サン・ラ - スペース・プローブ (El Saturn, 1974) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - スペース・プローブ (El Saturn, 1974)
サン・ラ Sun Ra and His Arkestra - スペース・プローブ/ア・トータル・ヴュー・オブ・タイムズ・トゥモロー Space Probe aka A Tonal View Of Times Tomorrow (El Saturn, 1974)  

Side A recorded in Chicago or Choreographers Workshop at New York City, 1960's (probably 1969)
Side B recorded in Philadelphia or Choreographers Workshop at New York City, 1970's (probably 1970)
Released by El Saturn Records #14200, 1974
Also Released as A Tonal View Of Times Tomorrow El Saturn Records 527, El Saturn Records 14200, 1974
All Compositions & Arrangements by Sun Ra
(Side A) Performed by Sun Ra
A1. Space Probe - 18:08
(Side B) Performed by The Sun Ra and His Arkestra 
B1. Primitive - 2:30
B2. The Conversion Of J.P. - 14:04
[ Sun Ra and His Arkestra ]
Sun Ra - mini-moog synthesizers (A1), intergalactic instruments (B1), piano (B2)
John Gilmore - bass clarinet (B1)
Marshall Allen - flute (B2)
prob. James Jacson - log drums
Nimrod Hunt (Carl S. Malone) - hand drums
other Arkestrian - percussion 

(Original El Saturn "Space Probe" LP Liner Cover & Side A/B Label)

 せっかくクリスマス・シーズンにご紹介するのに(単に年代順なのでそうなっただけですが)、このアルバムは「またかよ」と思わせるような雑で投げやりな編集盤のようなタイトルとジャケットなので、一見さんお断りの雰囲気がリスナーを遠ざけているようにも感じます。サターン・レコーズはサン・ラとマネジメントの直営インディー・レーベルだけにいい味を出している時と、自主制作規模のインディーとはいえ「これはないだろう」という時が半々で、今回のジャケットは手刷りの表ジャケット、貼りつけの裏ジャケット、貼りつけのレコード・レーベルとも例によってアーケストラのメンバーのハンドメイドのようですが、ジャケットもジャケットならデザインまで安易なもので、これで良い内容のアルバムを期待せよというのは無理があります。数あるサターン盤でもここまで汚い(味があるとも言えますが……)のは本作ならではとむしろ特色と言うべきかもしれませんが、1974年以降にはこれよりもっと粗雑なジャケット、白ジャケットやレーベルにマジックペンで手描きのアルバムすら連発されるようになるのです。サターン・レコーズは1974年以降マネジメントのアルトン・エイブラハムによるシカゴでのプレス、アーケストラ自身によるフィラデルフィアでのプレスが平行して発売されるようになっており、そのため内容も手当たり次第ならアルバムの区別がつかないほどの粗雑な手製ジャケットで発売されるようになりました。後述のように本作が『Space Probe』『A Tonal View Of Times Tomorrow』と2通りのタイトルで発売されたのは、シカゴ・サターンとフィラデルフィア・サターンの平行リリースによるものと思われます。

 また本作は正規のCD再発が2011年まで遅れたアルバムで、筆者もオリジナルLPは見たことがなく正規再発前には海賊盤CD-Rでかろうじて所持していたにすぎず、サン・ラ作品専門再発レーベルのArt Yardは信頼に足る正規レーベルですが'90年代からサン・ラ作品を初CD化していたEvidence社時代に較べても流通枚数がとても少ないので、現状サン・ラ絶頂期のアルバムではもっともオブスキュアな1枚と言えそうです。サン・ラのアルバムは音源管理が十全だったものからCD化されたので、本作のCD化の遅れの原因はマスター・テープが長年行方不明だったからかもしれません。

 本作がややこしいのは前述の通り『Space Probe』と同時に同内容のアルバムが『A Tonal View Of Times Tomorrow』と別名でも発売されており、違いは『Space Probe』が「Sun Ra and His Arkestra」名義に対して『A Tonal View Of~』ではジャケットは「Sun Ra and His Arkestra」名義でレーベルでは「Sun Ra and His Intergalactic Research Arkestra」名義と混乱があり(いつものことですが)、さらに曲順にも違いがあり、サン・ラのソロ演奏のA面「Space Probe」は『A Tonal View Of~』ではB面になり 、アーケストラによるB面はA面になってA1「The Conversion」、A2「The Primevil Age」とタイトルを少し変えて1曲目と2曲目を逆にしています。こちらも手描きの汚いジャケットで、おそらく順序はLP(盤本体)のプレスを進めるうちレーベル印刷経費に不足が生じてしまったため、レーベル印刷分は『A Tonal View Of~』の手描きジャケットに入れられ、残りは白レーベル盤のままプレスされて(AB面、曲順も逆に変更されて)、メンバーの手刷りジャケットと貼りつけレーベルで『Space Probe』として同内容・別タイトル・別ジャケット・別曲順のアルバムが同時発売されることになったと思われます。このご紹介では印刷レーベルでは当初から『Space Probe』が正式タイトルだったと思われることや曲順の改訂から『A Tonal View Of~』より『Space Probe』をオリジナル盤と見なしました。何よりA面全面を占めるタイトル曲「Space Probe」があるからこそアルバム『Space Probe』の存在意義もあるからですが、シカゴとフィラデルフィアに分かれたサターン・レコーズはわざと同内容・別タイトルでリリースした節が大いにあります。マスター・テープ管理に不始末が生じてCD化が遅れた原因がリリース方法から混乱を招いたからだとしたら、この重複リリースは(手製ジャケットの汚さ同様)マイナスの面が大きいでしょう。
(Original El Saturn "A Tonal View Of Times Tomorrow" LP Front Cover, Liner Cover & Side A/B Label)
 本作は文献によってはAB面とも60年代のサン・ラ・アーケストラが名作『Cosmic Tones For Mental Therapy』1963以来使ってきたニューヨークの無料市営多目的練習用ホール「Choreographers Workshop」で録音されたとされていますが、A面はシカゴ帰郷公演時に、B面はフィラデルフィアで録音された説もあり、ニューヨーク録音進出以来ニューヨーク録音ならばいつも通りですから、シカゴまたはフィラデルフィア説があるのは単にフィラデルフィアを拠点に移したサターン・レコーズの分裂による由来の可能性が高そうです。A面が'60年代(ムーグ・シンセサイザーの入手時期から見て推定1969年)録音、B面が'70年代(A面とのカップリングからすると推定1970年)録音なのは録音場所が異なっても各種文献では一致しています。内容的にも録音時期も本作は『My Brother The Wind, Vol.I』『Vol.II』と並ぶ三部作と言えるアルバムで、サン・ラのミニ・ムーグ・シンセサイザー時代はまだまだ続きますが、『Space Probe』A面の18分のソロ・パフォーマンスは『My Brother The Wind』2作を踏まえて本作でさらに自在なものになっています。このA面曲「Space Probe」は'70年代初頭のクラウトロックどころか、'70年代末からのノイズ/インダストリアル・ミュージックそのものを先取りする強烈なトラックです。

 B面をアーケストラの録音にしたのはA面との釣り合いで、2分半のB1は看板テナーのジョン・ギルモアをフィーチャー(バス・クラリネットを演奏)してサン・ラを含む全メンバーがドラムス&パーカッションにまわります。正規再発CDでは編集前の6分半ヴァージョンが収められていますが、オリジナルLPでは2分半に短縮編集したことでB1が14分に及ぶB2にすんなり流れる効果があり、B2はマルチ奏者のマーシャル・アレンのフルートが前半、サン・ラのピアノが中盤以降に現れてトロピカルなユートピア的サウンドになりますが、B面の主役は実質的にドラムス&パーカッション・アンサンブルであり、打楽器アンサンブルを引き立てるためにバス・クラリネット、フルート、ピアノが楽想を提示している点でサン・ラ流ラテン・ジャズの最良の演奏と言えます。A面・B面が異なる手法を用いて、発売時期の遅れから推定されるように『My Brother The Wind』2作のアウトテイク的内容ながらもアルバム両面でコンパクトなまとまりがあり、長く聴き飽きのこない佳作でしょう。非常に雑なリリースがされたのはこの程度ならいくらでも作れるという自信の表れだったのかもしれません。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)