サン・ラ - ヤヌス/ジ・インヴィジブル・シールド (El Saturn, 1974) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ヤヌス/ジ・インヴィジブル・シールド (El Saturn, 1974)
(Reissued ORG Music ORGM-2091, 2018 Front Cover)サン・ラ Sun Ra and His Intergalactic Research Arkestra - ヤヌス Janus (El Saturn, 1974) 

A2a ; Recorded mono, probably at a live performance, 1970.
A2b ; Recorded at Sun Studios, NYC, 1967 or '68 (Sun Ra solo) / Recorded at Choreographers' Workshop, NYC, 1963 (group).
B1 ; Recorded in early 1968; it is different from a live recording from 1969 previously known to discographers.
B2 ; Recorded live in NYC, early 1968.
Originally Previously Unreleased by Saturn Research 144000 / El Saturn Records LP-529, 1974
Reissued by 1201 Music 9012-2, October 12, 1999, ORG Music ORGM-2091, 2018
All Composed & Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Island In The Sun - 5:23 :  

 Bass (Prob.) - Ronnie Boykins
 Clarinet (Alto) - Danny Davis
 Flute - Marshall Allen
 Percussion - John Gilmore
 Percussion (Prob.) - Pat Patrick
 Piano - Sun Ra
A2a. The Invisible Shield - 5:43 :  

 Alto Saxophone - Danny Davis, Marshall Allen
 Neptunian Libflecto (modified Bassoon) - Danny Ray Thompson
 Drums (Prob.) - Clifford Jarvis
 Organ, Synthesizer [Mini-moog] - Sun Ra
A2b. Janus - 6:59 :  

 Alto Saxophone, Percussion - Danny Davis
 Bass - Ronnie Boykins
 Bass Clarinet (Prob.), Percussion [Prob.] - Robert Cummings
 Bongos (Prob.), Percussion [Prob.] - Pat Patrick
 Effects (Reverb), Percussion - Tommy Hunter
 Gong, Clavinet, Directed By - Sun Ra
 Piccolo Flute - Marshall Allen
 Tenor Saxophone, Bells - John Gilmore
 Vocals, Percussion - Art Jenkins
(Side B)
B1. Velvet - 7:22 :  

 Alto Saxophone - Danny Davis, Marshall Allen
 Baritone Saxophone - Pat Patrick
 Bass - Ronnie Boykins
 Drums - Clifford Jarvis
 Drums (Log Drum), Flute - James Jacson
 French Horn - Robert Northern
 Performer (Solos) - Pat Patrick, Robert Northern, Sun Ra
 Piano - Sun Ra
 Tenor Saxophone - John Gilmore
 Trombone (Prob.) - Bernard Pettaway
B2. Joy - 9:15 :  

 Alto Saxophone, Percussion - Danny Davis, Marshall Allen
 Baritone Saxophone, Percussion - Pat Patrick
 Bass - Ronnie Boykins
 Drums - Clifford Jarvis
 Drums (Log Drum) - James Jacson
 French Horn - Robert Northern
 Piano, Keyboards (Clavioline) - Sun Ra
 Tenor Saxophone, Percussion - John Gilmore
 Trombone (Prob.) - Bernard Pettaway
[ Sun Ra and His Intergalactic Research Arkestra ]
Sun Ra, Marshall Allen, John Gilmore, Pat Patrick And Arkestrians 

(Reissued ORG Music "Janus" LP Liner Cover)
 今回のアルバムは内容の把握にもディスコグラフィ上にも位置づけが厄介なもので、すでに『The Invisible Shield』A面と同時期のスタンダード曲セッションを含むアルバム『What's New』(Saturn Sub Undergound Series, 1975)を1962年録音作品として取り上げています。ところが『What's New』は1975年に同時発売された2種類のヴァージョンがあって、一方はA面が1962年のスタンダード曲セッション・B面が11分ほどのセッション断片が片面1曲で収録されており、このB面曲は1972年録音のアルバム『Space Is The Place』タイトル曲のリハーサル・テイク「We Roam The Cosmos」と推定されるものでした。もう一種の『What's New』はA面・B面ともに1962年録音のスタンダード曲セッションでA面は同一、B面はすでに1974年のアルバム『The Invisible Shield』のA面曲として発表されていたものです。この『The Invisible Shield』が今回ご紹介するもので、A面は前述の通り1962年のスタンダード曲セッションで『What's New』別版B面と同一、B面は1970年前後の未発表スタジオ録音(一部は60年代録音にダビングしたもの)でした。さらに『The Invisible Shield』には片面を1969年録音の「Space Probe」に差し替えたヴァージョンもあります。つまりこのアルバムは『What's New』『The Invisible Shield』とタイトルを変え収録曲を変更しながら各タイトルそれぞれ最低3ヴァージョンにもおよぶヴァリエーションがあるのです。自主制作レーベルのサターン・レコーズ作品とはいえ、ややこしいったらありません。

 さらにややこしくなるのが1999年のCD発売の際に1974年発売予定でお蔵入りになっていた『Janus』としてまとめられていた未発表アルバムの存在が判明したことです。『Janus』はA面は『The Invisible Shield』と同一、B面はこれが初出になる1970年前後のライヴ録音であり、現在正規発売されているCDでは同一の『The Invisible Shield』のタイトルで『What's New』スタンダード曲セッション統一版と『The Invisible Shield』版の『Janus』、本来の未発表アルバム『Janus』版が同時に流通して混乱に拍車をかけています。つまりサターン・レコーズには1962年録音のスタンダード曲集『What's New』と1970年録音・1974年録発売予定でお蔵入りになっていた『Janus』があり、この2枚のアルバムからの抜粋に加えてさらに1970年録音の「Space Probe」を収録した『The Invisible Shield』、1972年録音の「We Roam The Cosmos」を加えた別版『The Invisible Shield』が発売されたため訳の分からない事態に陥ったわけです。最初から『What's New』『Janus』、重複曲を除いた『The Invisible Shield』の3枚に統一すればいいものを、『What's New』『Janus』、さらに『What's New』『Janus』や「Space Probe」「We Roam The Cosmos」を折衷した中途半端な編集盤『The Invisible Shield』が数ヴァージョンに渡って発売されたために本来の未発表アルバム『Janus』より優先発売されてしまい、その上『Janus』は収録曲がばらばらに『The Invisible Shield』に部分収録されて発売されてしまったために混乱が起こり、アナログLP時代にはジャケットとLP本体、レーベルと収録内容が異なることも珍しくなかった(しかもサターン盤は限定プレスにつき返品不可)というサターン盤の面目躍如たる一例となっています。
サン・ラ Sun Ra and His Intergalactic Research Arkestra - ジ・インヴィジブル・シールド The Invisible Shield (Saturn Sub Undergound Series, 1974) 

Released by Saturn Research 144000 / El Saturn Records LP-529, 1974/1977
(Side A)
A1. State Street (Sun Ra) - 3:49
A2. Sometimes I'm Happy (Caesar, V. Youmans) - 6:37
A4. Time After Time (Jule Styne And Sammy Cahn) - 3:36
A5. Easy To Love (C. Porter) - 3:30
A6. Sunny Side Up (De Sylvia) - 3:39
7. But Not For Me (G.Gershwin And I.Gershwin) - 6:49 (Bonus track, Previously Unreleased)
(Side B)
B1. Island In The Sun (Sun Ra) - 10:24 (complete version)
B2. The Invisible Shield (Sun Ra) - 5:36
B3. Janus (Sun Ra) - 7:03
[ Sun Ra and His Intergalactic Research Arkestra ]
Sun Ra, Marshall Allen, John Gilmore, Pat Patrick And Arkestrians
(Original El Saturn "The Invisible Shield" LP Side A & Side B Label)
 そんな事情で『The Invisible Shield』と未発表アルバム『Janus』のどちらが本来の意図の選曲であり、どちらを本作の正式タイトルと呼ぶか迷いますが、A面にスタジオ録音3曲(A2a「The Invisible Shield」とA2b「Janus」は別セッションから2曲をメドレーに編集したもの)、B面にライヴ録音2曲を収録した1970年前後の未発表スタジオ/ライヴ録音の拾遺アルバムという意味で、このアルバムは『Janus』として発売予定されていた未発表アルバムこそ本来の意図だったと思われます。当初1962年録音とカップリングされて発売された『The Invisible Shield』はレーベル部分くり抜きのサンプル盤用ジャケットしか確認されておらず、正式アルバムというよりはライヴ会場の即売用サンプラーで、一種のコレクター・アイテムとして編集されたコンピレーション・アルバムだったのでしょう。A面に翌年発売される『What's New』のB面をそのまま収録していたのは、今回初出となる未発表スタジオ録音のB面との録音時期を隔てた対照を意図していたか、または単なる穴埋めだったかもしれません。未発表スタジオ録音曲をA面に繰り上げ、未発表ライヴ2曲をB面に配して1970年前後の録音で統一して『Janus』と改題し、しかもお蔵入りアルバムにするに至った経緯は不明で、サターン・レーベルのことですからひょっとしたら前後関係もこの通りではないかもしれない覚束なさもありますが、コンピレーション・アルバムという性格上そのいずれでもあった可能性も考えられるでしょう。せっかく『What's New』とはまったく別物、『The Invisible Shield』に一部収録されていた1970年録音を『Janus』としてアルバム内容を整理しながらも未発表アルバムにしてしまったサターン・レコーズの場当たり的な発売方法には常識を絶したものがあります。

 そんなわけで1970年前後の未発表録音を集めた『Janus』として本作を見ますと、アルバムA面のスタジオ録音曲はどうやら1963年録音の『Cosmic Tones For Mental Therapy』と同時期の未発表セッションをベーシック・トラックとして1970年以降にオーヴァーダビングやエフェクト処理を施し、異なる2曲を1曲に編集し直すなどの処理をして一応の完成ヴァージョンに仕上げたものと思われます。楽曲自体が典型的に『Cosmic Tones For Mental Therapy』当時のサン・ラの作風を示しており、管楽器(アーケストラの場合は木管セクション)のアレンジも'60年代中期以降や'70年代初頭のアーケストラではない、'60年代前半の作風が見られます。マーシャル・アレンのフルートとパーカッション・アンサンブルなどがその典型で、本格的なフリー・ジャズ化以前でもあり、またロニー・ボイキンス脱退後にエレクトリック・ベースが導入された以降のサウンドは大きく変化するので、ソロ楽器のダビングやエフェクト処理では'70年代初頭の特徴を備えながらベーシック・トラックはボイキンス参加当時の'60年代前半録音という珍しいヴァージョンです。ギミック抜きで楽しいのが'50年代の代表曲「Velvet」「(Eli Is The Sound Of) Joy」のノリノリのライヴ・テイクを収めたB面で、どちらもスタジオ録音では3分程度にコンパクトなアレンジで発表されていた曲を、ここでは目の覚めるようなパワフルなヴァージョンに改作しており、特にスタジオ録音ではバランスの崩れそうな強引なサックス・アンサンブルのリハーモナイズがライヴならではの疾走感で痛快な演奏を聴かせてくれます。単独アルバムとしては'50年代~'60年代~'70年代初頭までのサン・ラの主要アルバムを一通り聴いていないと聴き所のとっ散らかったアルバムかもしれませんが、未発表テイク集という性格上成立事情が複雑で、いっそややこしい成立背景は何にも詮索せずに内容だけを楽しむ方がいいアルバムかもしれません。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)