サン・ラ・セクステット・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード (Rounder, 1993) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ・セクステット・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード (Rounder, 1993)

サン・ラ・セクステット Sun Ra Sextet - アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード At the Village Vanguard (Rounder, 1993)Sun Ra Sextet At The Village Vanguard Full Album 

Recorded live at The Village Vanguard, New York. November 14 (possibly), 1991
Produced by John Snyder
Released by Rounder Records Rounder 3124, CD, January 1, 1993
Also Released by Jazz Door Records 12125 (CD), 1995
(Tracklist)
1. Round Midnight (Hanighen-Williams-Monk) - 21:04
2. Sun Ra Blues (Sun Ra) - 16:11
3. Autumn in New York (Vernon Duke) - 11:00
4. 'S Wonderful (George & Ira Gershwin) - 10:58
5. Theme of the Stargazers (Sun Ra) - 5:31
[ Sun Ra Sextet ]
Sun Ra - synthesizer
John Gilmore - tenor saxophone, vocals
Bruce Edwards - electric guitar
Chris Anderson - piano
John Ore - bass
Earl C. "Buster" Smith - drums
(Jazz Door "At The Village Vanguard" Liner Cover, Inner Sheet & CD Label)

 サン・ラ・セクステット名義の本作は1991年11月にニューヨークのライヴ・スポット「Village Vanguard」で収録されたもので、本作に先立ってサン・ラは、前回ご紹介した1991年4月11月収録のフランスでのライヴ『Friendly Galaxy』(Leo, 1993)のあと帰国しアメリカ国内ツアーに回り、9月のイギリス公演から帰国後には再びアメリカ・ツアーを行い、1991年10月27日にはフィラデルフィア公演のライヴ盤『Cosmic Visions』(Blast First, 1994)を残しています。Blast Firstはこれまでもサン・ラ作品をリリースしてきたイギリスのMute Records傘下のインディー・レーベルですが、同作はアーケストラ公式サイトでは非公認アルバムとなっており、YouTubeへのアップもありませんが、2曲入りVHSヴィデオに1曲のみのCDシングルという変則的なリリースだったためアルバムには数えられていないのでしょう。またCD内容もサン・ラのソロ・パフォーマンスでドキュメント的性格の強いものです。データだけ上げておきます。
Sun Ra - Cosmic Visions (Blast First, 1994)
Recorded & Shooted live at 
Released by Blast First BFFP101V, BFFP101CD, (VHS & CD), 1994
Film Directed by John Coney
(VHS)
1. Space Is The Place
2. Magic Sun
(CD)
1. I Am The Instrument (Sun Ra Solo voice, celestial harp, toy piano performance)

 サン・ラは10月~11月のニューヨーク公演では本作、サン・ラ・セクステット名義の11月4日のニューヨークでのライヴ盤『At The Village Vanguard』(Rounder, 1993)を残し、1992年3月のドイツでのライヴ盤『Live in ULM 1992』(Leo, 2014)、同月29日のスイスのジャズ・クラブでのライヴ盤『Destination Unknown』(Enja, 1992がサン・ラ健在時のアーケストラの最終録音になり、1992年9月20日~23日ニューヨーク録音のスタジオ盤でアーケストラの準メンバーだったジャズ・ヴァイオリン奏者ビリー・バング(1947-)のビリー・バング・フィーチャリング・サン・ラ名義のカルテット作(ベースはアーケストラのジョン・オーレ、ドラマーはセシル・テイラーのレギュラー・ドラマー、アンドリュー・シリル)『A Tribute To Stuff Smith』(Soul Note, 1993)が遺作になりました。1990年11月に脳卒中の発作で倒れ、1991年1月に退院して翌月からライヴ活動に復帰したサン・ラはすでに両足と左腕が付随の状態でした。アーケストラからのピックアップ・メンバーにサン・自身がシカゴから見出してきたという盲目のピアニスト、クリス・アンダーソンを加えた1991年10月~11月のニューヨーク公演からの本作は、A&Mのプロデューサー、ジョン・スナイダーが『Blue Delight』(A&M, 1989)、『Purple Moon』(A&M, 1990)、その2作からのアウトテイク集『Somewhere Else』(Rounder, 1993)に続いて手がけ、サン・ラ引退の月・1993年1月にリリースされましたが、サン・ラのリスナーにとって複雑な感慨を抱かせる、まるでサン・ラの生前葬のようなアルバムです。

 アーケストラ公式サイトでも本作について「サン・ラが唯一他のピアニストをグループに迎えたアルバムであり、サン・ラは最初の発作以来もっとも不調な体調にあった (This is the ONLY Sun Ra recording where a different pianist plays in his group. He was already in a very poor conditions after his first stroke.)」と注記されています。本作はセロニアス・モンクの名曲「Round Midnight」の21分にもおよぶヴァージョンで始まりますが、ほぼクリス・アンダーソンのソロ・ピアノで演奏され、ジョン・オーレのベースのアルコ・オブリガートやサン・ラのシンセサイザーのカウンター・メロディーが絡むテーマ部からミストーンだらけのピアノが目立ち、このセクステットでの演奏を1か月あまり重ねたとは思えないほどの拙いピアノとアンサンブルに唖然とします。看板テナーサックス奏者のジョン・ギルモアも明らかに不調で、10分以上の長い演奏が続くのにミストーンだらけのピアノ、健闘すればするほどミスマッチなシンセサイザーとアルコ・ベースによって悲惨そのものの演奏がくり広げられます。唯一サン・ラのシンセサイザーを前面に出したアーケストラ定番曲「Theme of the Stargazers」のシンセサイザー・プレイでかろうじて面目を保っているアルバムで、数あるサン・ラのライヴ盤でもどん底のサン・ラを見せつけられるアルバムです。左半身付随と言っても、半年前の『Friendly Galaxy』では散り際の桜のような枯れた好演が聴けたのに対して、本作はもうほとんど聴くに値する演奏水準を維持できなくなったセクステット編成の演奏が聴かれます。身体的負担の軽減のためにシンセサイザーに徹し、クリス・アンダーソンという明らかにサン・ラの音楽を担いきれない代役ピアニストを迎えたことだけに原因は求められず、シンセサイザーに徹したサン・ラも不調ならジョン・ギルモアも不調、サン・ラの不調がメンバー全員に及んで焦点の定まらない拙演になっているのに関しては、これを弁護する余地もありません。サン・ラのアルバムでも1、2を争うひどいアルバムと言えば擁護しようにもありませんし、晩節を汚す駄作の位置も動かないでしょう。しかしそれゆえに、本作はサン・ラ引退のその月にリリースされるだけの意義を負った、遺言的アルバムとしてリスナーに訴えかけてくる作品です。インディー・レーベルのRounder、プロデューサーのジョン・スナイダーにとっても、本作はそのようなアルバムとしてあえてリリースを決意したものと思われるのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)