ツトム・ヤマシタ - ゴー (Island, 1976) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ツトム・ヤマシタ - ゴー (Island, 1976)
ツトム・ヤマシタ/スティーヴ・ウィンウッド/マイケル・シュリーヴ Stomu Yamashta, Steve Winwood, Michael Shrieve - ゴー Go (Island, 1976) :  

Released by Island Records ILPS 9387, 1976
Produced by Paul Buckmaster, Stomu Yamashta
"Winner/Loser" by Steve Winwood, all other songs by Stomu Yamashta with lyrics by Michael Quartermain
(Side A)
A1. Solitude - 2:57
A2. Nature - 2:32
A3. Air Over - 2:32
A4. Crossing the Line - 4:46
A5. Man of Leo - 2:02
A6. Stellar - 2:53
A7. Space Theme - 3:12
(Side B)
B1. Space Requiem - 3:20
B2. Space Song - 2:00
B3. Carnival - 2:46
B4. Ghost Machine - 2:06
B5. Surfspin - 2:25
B6. Time is Here - 2:46
B7. Winner/Loser - 4:10
[ Personnel ]
Stomu Yamashta - Synthesizer, Percussion & Timpani
Steve Winwood - Vocals, Piano, Electric Piano (6), Organ (A5 - A7, B1 - B4), Guitar & Synthesizer (B7)
Michael Shrieve - Drums
Klaus Schulze - Synthesizers (except B7)
Rosko Gee - Bass
Thunderthighs - Backing Vocals
Paul Buckmaster - Woodwind, Brass & Strings Arrangements
Al Di Meola - Lead Guitar (A5 - B6)
Pat Thrall - Lead & Rhythm Guitar (A 3 - A4)
Junior Marvin - Rhythm Guitar
Chris West - Rhythm Guitar
Bernie Holland - Rhythm Guitar (B3)
Hisako Yamashta - Violin & Backing Vocals (B2)
Brother James - Congas (B4 - B7)
Lenox Langton - Congas (B4) 

(Original Island "Go" LP Liner Cover, Inner Booklet & Side A Label)





 本作に参加の時期には、クラウス・シュルツェはヒット作となったソロ・アルバム5作目『タイムウィンド(Timewind)』'75.8(1975年3月~6月録音)に続きファー・イースト・ファミリー・バンドがイギリスのマナー・スタジオで録音した『多元宇宙の旅』’76をプロデュースし、そのレコーディング中にツトム・ヤマシタと知り合います。シュルツェは第6作の名作『ムーンドーン(Moondawn)』'76.4(1976年1月録音)を完成したばかりで、ドイツ原盤はブレイン・レコーズのままでしたが、同作から英語圏のリリースはヴァージン・レコーズに代わってアイランド・レコーズに移籍したところでした。京都生まれの日本人パーカッション奏者でピアニスト、作曲家のツトム・ヤマシタ(山下勉、1947-)はStomu Yamashina名義で、クラシックの現代音楽分野で'60年代末から欧米のオーケストラでも活躍していた話題の日系ミュージシャンで、1971年からは自作曲のアルバムをキング、コロンビア、パテなど世界各国の老舗大メジャー・レコード社から発表しており、もともとスカのレーベルから始まりワールド・ミュージックを得意ジャンルとするアイランド・レコーズからもすでに数作のアルバムを発表していました。『GO』以前にも15作のアルバムがありますから同年生まれのシュルツェ(バンド作、セッション作含む)に匹敵する精力的な活動をしていたのがヤマシタで、アイランド・レコーズ側とヤマシタ自身からの企画で、ここで一気にツトム・ヤマシタの大プロジェクト・バンドがアイランドゆかりのミュージシャンを集めて期間限定活動することになります。それがこの「GO」プロジェクトで、『GO』'76、『GO Live from Paris』'76、『GO Too』'77の3作を残しました。

 このプロジェクトは端的に言えばスペース・ロックなのですが、アイランドの看板アーティストといえるスティーヴ・ウィンウッド(元スペンサー・デイヴィス・グループ~第1次トラフィック~ブラインド・フェイス~トラフィック)、マイケル・シュリーヴ(元サンタナ)、アル・ディメオラ(リターン・トゥ・フォーエヴァー)、ポール・バックマスター(元サード・イヤー・バンド、エルトン・ジョン・バンド)、ロスコー・ジー(元トラフィック~カン)、しかもクラウス・シュルツェと見事なくらいに凄腕かつ多国籍でルーツもバラバラなミュージシャンが集まったため、聴きごたえはあるし国際的な話題作になりヒットしたのもわかる完成度の高いアルバムですが、シュルツェ参加のセッション作でもコズミック・ジョーカーズやのちのリヒャルト・ヴァーンフリート・セッションのようなミュージシャン同士の一体感にはどこか欠ける感触があります。セールス面を顧慮してか本作ではリーダーのヤマシタと並んで知名度の高いウィンウッド、シュリーヴの三者名義になっていますが、コンセプトとリーダーシップはヤマシタのもので、ジーは『GO Live from Paris』では抜け、ウィンウッドも『GO Too』では抜けてリード・ヴォーカルはジェス・ローデンに替わりますから、3作通してプロジェクトにつきあったのはシュルツェ、ディメオラ、シュリーヴの3人(バックマスターはスタジオ盤2作のみ参加)というのも意外ですが、シュルツェはこの時にシュリーヴと親交を深め、'80年代に数作のアルバムで共演しますし、またGOプロジェクトへの参加がシュルツェの国際的知名度を押し上げる結果になり、シュルツェも大きな自信を得たのは確かなようで、ライヴでも最大の喝采を浴びたのは当時めったに見られない「最新楽器シンセサイザーをライヴで演奏する」プレイヤーのシュルツェだったそうです。またもともとドラマーとしてプロ・デビューし、最後のドラムス演奏になったソロ・アルバム第3作『ブラックダンス』'74でもエスノ・ミュージックへの関心を示したシュルツェにとって、シュリーヴは尊敬の的だったでしょうし、意気投合したのはのちの実り多い共演にもつながりました。しかしアルバムのクロージング曲で唯一のウィンウッド提供のハイライト曲「Winner/Loser」はシュルツェ抜き、ウィンウッド自身がシンセサイザーを弾いて仕上げられており、これだけのメンバーが集まると演りづらかった面もいろいろあったのではないかと想像されるのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)