もう10日も前の古証文ですが、スーパー密集地帯に向かう住宅街を抜けて食料品の買い物に向かう途中、路上にこんな買い物メモが落ちているのを見つけました。ちょっと覗き見的で悪趣味かもしれませんし、お堅く言えば著作権侵害かもしれませんが、道端に堂々と落ちていてどなたの落とし物か特定はできない内容ですからAnonymous(筆者不明)の遺留品としてご紹介してもご迷惑にはならないでしょう。内容を翻字すると以下の通りです。
5/4(木)
ひき肉
(オムレツ用 2F)
つけもの
こぶつ(だし用)②
(惣菜
(サラダ (2F)
イカこうじうじ塩カラ
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(1F)
もやし②
チョコアイス②
アシ開き②
(大根煮物
(焼ちくわ小
(シーチキン
にんじん
ホーレン草)
白ス)
達筆なので一見判読できませんが、うち「焼かつお」は抹線が引いてあり、おそらく「焼かつお」の代わりに「アシ(アジ)開き②」に変えたものと思われます。「こぶつ(だし用)②」は小粒のダシ調味料か「こんぶ(だし用)②」の走り書きか迷いますが、おそらく「こんぶ(だし用)②」なのではないでしょうか。とすると煮物か味噌汁用と思われますし、「ひき肉(オムレツ用 2F)」があるのに玉子や玉ねぎ、ワカメ(味噌汁用)が記されていませんが、玉子や玉ねぎ、ワカメは買い置きがあるのか毎回必ず買っているので買い物メモには略したのかもしれません。「チョコアイス②」と「アジ開き②」がチョコアイスならカップ2個か6個入りパック2箱、アジ開きなら2尾なのか数尾入りパック2パックで買い物全体の分量が大きく違いますし、「つけもの」も何の漬け物かでヴォリュームが異なるので、トートバッグ1袋で収まる分量なのか1袋では収まりきらない分量なのか、ぎりぎりの品目なのが悩ましいところです。
品目から見て少なくとも二人以上の夫婦か核家族程度の世帯と推定されるので、これは必ず買う予定の買い物メモとしても特売品などが加わるとなるとトートバッグ1袋では収まらない、せめてあとキャリーバッグも必要な買い物になるでしょう。すると車で行った買い物という線が考えられ、買い物帰り、車から降りる時に道端に落としてしまった買い物メモという線が濃厚です。平和な休日のご夫婦の車を出した買い物風景、奥さまの得意料理はオムレツとこんぶ出しの味噌汁と和え物(ホーレン草とシラス和え、焼ちくわと細切り人参の和え物、もやしとシーチキン和え、など)、という食卓風景も浮かびます。漬け物、お惣菜とサラダ、大根の煮物を買っているので、オムレツ調理が面倒ならアジの開きとお惣菜類でよし、というコースも予定に入れているでしょう。朝食はアジの開き、昼食はあっさりと漬け物やイカの塩辛や大根の煮物、夕食はオムレツと和え物やサラダ、朝昼夕とも味噌汁つきという連休の食卓、というと学齢期かまだ若い社会人のご子息・ご子女(お母さんのオムレツが大好物)という仲の良いご家族の光景も浮かんできます。車を降りる時に買い物メモを落としちゃったのに気づかなかったか気づいたかはわかりませんが、気づいていたとしても車を車庫入れしたり買い物を運んだりで「済んだ買い物だからもういらない」とご夫婦ともどもそのまま風に吹かれるままに用なしにした買い物メモなのでしょう。そうしてそのご家庭は、令和5年の5月4日(木)の買い物を済まされて、のんびり今年のゴールデンウィークを過ごされたことと思います。「幸福な家庭は皆似通っているが、不幸な家庭はそれぞれ異なっている」という書き出しのトルストイ(1828-1910)の『アンナ・カレーニナ』1877はトルストイ45歳から執筆され、49歳で完成・刊行された大長篇でした。おそらくトルストイの洞察は今なお家族制社会の普遍的真実を射抜いていて、この平凡な買い物メモもトルストイの見抜いた、似通った「幸福な家庭」の姿のひと駒なのでしょうか。
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