム盤の本作『Space Is The Place』がサウンドトラックと思われていた、このサン・ラ主演の映画の内容を簡単にご紹介すれば、音楽エネルギーで宇宙を旅する善なる黒人文化の伝道師サン・ラとそのアーケストラが地球に降りて音楽伝動を行いつつ、悪の黒人マフィアのネットワークを企てる敵と時空を超えたトランプ勝負に挑みます。サン・ラは勝利しますが、政府の秘密機関によって宇宙に強制送還されます。このシンプルなプロットの中にサン・ラ思想の伝道とライヴ・シーンが盛り込まれています。この映画はオリジナル・プリントもサン・ラによって短縮編集される前のプリントも散佚しているため、1993年のヴィデオ化以降のDVD化、上映用プリントもかろうじて発見された上映用フィルムによるものですが、次のリンクで現存しているヴァージョンの映画全編が鑑賞できます。
◎SUN RA SPACE IS THE PLACE MOVIE :   

 また、映画のサウンドトラックは前述の通りブルー・サム盤とは別に1972年10月いっぱいをかけて録音され、1993年の一連のサターン盤リイシューの際に発掘されてCDリリースされたものです。選曲はサン・ラのグレイテスト・ヒットと言えるものを最新メンバーのライヴ用ショート・アレンジで再録音したもので、もし当時ラジオ用スタジオ・ライヴをしたら同じような内容になったのではないでしょうか。1曲の演奏時間が短い代わりに多くの代表曲を再演した、入門編でもあれば、コンパクトにサン・ラ・アーケストラの全貌をまとめた演奏と選曲でもあります。またこの録音の全曲を含んだ映画構想があったことも推察され、当初から完全にサン・ラ側が映画内容の主導権を握っていれば映画『Space Is The Place』は現存フィルムよりもずっと長尺の作品に仕上げられた可能性もあったでしょう。また、このサウンドトラック盤はアーケストラの代表曲を選んであるといっても当時のライヴのセットリストや映画のコンセプトに合わせた選曲のようで、曲単位ではそつないのですがどの曲も演奏時間が短く選曲が総花的すぎて、核になる曲、芯になる流れに乏しく、スタジオ・アルバムとしては再録音によるコンパクトなベスト盤にはなっているものの、ブルー・サム盤(CDではインパルス!から再発売)『Space Is The Place』ほど強烈ではありません。ですが『Space Is The Place』がお気に召したら、こちらもついでに聴くと他のサン・ラのアルバムへの格好な見取り図になると思います。この『Soundtrack To The Film SPACE IS THE PLACE』はアルバム音源も全曲YouTubeで聴けますので、ブルー・サム盤『Space Is the Place』の背景にこのサウンドトラックによる映画があったことでも今回まとめてご紹介します。
Sun Ra - Soundtrack To The Film SPACE IS THE PLACE (Evidence, 1993) :  

Released by Evidence Records ECD 22070-2, 1993
All composed and arranged by Sun Ra
(Tracklist)
1. It's After The End Of The World - 3:25
2. Under Different Stars - 3:55
3. Discipline 33 - 3:22
4. Watusa - 7:11
5. Calling Planet Earth - 3:04
6. I Am The Alter-Destiny - 1:08
7. Satellites Are Spinning - 2:33
8. Cosmic Forces - 3:09
9. Outer Spaceways Incorporated - 3:00
10. We Travel The Spaceways - 2:28
11. The Overseer - 3:04
12. Blackman / Love In Outer Space - 16:53
13. Mysterious Crystal - 5:53
14. I Am The Brother Of The Wind - 5:54
15. We'll Wait For You - 4:11
16. Space Is The Place - 4:23
[ Sun Ra and His Intergalactic Solar Arkestra ]
Same as Blue Thumb BTS-41

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)