サン・ラ・オールスターズ - ヨーロピアン・ツアー (Transparency, 2008) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ・オールスターズ - ミラノ、チューリッヒ、西ベルリン、パリ (Transparency, 2008)
サン・ラ・オールスターズ Sun Ra All Stars - ミラノ、チューリッヒ、西ベルリン、パリ Milan, Zurich, West Berlin, Paris (Transparency, 2008)
5 concerts from Milan, Zurich, West Berlin and Paris. Recorded on the European tour between October 27, 1983 and November 1, 1983.
Each concert is presented complete.
Released by Transparency Records Transparency 0311, 5CD, 2008
All Compositions and arranged by Sun Ra except as indicated.
(Disc 1, Disc 2 ) Teatro Ciak, Milan, October 27, 1983 :  

1-1. Unidentified Title - 12:16
1-2. Unidentified Title - 10:11
1-3. Unidentified Title - 12:49
1-4. East Of The Sun (Brooks Bowman) - 5:41
1-5. King Porter Stomp (Jelly Roll Morton) - 1:37
2-1. What's New? (Bob Haggart, Johnny Burke) - 11:41
2-2. Unidentified Ra Piano Solo - 2:41
2-3. Cocktails For Two (Arthur Johnson, Sam Coslow) - 3:19
2-4. Spontaneous Simplicity - 9:15
2-5. Space Is The Place - 10:10
2-6. Unidentified Title - 3:46
(Disc 3) Zurich Jazz Festival, October 28, 1983 :

3-1. Unidentified Title - 10:05
3-2. Unidentified Ra Piano Solo - 4:11
3-3. Unidentified Blues - 8:25
3-4. Lights On A Satellite - 7:07
3-5. What's New? (Bob Haggart, Johnny Burke) - 4:12
3-6. Cocktails For Two (Arthur Johnson, Sam Coslow) - 4:12
3-7. Poinciana (Nat Simon, Buddy Bernier) - 15:24
(Disc 4) Berliner Jazztage, Philharmonie, West Berlin, October 29, 1983 (Movie, track 4-1 to 4-5) :  

4-1. Stars That Shine Darkly - 12:35
4-2. Unidentified Jam #1 (Duo) (Don Cherry, Philly Joe Jones) - 4:15
4-3. Somewhere Else - 8:08
4-4. Early Morning Blues - 9:10
4-5. Poinciana (Nat Simon, Buddy Bernier) - 15:20
4-6. Unidentified Title - 2:42 (not in Movie)
4-7. The Shadow World - 22:17 (not in Movie)
4-8. Unidentified Jam #2 - 5:26 (not in Movie)
(Disc 5) Paris, November 1, 1983 :  

5-1. Unidentified Title - 7:11
5-2. Unidentified Title - 10:43
5-3. Over The Rainbow (Harold Arlen, E. Y. Harburg) - 11:10
5-4. Lights On A Satellite - 9:05
5-5. What's New? #1 (Bob Haggart, Johnny Burke) - 6:14
5-6. What's New? #2 (Bob Haggart, Johnny Burke) - 8:12
5-7. Poinciana (Nat Simon, Buddy Bernier) - 14:30
5-8. 'Round Midnight (Thelonious Monk, Cootie Williams, Bernie Hanighen) - 6:55
[ The Sun Ra All Stars ]
Sun Ra - piano, keyboards, vocals
« All Stars »
Don Cherry - trumpet, vocals
Lester Bowie - trumpet
Archie Shepp - soprano saxophone, tenor saxophone, vocals
Richard Davis - bass
Philly Joe Jones - drums
Famoudou Don Moye - drums, percussion
« Saturnians from Sun Ra Arkestra »
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe
John Gilmore - tenor saxophone, vocals
Clifford Jarvis - drums 

(Original Transparency "Milan, Zurich, West Berlin, Paris" Liner Cover)
 サン・ラ音源の発掘・翻刻専門インディー・レーベル、Transparency社のリリースはノーカット完全収録を前提にしているために2CD、3CDは当たり前、同じ会場の連続公演場合には6CDや10CDも平気で出し、最大1週間連続公演28枚組CDまでリリースしているのはこれまでにもご紹介した通りです。本作は1983年後半のヨーロッパ・ツアーからやはりヨーロッパ各地のジャズ祭で渡欧していたドン・チェリー、アーチー・シェップ、リチャード・デイヴィス、フィリー・ジョー・ジョーンズ、またアート・アンサンブル・オブ・シカゴのレスター・ボウイとドン・モイエを迎え、サン・ラ・アーケストラの中核メンバーとともにサン・ラ・オールスターズとして10月末~11月初頭にジャズ・フェスティヴァル出演したミラノ、チューリッヒ、西ベルリン、パリでのライヴをまとめた5枚組CDの発掘盤で、同メンバーのサン・ラ・オールスターズ名義でサン・ラの生前発売になったアルバムにはA面にアルバム・タイトル曲のPart 1、B面にPart 2を収めたAB面で全1曲の『Stars That Shine Darkly』(El Saturn, 1985)と、A面にタイトル曲、B面に「Stars That Shine Darkly Part 1」を収めた『Hiroshima (Stars That Shine Darkly Part 1)』(El Saturn, 1985)、さらにA面に1976年~1984年の未発表曲5曲、B面に「Stars That Shine Darkly Part 2」を再収録した『Outer Reach Intensity-Energy (Stars That Shine Darkly, Vol. 2)』(El Saturn, 1985)がありますが、それらは11月2日~5日のスイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演から採られていますので、収録年代順には本作が直前に位置します。『Hiroshima』はやはりサン・ラ音源の復刻・発掘専門レーベルArt Yard社から2007年にアナログLPのみで復刻されていますが、1983年11月のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのサン・ラ・オールスターズの新曲のみのライヴ盤としてはAB面で全1曲の『Stars That Shine Darkly』だけで、1984年または1985年にアトランタで録音されたサン・ラの無伴奏パイプ・オルガンによる『Hiroshima』A面の「Hiroshima」と、『Outer Reach Intensity-Energy (Stars That Shine Darkly, Vol. 2)』A面5曲のうち1983年のヨーロッパ・ツアー時の録音を加えたCD化がされればサターン盤からの公式発売は網羅できるので、『Stars That Shine Darkly』は1枚で済ませて『Outer Reach Intensity-Energy』A面と『Hiroshima』A面をカップリングさせれば重複のない2枚のアルバムにできるのに、なぜわざわざたがいにLP片面ずつが重複する3作に分けて発売されたのか、いつもながらアーケストラ主宰のサターン盤のリリース方針の出たとこ任せには感嘆します。

 前回ご紹介したサラー・ラガブとの共演盤は1983年の5月上旬のカイロ滞在時に制作されましたが、1983年のサン・ラ・アーケストラはツアーに明け暮れており、3月からフランスを始めとしたヨーロッパ・ツアーに出て、4月上旬にはイタリア、4月中旬以降はエジプト公演を行い、ラガブとのアルバム制作までカイロに滞在します。6月はアメリカに帰国していますが7月にはオーストリアを始めとするヨーロッパ・ツアーに再度出発、8月帰国後9月にはカナダ公演を行い、10月にはイギリスを始めとしたこの年3度目のヨーロッパ・ツアーを行います。イギリスではロンドン、シェフィールドを周り、10月中にフランス、イタリア、スイス、西ドイツを周り、11月にはスイス、フランス、西ドイツ、12月にはパリ公演とオランダ公演を行い、そのまま1984年1月にはエジプト公演に戻ります(アルバム『Meets Salah Ragab In Egypt』のCD化追加トラックに収録)。さらに2月にはギリシャ公演を行い、3月には西ドイツ、オーストリア、スイスを回ってようやく帰国したのが1984年4月と、年をまたいで1983年10月~1984年4月のヨーロッパ~エジプト~ギリシャ・ツアーは半年にもおよびました。このツアーのハイライトになったのが公式盤『Stars That Shine Darkly』(El Saturn, 1985)と、やや遅れてサン・ラ生前発売された1983年12月11日のオランダ公演のライヴ盤『Love Is Outer Space : Live In Utrecht』(Leo, 1988)、1984年2月27日のアテネ公演を収録した『Live At Praxis '84』Vol.1~Vol.3(Praxis, 1984/1985/1986)ですが、発掘ライヴの本作『Milan, Zurich, West Berlin, Paris』は1983年10月27日~11月1日と一週間にも満たないミラノ、チューリッヒ、西ベルリン、パリのオールスターズ・ゲストを迎えた4公演を収録し、サン・ラ・アーケストラからはサン・ラを含めて4人、ドン・チェリーとアーチー・シェップを始めとしてリチャード・デイヴィスやフィリー・ジョー・ジョーンズまで含む6人のオールスターズという異例の編成の演奏が聴けます。ご紹介したYouTubeの試聴リンク中、1983年10月29日はテレビ収録が行われ、猛者揃いのライヴ映像が楽しめますが、アーケストラの激烈フリー・ジャズ路線の代表曲「The Shadow World」を含む後半3曲がテレビ映像では収録洩れなのが惜しまれます。またチェリー、シェップ、フィリー・ジョー、アート・アンサンブルの二人を始めどんな奔放・奇天烈な演奏になっているかを期待すると、意外なほどサン・ラをリーダーとするアーケストラの演奏に寄り添った演奏になっており、それはモントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演でのアルバム1枚全1曲の新曲を収めたオールスターズによる『Stars That Shine Darkly』でも変わりません。スタンダード曲を多数採り上げている他はアーケストラのレパートリーでもマーシャル・アレンとジョン・ギルモアがいれば手堅い「Lights On A Satellite」以外にはリフ・ブルースと簡潔なモチーフの無題即興曲が大半を占めており、ゲスト・オールスターズのかつての戦闘的な演奏がサン・ラ・アーケストラとどう衝突するかと思うと案外全員が破綻なくサン・ラのリーダーシップに従っているのが意外かつ少々物足りなくもあれば、これが妥当な演奏という気もします。サン・ラがかつて彼ら後進ミュージシャンに批判的だったのを思うと、双方ともに丸くなったなという気がしないでもないライヴですが、セッションしてみたらけっこう気が合ったというか、観客を前には一致団結というところでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)