世界一うるさい「のっぽのサリー」!~伝説のGSアウト・キャスト! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

アウト・キャスト - のっぽのサリー (テイチク, 1967)
アウト・キャスト - のっぽのサリー (Enotris Johnson, Robert Blackwell, Richard Penniman) (テイチク, 1967) - 2:49 :  

[ アウト・キャスト ]
轟健二 (松崎澄夫) - lead vocal, flute
水谷淳 (水谷公生) - lead guitar, vocal
藤田浩一 - guitar, vocal
穂口雄右 - organ, electric piano
大野良二 - bass guitar
中沢啓光 - drums
(Original テイチクレコード "君も僕も友達になろう" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)


 このアルバム『君も僕も友達になろう』は、1966年春に渡辺プロ所属のエレキ・バンド、ブルーエースのメンバーだった水谷淳(のちの水谷公生)、大野良二を中心に平均年齢17歳のメンバー(全員公称昭和23年/1948年生まれ、実際は水谷淳、藤田浩一は1947年生まれ)で結成されたバンド、アウト・キャストの唯一のアルバムにして、1980年代半ば以降に欧米諸国のガレージ・ロック・マニアの間で大評判を呼び、1996年にLP再発売されるまで一時は数百ドルの価格で取引されていた(現在でも1967年のオリジナル盤は海外通販サイトで10万円近い)、グループ・サウンズ時代の日本のロックきっての人気盤です。特に注目されるきっかけになったのはリトル・リチャード1956年のヒット曲「のっぽのサリー」のカヴァーで、凄まじい絶叫ヴォーカルとリズムがコケても爆走する、ビートルズによるカヴァー・ヴァージョンをしのぐ激烈カヴァーとして海外パイレート・リリースの'60年代ガレージ・ロックのコンピレーション盤にレコード盤起こしで採録され、海外のガレージ・ロック・コレクターがカーナビーツの『ファースト・アルバム』(フィリップス, 1968.2)、モップスの『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』(ビクター, 1968.4)、ダイナマイツの『ヤングサウンドR&Bはこれだ』(ビクター, 1968.4)、ボルテイジの『R&Bビッグヒット』(ユニオン, 1968.8)、ゴールデン・カップスの『アルバム第2集』(キャピトル, 1968.9)、テンプターズの『5-1=0』(フィリップス, 1969.2)と並んで血まなこになって中古市場を探す、日本の'60年代ロックの秘宝となりました。現在では上記のGSバンドの全アルバムのCD復刻も進み、アウト・キャストの全テイチク音源はアルバム『君も僕も友達になろう』のCD版に収められています。筆者はGS全盛時代はまだ子供で、テレビのGS番組を観ては「バン・バン・バン」や「シーサイド・バウンド」で踊ったり「ブルー・シャトウ」の替え歌を歌ったりしていましたが、レコードで実力を発揮できなかったGS時代のバンドが多い中、アウト・キャストは商業的成功は収められなかったながらも、シングル、アルバムともに優れた作品を残すことができたバンドでした。

 アウト・キャストは活動期間には人気、セールスともに成功せず、渡辺プロの送りだした最初のGSバンドでありながら先にレコード・デビューしたワイルドワンズ(「想い出の渚」1966年11月)、後発のタイガース(「僕のマリー」1967年2月)に大きく水を空けられ、メンバー6人時代の1967年1月~7月に「友達になろう c/w 気ままなシェリー」「愛することは誰でもできる c/w 電話でいいから」「レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ c/w エンピツが一本」のシングル3枚を出すもサイド・ギターの藤田浩一が脱退、残る5人で1967年10月~11月にシングル「一日だけの恋 c/w 僕のそばから」と唯一のアルバムになった『君も僕も友達になろう』を発表するもオルガンの穂口雄右が脱退、4人編成となったバンドは橋本淳・筒美京平コンビによるテイチク・オーケストラのバックをフィーチャーした新曲「愛なき夜明け c/w ふたりの秘密」(B面「ふたりの秘密」は大野良二作のアルバム曲のシングル用再録音)をレコード・デビュー一周年の1968年1月に発表しますが3月には解散し、水谷淳(水谷公生に改名)・轟健二は渡辺プロに残りアダムスを結成し、半年後の1968年9月にCBSソニー・レコードからシングル「旧約聖書」でデビュー(シングル4枚を残し1969年末に解散)、一方渡辺プロを離れた大野良二はメンバーを一新した新生アウト・キャストでシングル「砂に書いたラブレター c/w 君を慕いて」(テイチク SN-651, 1968.6.5、A面はジェントル・ジャイアントの前身バンド、サイモン・デュプリー&ビッグ・サウンドのヒット曲「Kite」、B面はスペインのロス・ペキニクスの日本語カヴァー)をリリースするも以降レコード契約を失い、1969年初頭には自然消滅に近い形で解散してしまいます。GS時代の日本のロックはスパイダース、ブルー・コメッツ、寺内タケシとバニーズ、ワイルドワンズ、タイガース、テンプターズ、ジャガーズ、カーナビーツ、ヴィレッジ・シンガース、ゴールデン・カップス、モップス、オックスあたりが10大バンド(と言いつつ12組)に上げられますが、アウト・キャストは解散後20年あまりを経て優れたレコード音源でようやく評価を高めたバンドでした。

 アウト・キャストは実力は十分だったのにアイドル性は稀薄で、あまりの人気にテレビ出演やライヴが多忙で録音スケジュールが取れないタイガース初期のスタジオ盤はほとんどアウト・キャストが代役録音していたと言われます(そのためタイガースのアルバムはスタジオ盤と、タイガースのメンバー自身の演奏によるライヴ盤が交互にリリースされることになりました)。アウト・キャストの強みは確かな演奏力とともに、バンド内に藤田浩一、水谷淳、大野良二、穂口雄右と4人ものソングライターがいたことにもありました。アルバム12曲中、前述の「のっぽのサリー」、マイク真木・坂本九・葉村エツコらとの競作になった浜口庫之助のノヴェルティ・ソング「エンピツが一本」、ゾンビーズの英語詞のままのカヴァーでカーナビーツの「好きさ好きさ好きさ」より早かった「I Love You」、モージョズ(Mojos)の「Everything Alright」のガレージ・カヴァー、ロネッツのカヴァー「Be My Baby」以外の7曲(さらにアルバム未収録シングルB面曲「気ままなシェリー」「電話でいいから」)がメンバーの自作曲なのも1967年のGSとしては先駆的で、しかも藤田、水谷、大野、穂口いずれものオリジナル曲に佳曲が揃っているのもアルバムの価値を高めています。轟健二こと松崎澄夫氏はのちアミューズ取締役、また穂口雄右氏はキャンディーズの作・編曲家で大成功を収めます。藤田浩一氏も日本でのベイシティ・ローラーズ人気の仕掛け人を始め、角松敏生、杉山清貴&オメガトライブ、菊池桃子を抱えるプロダクション社長になります。またアウト・キャストは音楽的にも幅が広く、フォーク・ロック調のデビュー・シングル「友達になろう」は山下達郎氏が愛聴曲に上げていたと言われます。ソフト・ロック的な「ふたりの秘密」も名曲です。穂口雄右氏の演奏はオルガンはもちろん(ガレージ・ロックは粗野なギター、ベース、ドラムスで語られがちですが、チープなオルガンや簡素で一本調子な演奏もガレージ・ロックの特徴です)、アルバム未収録曲「気ままなシェリー」のエレクトリック・ピアノでも鮮やかです。「愛することは誰でもできる」は「花嫁御寮」を引用したメロディーで、「月の砂漠」を「ブルー・シャトウ」に引用したブルー・コメッツ、「アランフェス協奏曲」を「純愛」に引用したテンプターズに先んじています(もっとも、スパイダースやバニーズに先例がありますが)。「レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ」「一日だけの恋」や、ことにあまりにパンキッシュなためにアルバム未収録曲になったと思われるシングルB面曲「電話でいいから」は、「のっぽのサリー」に連なる、轟健二のヴォーカルと水谷淳のギターが炸裂する耳をつんざくばかりのガレージ・ロックです。また四人編成になったオリジナル・アウト・キャスト最後のシングル「愛なき夜明け」(これはヒットメイカーの橋本淳&筒美京平による曲で、メンバー自作曲ではありませんが)は、アウト・キャスト分裂後に轟健二・水谷公生が結成するアダムスのオーケストラ導入曲「旧約聖書」(山上路夫作詞・村井邦彦作曲・東海林修編曲)につながる楽曲です(アダムスは1968年3月新興のCBSソニーからの第一号GSになりますから、アウト・キャストの分裂は新バンド、アダムスをデビューさせるための渡辺プロの画策だったと思われます)。ただし曲を書けるメンバーが多すぎるのも作風の統一上では良し悪しで、スパイダースのかまやつひろし、ブルー・コメッツの井上忠夫、ワイルドワンズの加瀬邦彦、テンプターズの松崎由治、ハプニングス・フォーのクニ河内のように突出したソングライター~音楽的リーダーが率いていたバンドほどには強い個性を打ち出せなかったとも言えます。新生アウト・キャストの「砂に書いたラブレター c/w 君を慕いて」は異色なのでまた次の機会に送りますが、12曲中先行シングル5曲(うち「友達になろう」はアルバム用再録音ヴァージョン)を含み、メンバーの自作曲7曲+外部ライター曲、カヴァー曲5曲からなる、GS時代の日本のロックが誇る傑作アルバム『君も僕も友達になろう』とともに、オリジナル・アウト・キャストのシングル5枚を、ジャケットとともに上げておきましょう。
友達になろう (シングル・ヴァージョン) (作詞・藤田浩一/作曲・水谷淳) - 2:41

アウト・キャスト - 愛することは誰でもできる c/w 電話でいいから (テイチク SN-491, 1967.4)
愛することは誰でもできる (作詞作曲・水谷淳) - 3:18


アウト・キャスト - レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ c/w エンピツが一本 (テイチク SN-539, 1967.7)
レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ (作詞作曲・藤田浩一/編曲・水谷淳) - 2:44

アウト・キャスト - 一日だけの恋 c/w 僕のそばから (テイチク SN-561, 1967.10.15)
一日だけの恋 (作詞作曲編曲・水谷淳) - 2:49

アウト・キャスト - 愛なき夜明け c/w ふたりの秘密 (テイチク SN-608, 1968.1.10)
愛なき夜明け (作詞・橋本淳/作曲編曲・筒美京平) - 2:46 (アルバム未収録曲)