サン・ラ Sun Ra & His Arkestra - シンバルズ Cymbals (Evidence, 2000/Modern Harmonic, 2018) :
Hall Album previously unissued and planned for release as "Cymbals" (Impulse!).
Reissued by Modern Harmonic Records MH-8083 as the LP "The Cymbals / Symbols Sessions", April 21, 2018
Originally Released by Evidence Records as "The Great Lost Sun Ra Albums; Cymbals & Crystal Spears" Evidence 22217-1, 2000
All Composed and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Thoughts Under A Dark Blue Light - 16:31
A2. Land Of The Day Star - 3:57
(Side B)
B1. The World Of The Invisible - 6:51
B2. The Order Of The Pharaonic Jesters - 7:21
B3. The Mystery Of Two - 7:35
[ Sun Ra & His Arkestra ]
Sun Ra - erectro vibraphone [electronic], organ, Rocksichord keyboards (Featuring Solo on B2)
Akh Tal Ebah - trumpet (Featuring Solo on B3)
Danny Davis - alto saxophone (Featuring Solo on A2)
John Gilmore - tenor saxophone (Featuring Solo on A1)
Elmoe Omoe - bass clarinet (Featuring Solo on B1)
Ronnie Boykins - bass
Harry Richards - drums
Derek Morris - congas
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本作はサン・ラ没後発表の発掘アルバムですが、生前にリリース予定で完成されていたものです。録音時期ははっきりしておらず、2000年にサン・ラのサターン作品の復刻を手がけるエヴィデンス・レーベルから2枚組CD『The Great Lost Sun Ra Albums; Cymbals & Crystal Spears』の1枚として発売されました。カップリングされた『Crystal Spears』とともに1972年から2年間のインパルス!レーベルとの契約期間に発売予定アルバムとして完成したまま未発表になっていたもので、録音時期は1972年初夏とも1973年とも推定されています。即時発売されればメジャー・レーベル作品ですから録音場所と日時が(スタジオ代や人件費の経理会計のために)きちんと記録され、明記されたはずですが、未発表に終わったためにデータも失われてしまったのはいかにもサン・ラ作品ならではです。'72年初夏とするか'73年作品とするかで迷いますが、確定できないのであればこの際早い方を採ることにしました。後になって見落としてしまうよりはフライングの方がましです。サン・ラは1972年にメジャーのABCレコーズ傘下のインパルス!レーベルと旧作30枚の再発売と新作制作の契約を結びましたが、旧作の再発売は9枚、新作は5枚制作されたにもかかわらず『Astro Black』『Pathways to Unknown Worlds』の2作しか発売されず、『Cymbals』『Crystal Spears』『Friendly Love』の3作がお蔵入りになっています。お蔵入りの3枚はのち2000年にサン・ラ専門の復刻レーベル、Evidence社から前述の『The Great Lost Sun Ra Albums; Cymbals & Crystal Spears』と『Pathways to Unknown Worlds + Friendly Love』として発掘発売されました。『Cymbals』『Crystal Spears』『Friendly Love』の3作はそれまで存在すら知られていなかったのです。
内容はお蔵入りアルバムとは思えない、極上とまではいかずとも'70年代のサン・ラのスタジオ・アルバムとして十分満足いくものです。本作と『Crystal Spears』『Friendly Love』がお蔵入りになったのはインパルス!が'50年代~'60年代のサターン作品の復刻を短期間に濫発しすぎたのと親会社ABCレコーズの経営方針変更のためとされていますが、この水準の作品が2000年まで未発表だったのがサン・ラの底知れないところです。本作は2010年にイタリアのTroglosoundレーベルから海賊盤の限定版アナログLPで再発されましたが、LPでの曲順は上記の通りで、2000年のエヴィデンスからのCDではやや曲順が異なっていました。CDですからA/B面の分け目はありませんが、
1. The World Of The Invisible - 6:51
2. Thoughts Under A Dark Blue Light - 16:31
3. The Order Of The Pharaonic Jesters - 7:21
4. The Mystery Of Two - 7:35
5. Land Of The Day Star - 3:57
この曲順でも時間配分は無理はなく、1、2でA面、3~5でB面という構成だったのかな、と思わせます。アナログLP再発では2、5をA面、1、3、4をB面と大胆に組み替えていますが、サン・ラ自身の指定ならともかく曲順変更で大差ないのは、看板テナーのギルモアをフィーチャーしたCD前半のファンキーでアーシーな目玉曲2(LPのA1)の存在感がアルバム全体に効いているからでしょう。1972年~1973年のアーケストラというとライヴではメンバー全員パーカッションで20~30分あまり会場を盛り上げて始まるのが定番だったので、『Cymbals』というタイトルからさぞやパーカッション全開かと思いきや、スタジオ盤ではちゃんと楽曲とアレンジを練りこんだタイトなサウンドに仕上げてあるのはさすがです。これだけのアルバムがサン・ラ生前には未発表になったままだったのはサン・ラが生涯多作でリリース保留になったアルバムより新作発売を優先していたからでしょうが、本作はアーケストラのスタジオ盤でもプロフェッショナルな職人芸が冴えるアルバムで、このくらいのものならいくらでも作れるというバンドの底力を感じさせます。実際1972年~1973年のアーケストラのスタジオ盤は名作・傑作のオンパレードで、本作ほどの充実したアルバムすら作った先から忘れられてしまっていたのかもしれません。
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(Original Modern Harmonic "The Cymbals / Symbols Sessions" LP Liner Cover & Side One Label)
音源リンクは正規発売でModern Harmonic社から2018年に『Pathways to Unknown Worlds』とカップリングした2枚組LPからで、1975年にサン・ラ生前発売された『Pathways to Unknown Worlds』はまた改めて単独アルバムとしてご紹介しますが、本作はトータル49分14秒あり、短めの多いサン・ラのアルバムでは収録時間の長い作品です。'70年代のサン・ラのアルバムは極端に少ない編成か極端に多い編成を採ることが増えましたが、今回は金管1、木管3(レギュラー・メンバーのうちマルチ奏者マーシャル・アレンとバリトンのパット・パトリック不参加)、キーボード、ベース、ドラムス、コンガの4リズムと'50年代以来のアーケストラの標準編成に近くなっており、また各曲でフィーチャリング・ソロイスト(だけではありませんが)に的を絞った作りで聴き所をつかみやすいアルバムにしてあります。普段はアンサンブル要員のアカァ・タル・エバァも立派なソロを取っており、デレク・モリスのコンガも効いています。ボイキンスのベースのビッグ・ビートとモリスのコンガ、メンバー全員のタイム感の良さで上手く行っていますが、新任ドラムスのハリー・リチャーズのプレイが所々不安定で、そこは古残メンバーが脇を固めている印象です。
トランペットのエヴァのソロにハード・バップ色が強く、楽曲もハード・バップ的(ただし'60年代以降のポスト・バップ的)なリフをテーマとしたものが多いのはメジャーのインパルス!からのリリースを想定してのことでしょうが、まるで未知のブルー・ノート(60年代新主流派)のアルバムを聴いているようでもあります。特にA2やB面の3曲など短めの演奏がハード・バップ的です。8人編成はハード・バップとしては大所帯ですが、いつものアーケストラよりもアンサンブルがすっきりしており、聴き流すと5~6人編成のような隙間と空間を生かしたサウンドなのもこのアルバムの特徴です。アーケストラは小編成の時も大編成の時も厚みとひろがりのある、その代わりバラけた印象のあるアレンジが通例ですが、このアルバムでは締まりがあり焦点の定まった楽曲・アレンジ・演奏を目指して成功しています。『Universe In Blue』のような小編成の特殊な企画ライヴ・アルバムを除くと、サン・ラ・アーケストラのライヴは大編成でドバーッと行くのが基本なので、いかにもスタジオ録音アルバムらしいタイトな作品を意図していたのでしょう。しかし録音後25年以上も未発表のまま眠っていたというのは(サン・ラ沒後発表でもあります)サン・ラ関連の無頓着な多作には改めて感心させられます。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)