ジャックス「からっぽの世界」昭和43年(1968年) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ジャックス - からっぽの世界 c/w いい娘だね (タクト, 1968)
ジャックス - からっぽの世界 (作詞作曲・早川義夫) (タクト, 1968) - 5:29 :  

Released by 日本コロムビア/タクト Takt/Million TS-302, March 25, 1968
[ ジャックス Jacks ]
早川義夫 - vocal, guitar
水橋春夫 - lead guitar
谷野ひとし - bass 
木田高介 - drums, flute (on "からっぽの世界") 



 この曲が平均年齢19.5歳(20歳二人、19歳二人)のバンドによるデビュー・シングル、しかもインディー・レーベルではなくメジャーレコード社傘下のジャズ・レーベルからリリースされたとは、にわかには信じがたいほどです。リーダーでリード・ヴォーカリストの早川義夫(昭和22年/1947年12月15日生~)、ギタリスト水橋春夫(昭和24年/1949年2月2日生~平成30年/2018年8月5日没)、ベーシスト谷野ひとし(昭和22年/1947年10月10日生~)、ドラマーでマルチ・インストルメンタリストの木田高介(昭和24年/1949年1月8日生~昭和55年/1980年5月18日没)の四人からなるジャックスは、ビート・グループ(GS)の全盛期、プロテスト・フォーク勃興期の日本のロック~フォーク・シーンにあって、そのどちらにも属さない異色の存在としてデビューしました。リーダーの早川義夫は中学生時代に尾藤イサオのステージを観てロックに目覚め、ビートルズに熱中する一方で高校時代にはフォーク・グループを組みながらデビュー前のスパイダースのライヴを観て大学時代にはジャックスを結成しますが、その頃には早川の方針によってレパートリーはすべてオリジナル曲、流行の洋楽ロックやフォークからの影響を一切拒否した作風に進んでいました。

 このシングル「からっぽの世界 c/w いい娘だね」のA面曲「からっぽの世界」は、セカンド・シングルA面曲「マリアンヌ」と並ぶジャックスの代表曲で、ジャックスはこの曲でさまざまなフォーク・コンテストに出場しています。この曲「からっぽの世界」はドラムレス編成で演奏され、ベーシストの谷野はベース・ギターではなくアコースティック・ベースを演奏し、ドラマーの木田高介がフルートに回っているからでもありますが、楽曲として当時のロックには類のない曲想だったのもあるでしょう。当時の日本のロックどころか英米ロックにも類例を見ないほど特異な作風です。早川義夫はアコースティック・ギターをアルペジオで弾きながら淡々と歌い、水橋春夫のリード・ギターは鳥の悲鳴を模したシタールのように響き、木田高介のフルートが枯れ枝を震わす風のように流れます。谷野ひとしのベースはフリー・ジャズそのものです。B面曲「いい娘だね」はロック・バンド編成のビート・ナンバーですが早川義夫のヴォーカルは甘さのかけらもありません。「からっぽの世界」「いい娘だね」はあえて分類すればサイケデリック・ロック(「いい娘だね」はガレージ・ロックでもあります)ですが、「いい娘だね」はまだしも「からっぽの世界」は早川義夫、そしてジャックスによってしか生まれなかった楽曲でしょう。ジャックスのファースト・アルバム『ジャックスの世界』(東芝エキスプレス, 1968年9月)は昨年イギリスの名門老舗インディー・レーベル、ラフ・トレードからもリリースされ、また米サイトgaragehangover.comでもジャックスは日本の'60年代ロック最重要バンドとして資料が集成され、ユーザーによって議論や歌詞翻訳が交わされていますが、ジャックスを聴くことは音楽を聴く以上にひとつの体験そのもので、それゆえにおそらくジャックスの音楽は半永久的に衝撃力を失いません。この55年前のシングルは今でも新たなリスナーを増やし続け、驚愕を呼び覚まします。そしてセカンド・シングル「マリアンヌ c/w 時計をとめて」はいっそう驚異的なものになるのです。