サン・ラ - アウト・ゼア・ア・ミニット (Blast First, 1989) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - アウト・ゼア・ア・ミニット (Blast First, 1989)サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - アウト・ゼア・ア・ミニット Out There a Minute (Blast First, 1989) 

From Sun Ra's private collection.
All Written, Arranged, Selected by Sun Ra
Track 5, 10 from Previously Released Albums.
Track 6, 13 edited version from Previously Released Albums.
Track 1, 7, 11 from alternate take from Previously Albums, Previously Unreleased.
Track 2, 3, 4, 8, 9, 12 were Previously Unreleased.
(Tracklist)
1. Love in Outer Space - 5:02
Alternate take from the sessions of Night of the Purple Moon, Philadelphia or New York, 1970. 
 Sun Ra - rocksichord
 Danny Davis - alto clarinet, conga
 Stafford James - electric bass
 John Gilmore - drums
2. Somewhere in Space - 8:08
Recorded maybe at the sessions of Secrets of the Sun, Choreographers' Workshop, New York, 1962. 
 Sun Ra - piano 
 Marshall Allen - alto saxophone, flute, percussion
 John Gilmore - tenor saxophone, percussion
 Pat Patrick - baritone saxophone, flute, percussion
 Ronnie Boykins - bass 
 C. Scoby Stroman (probably) - drums 
 Art Jenkins - space voice
3. Dark Clouds with Silver Linings - 4:53
Probably Choreographers' Workshop, New York, 1962. 
 Sun Ra - piano 
 John Gilmore - tenor saxophone 
 Marshall Allen - alto saxophone
 Pat Patrick - baritone saxophone 
 Ronnie Boykins - bass 
 C. Scoby Stroman or Tommy Hunter - drums
4. Jazz and Romantic Sounds - 4:41
New York or Philadelphia, 1969. 
 Sun Ra - organ 
 Marshall Allen, Danny Davis - alto saxophone
 Pat Patrick - baritone saxophone
 Clifford Jarvis - drums 
5. When Angels Speak of Love - 4:25
Taken from the LP When Angels Speak of Love. 
6. Cosmo Enticement - 3:06
Edited version percussion track from the album Continuation, originally entitled Earth Primitive Earth.
 Sun Ra - space gong
 Marshall Allen - Jupiterian flute 
 Other members of the Arkestra - sun harp, koto, scrapers, etc. 
7. Song of Tree and Forest - 3:08
Alternate take from the album Continuation, Originally entitled New Planet.
 Sun Ra - piano 
 Marshall Allen - piccolo
 Danny Davis or Pat Patrick - flute 
 Robert Cummings - bass clarinet 
8. Other Worlds - 4:51
New York, spring 1965, sessions of Magic City. 
 Sun Ra - electronic celeste, piano
 Chris Capers - trumpet 
 Teddy Nance - trombone
 Bernard Pettaway - bulb trombone
 Marshall Allen - piccolo, alto saxophone 
 Danny Davis - alto saxophone
 John Gilmore - tenor saxophone 
 Pat Patrick - baritone saxophone 
 Ronnie Boykins - bass
 Jimmy Johnson - drums
9. Journey Outward - 4:23
Choreographers' Workshop, New York, 1961 or 1962. 
 Sun Ra - piano
 Al Evans - trumpet
 John Gilmore - tenor saxophone
 Marshall Allen - morrow
 with several percussionists. 
10. Lights of a Satellite - 3:03
Taken from the LP Art Forms of Dimensions Tomorrow 
11. Starships and Solar Boats - 7:32
Alternate take from Art Forms of Dimensions Tomorrow, original title Kosmos in Blue. The second tenor solo by Gilomre didn't appear in the saturn version. 
12. Out There a Minute - 3:24
Choreographers' Workshop or Sun Studios, New York, 1962-1964. 
 Sun Ra - piano, introduction
 Marshall Allen, Danny Davis - alto saxophone
 John Gilmore - tenor saxophone 
 Pat Patrick - baritone saxophone
 Ronnie Boykins - bass
 Clifford Jarvis - drums
13. Next Stop Mars - 12:00
From the LP When Angels Speak of Love; edited version with several minutes removed. 

(Original Blast First "Out There a Minute" CD Liner Cover & CD Label)
 このCDはサン・ラ(1914-1993)生前の1989年に「サン・ラ自身の個人的コレクションからの自選アルバム」として発売されたもので、これまでどの位置でご紹介すればいいか迷って取り上げるのが遅れたものです。内容は推定1961年または1962年録音から1970年録音に渡り、最新曲が1970年録音のアルバム『Night of the Purple Moon』収録曲の別テイクですから年代順に位置づければ同アルバムの次に取り上げるのが妥当だったかもしれません。それがついつい後回しになってしまったのは収録曲の出自があまりに多岐に渡っているためで、1970年録音作の追補としてご紹介しようとデータのまとめを怠っていたからですが、サン・ラ・アーケストラの公式サイトでは本作は発掘作であってもコンピレーションではなくレギュラー・アルバムに数えていて詳細なデータ記載があるため、1970年録音のアルバムの紹介途中ですが遅ればせながら公式サイトの記載を孫引きして取り上げることにしました。1989年にはまだサン・ラは健康上の問題もなくむしろ生涯最後の絶頂期を謳歌していた頃で、前年の1988年8月には待望の初来日公演を行い全国各地のジャズ・フェスティヴァルを回っています。当時毎年行われていた読売ランドのライブ・アンダー・ザ・スカイではトリのマイルス・デイヴィスに次ぐ扱いで、サン・ラ・アーケストラの持ち時間は1時間弱だったため観客はマイルスのステージの頃には「その分サン・ラの時間を増やせばいいのに」というムードだったといいます。東京では新宿ピットインでアーケストラの単独ライヴが大盛況に行われ、この時のステージは2枚組のライヴ・アルバムになりました。

 本作はサン・ラ自選を謳ってありますが、サン・ラは75歳の高齢だったので実務はアーケストラのメンバーに任せてサン・ラが承認したと思われます。曲ごとに録音データを記載してありますが、全13曲のうち既発表のアルバム・テイクが2曲(5, 10)、既発表テイクの編集ヴァージョンが2曲(6, 13)、既発表曲の未発表別テイクが3曲(1, 7, 11)、未発表曲が6曲(2, 3, 4, 8, 9, 12)と、未発表別テイク・未発表曲が全13曲中9曲を占めるので、20年~30年前の録音を集めた発掘盤ながらオリジナル・アルバムに数えても順当でしょう。この内容だったら'70年代半ばまでにリリースしてほしかったとも思いますが、'70年代のサン・ラは外部レコード会社からも自主レーベルのサターンからも年間5枚以上のリリース・ラッシュでしたから、当時出していた多数の拾遺録音アルバムからも洩れたテイクから選ばれたのが本作ということになります。サターン・レコーズは1984年で新作リリースを止めて旧作の再発売だけになり、サン・ラの新作はすべて外部レコード会社から発売されるようになっていたので、本作も1984年以前のリリースだったらサターン盤で発売されていたような拾遺アルバムです。

 サン・ラはあまりに作風の多彩で無尽蔵な創作力を誇るアーティストなので、ベスト・アルバム的な編集盤よりオリジナル・アルバムを聴いた方が音楽的な狙いがつかみやすいとこれまでも強調してきましたが、本作は曲順も年代順ではなく作風も見事にばらばらで、編集盤のサン・ラは何だかよくわからない見本のようなアルバムになっています。代表曲の別テイクや編集ヴァージョンを要所要所に入れているのは'60年代サン・ラのサンプラー・アルバムとして聴きごたえのあるものにしようという意図でしょうが、それも混乱に輪をかけています。いっそ未発表別テイクと未発表曲だけで統一したアルバムにした方が良かったのではないかと思いますが、それでも統一感は望めないと考えてラジオ番組かライヴの選曲のようにあえて不統一な選曲、曲順にしたのでしょう。サン・ラ・アーケストラは1991年頃から看板テナー奏者のジョン・ギルモアが体調不良(1993年のサン・ラの逝去を追うように1995年に亡くなります)でツアーの参加を見合わせるようになり、サン・ラ没後はアルトサックス奏者のマーシャル・アレンがバンドリーダーとなって現在でも活動しています。アーケストラ公式サイトのデータ記載は略記なのでわかりやすく直して記載しましたが、本作はマルチ・プレイヤーのアレンがホーン・セクションのまとめ役を果たしている曲が多く、サン・ラの楽曲としては小品に当たる割とあっけない曲が並ぶのもありますが、その後のアレンへの引き継ぎを見るとおそらくマーシャル・アレンが選曲・アルバム編集の実務に当たったと思われる節が多いのです。おそらくアーケストラのリハーサルも、当時高齢となっていたサン・ラに代わってアレンが担当するようになっていたと思われ、サン・ラも5年後・10年後を考えると自分の没後のアーケストラの後継者を意識しないではいられない時期にさしかかっていたでしょう。

 本作は小品集の趣きもあって大きくソロイストをフィーチャーした曲はなく、'60年代初期の『Angels & Demons at Play』や『The Nubians of Plutonia』、『Fate in a Pleasant Mood』あたりの作風が多くを占め、それを補って'60年代後期の作風に移行する『Art Forms of Dimensions Tomorrow』『When Angels Speak of Love』からの楽曲が別テイク、編集ヴァージョンで収められています。サン・ラ没後の1990年代末~2000年代にはアルバム単位で多数の未発表録音が発掘されるようになりますが、それらはサン・ラ健在の当時、まだ発表の時期ではないと筐底に秘められていたのでしょう。本作収録の未発表別テイク・未発表曲は今では'60年代初頭の各時期のアルバムにボーナス・トラック収録した方がいい性格の拾遺曲ですが、本作はあくまで「From Sun Ra's private collection.」としてリリースされたアルバムであり、雰囲気を楽しむための巨匠のスケッチ集のようなものでしょう。また本作の原盤はイギリスのMute Recordsのサブ・レーベルBlast Firstで、ミュート・レコーズは当時カン、DAF、ノイバウテン、スロッビング・グリッスル、キャバレー・ヴォルテール、ワイヤー、ドーム、クリス&コージー、SPK作品などの復刻を進めており、サン・ラのリスナー層が広義のオルタナティヴ・ロックのリスナーに広がっていた時期を記念するリリースでもありました。それにしては敷居の高い入門編ではないかと選曲・編集とも悩ましいものですが、サン・ラ健在でライヴも旺盛だった頃ですからこれで良かったのでしょう。本作はそういう性格のアルバムです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)