サン・ラ - ザ・パリ・テープス (Art Yard, 2010) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ザ・パリ・テープス (Art Yard, 2010)
Art Yard KSAY 6N (1LP) Front Cover
サン・ラ Sun Ra and his Mythic Science Arkestra - ザ・パリ・テープス The Paris Tapes (Art Yard, 2010)Sun Ra The Paris Tapes Full Album 

Released by Kindred Spirits & Art Yard Collaboration Series Art Yard KSAY 6N (1LP), KSAY-6 (2CD), 2010
All Compositions and Arranged by Sun Ra
(LP Side A)
A1. Space Is The Place - 16:42
A2. Somebody Else's Idea - 11:39
(LP Side B)
B1. Watusi - 22:43
(CD Disc 1)
1-1. Introduction - 6:20
1-2. Discipline 27 - 10:18
1-3. Untitled Solo - 0:53
1-4. Love In Outer Space - part 1 - 9:34
1-5. Love In Outer Space - part 2 - 6:58
1-6. Third Planet - 6:27
1-7. Somebody Else's Idea - 11:39
1-8. Watusi - 22:43
(CD Disc 2)
2-1. Space Is The Place - 16:42
2-2. Angels And Demons At Play - 15:18
2-3. Untitled Keyboards - 2:18
2-4. Discipline Number Unknown - 15:33
2-5. Untitled Synthesizer Solo - 14:49
[ Sun Ra and his Mythic Science Arkestra ]
Sun Ra - organ, synthesizer, piano, vocal
Kwame Hadi - trumpet, percussion
Ahk Tal Ebah - trumpet, flugelhorn, vocal
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, percussion
Danny Davis - alto saxophone, flute, percussion
Larry Northington - alto saxophone, percussion
Istar Sundance - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone, drums, percussion, vocal
Danny Thompson - baritone saxophone, flute, percussion
Pat Patrick - baritone saxopone, flute, electric bass, percussion
Hakim Rhim - baritone saxophone, alto saxophone, flute
Al Batin Nur (Augustus Browning) - english horn
Eloe Omoe - bass clarinet, percussion
James Jacson - flute, oboe, infinity drums
Clifford Jarvis - drums
Lex Humphries - drums
Tommy Hunter - drums, alto saxophone
Nimrod Hunt - percussion
Roger Aralamon Hazoumu - balafon, dance
June Tyson - vocal
Malik Ramadan - vocal, timpani
Art Jenkins - vocal, percussion
Wisteria El Moondew (Judith Holton) - dance
Cheryl Banks - dance
Kevin Massey - dance
Kenneth Alexander - dance
Richard Wilkinson - lightshow
(Original Art Yard "The Paris Tapes" LP Liner Cover)
(Inner Sleeve, Front)
(Inner Sleeve, Liner)
(LP Side A Label)

 サン・ラのアルバム紹介も、アーケストラとしての遺作『Destination Unknown』(Enja, 1992)を141回目として、追補編も今回で9作、通算150回目(取り上げたアルバム枚数は1回で数作まとめてご紹介した回がありますので、すでに180枚を越えているでしょう)となります。本作は1971年夏・1972年月日不詳の発掘ライヴをカップリングした『Intergalactic Research(The Lost Reel Collection #2)』(Transparency, 2007)に続く58作目で、61作目の傑作ライヴ『It's after the End of the World』(MPS, 1971)の完全版を収めた59作目・60作目に当たる1970年10月・11月のドイツのジャズ・フェスティヴァル出演のカップリングCD『Black Myth/Out in Space』(MPS, 1998)に先立つ1970年秋のヨーロッパ・ツアーから、ドイツ公演より早く行われたフランス公演を収録しています。サン・ラ初の海外公演は1970年夏のフランス公演で、同年8月5日の公演が『Nuits de la Fondation Maeght Volume I』『Volume II』(Shandor, 1971)に収められてリリースされていますが、さっそくアーケストラ公式サイトの録音順ディスコグラフィーでも年代順に矛盾を来しています。従来『It's after the End of the World』(MPS, 1971)は1970年10月・11月のドイツの2箇所でのジャズ・フェスティヴァル出演からの収録が定説で、『It's after the End of the World』(MPS, 1971)でも『Black Myth/Out in Space』(MPS, 1998)でもそうなっています。ところが現在アーケストラ公式サイトのディスコグラフィーでは『It's after the End of the World』『Black Myth/Out in Space』とも1971年10月・11月のライヴ収録と1年くり下げられており、そのため1971年後半の時期にディスコグラフィー上でも送られています。しかしメジャーのPolydor傘下のMPSレーベルが公式ライヴ収録で1年も収録日のデータを間違えているとは考えづらく、またメンバーは『Nuits de la Fondation Maeght』を継ぐものです。ただし1971年秋からのヨーロッパ・ツアーはエジプト公演にまで引き継がれ、『Live in Egypt』『Nidham』『Horizon』(El Saturn, 1972)のライヴ三部作が残されるので、エジプト公演時にはメンバー半分が帰国して縮小編成になっていてもハイライト・ナンバーで「Discipline II-27」や「Space Is The Place」が演奏されるようになっています。一方70年秋ツアーのハイライト・ナンバーは「Watusi」で、本作は「Watusi」も「Discipline 27-II」も「Space is The Place」も演奏されているためにおそらく1971年秋収録の可能性が高いでしょう。だとすればアーケストラ作品でも屈指の代表的ライヴ盤『It's after the End of the World』が完全版『Black Myth/Out in Space』ともども本作より後にくり下げられているのがおかしい。どちらもメジャーのMPS盤で現行CDでも1970年10月・11月収録とデータが記載されていますし、英語版ウィキペディア始め各種ジャズ・データサイトでもアルバムの記載をそのまま採用しています。アーケストラ公式サイトでは1965年4月20日録音のディスコグラフィー31作目『The Heliocentlic Worlds of Sun Ra』(ESP, 1965)と11月16日録音の32作目『The Heliocentlic Worlds of Sun Ra Volume.2』の間に入るべき5月25年録音の未発表スタジオ盤『Other Strange Worlds』 (Roaratorio, 2014)を落としているなどけっこうあてにならない所もありますが、国際的に代表作として定評ある里程標的アルバム『It's after the End of the World』までデータが錯簡しているのは問題です。つまり本作も録音年月日はあてにならない、ということになるからです。

 しかし50年代(1958年or1959年録音、初出題「Watusa」)のスタジオ盤『The Nubians of Plutonia』(El Saturn, 1969)ですでに初演されていた「Watusi」はともかく、スタジオ盤での初録音が1972年になり、また1971年12月のエジプト公演ライヴ三部作でも演奏されていた「Discipline II-27」「Space is The Place」がセットリストに入っているところをみると、本作については1971年秋のライヴ収録と見て間違いなさそうです。クレジットの記載からも本作はライヴ会場主催者側がサン・ラ側公認で収録したライヴらしく、観客側のエア録音とモニター側のライン録音がきちんとミックスされたマスターテープで、臨場感はエジプト・ライヴ三部作に匹敵し音質はそれを上回ります。最短ではテーマ部分だけの3分、最長では30分あまりに渡って演奏される「Watusi」は本作では23分近い演奏になっており、1970年秋公演の『It's after the End of the World』ではテーマ部分の3分だけの演奏なのと照らし合わせるとやはり本作の方が後のライヴ収録だろうと思われます。全体に楽器の分離もスタジオ盤並みに良く、パーカッションや「Introduction」でサン・ラのシンセサイザーが放つ銃弾音など生々しいくらい音質鮮明な本作ですが、ホーン陣一丸となってテーマ吹奏を決める「Watusi」では音圧の高さからやや音割れ気味なのもバンドの気合を感じさせます。また本作のアーケストラは専任奏者だけでも4ドラムス・3パーカッション、さらに金管楽器3名、サックス~木管セクション10名、ヴォーカル&ダンサー7名を含む総勢26名が全員パーカッションを兼任してもおり、サン・ラのノイジーなシンセサイザー使用も1970年のスペイシーな音色よりもパーカッシヴな、効果音的な使用も目立つ、さらに攻撃的な演奏になっています。このヨーロッパ・ツアーから引き続いて行われたエジプト公演ではメンバーの半分が先に帰国して半数のメンバーで遂行され、また主に高級クラブ出演が中心だったために、バンドのテンションは高くてもサン・ラのシンセサイザー使用は本作よりはずっとオルガンの延長的な音色に絞りこまれますが、本作の全面的なパーカッション攻撃(何しろホーン陣がすべてホーン・アンサンブルに専念しても、4ドラムス・3パーカッション、ヴォーカル&ダンサー7名の14人ものパーカッション軍団が叩きまくっています)は前後のサン・ラ生前リリースの公式ライヴよりさらに過激で、実際のステージでは視覚的効果も抜群だったか、観客も湧きに湧いています。本作は2010年のLP(A面に本作がライヴ初演に近い「Space is The Place」とこのステージだけの即興曲「Somebody Else's Idea」、B面に「Watusi」という泣く子も黙る選曲です)とステージ完全版のCD発売以来品切れになっているのは大きな損失で、公式盤ライヴ『Nuits de la Fondation Maeght』『It's after the End of the World』やエジプト公演三部作『Live in Egypt』『Nidham』『Horizon』と並べても本作は見劣りしないどころか(テンションの高さではサン・ラ生前リリース作に利がありますが)、数多すぎるほどのアーケストラのライヴ盤でも屈指の内容を誇るアルバムです。まだこの時期にはアーケストラはサン・ラのオリジナル曲のみでステージ・レパートリーを固めていたので、適度にスタンダード曲を織り交ぜた'70年代半ば以降のライヴとは趣きが違いますが、'70年代初頭のピークにあったアーケストラのライヴを如実に伝えてくれるライヴ盤です。これほどのアルバムがメジャーから再リリースされていないのが、サン・ラ・アーケストラの底知れない恐ろしさというものです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)