タンジェリン・ドリーム - 冥想の河に伏して (Ohr, 1970) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

タンジェリン・ドリーム - 瞑想の河に伏して(エレクトロニック・メディテーション) (Ohr, 1970)
タンジェリン・ドリーム Tangerine Dream - 瞑想の河に伏して(エレクトロニック・メディテーション) Electronic Meditation (Ohr, 1970) :  

Released by Metronome/Ohr OMM 56004, June 1970, 
All songs written and composed by Edgar Froese, Klaus Schulze, Conrad Schnitzler. 
(Seite 1)
A1. 万物の創生 Geburt (Genesis) - 6:00
A2. 冥想の河に伏して Reise Durch Ein Brennendes Gehirn (Journey Through A Burning Brain) - 13:25
(Seite 2)
B1. 冷えた煙 Kalter Rauch (Cold Smoke) - 11:00
B2. すべては灰に Asche Zu Asche (Ashes To Ashes) - 3:50
B3. 復活 Auferstehung (Resurrection) - 3:40
[ Tangerine Dream ]
Edgar Froese - guitar, organ, piano, noises(glasscherben)
Conny Schnitzler - cello, violin, guitar, noises(addiator)
Claus Schultze - drums, noises(peitsche, metallstabe, brennendes pergament)
with
Thomas Keyserling - flute (uncredited)
Jimmy Jackson - organ on A2 (uncredited) 




 この今なおリスナーに鮮烈に迫ってくるアルバム(ブラック・サバスのデビュー作と同年です)が、クラウス・シュルツェ(1947-2022)のファースト・レコーディングにして、タンジェリン・ドリームの創設メンバーとしてのデビュー作になります。リーダーのギタリスト、シンセサイザー奏者エドガー・フローゼ(1944-2015)に率いられたタンジェリン・ドリームはサード・アルバム『われら、時の深渕より叫びぬ!(Zeit)』(Ohr, 1972)から全盛期時代のメンバー、クリス・フランケ(1953-)、ペーター・バウマン(1953-)が揃い、クラフトワークと並び(クラフトワークより早く)西ドイツの電子音楽系実験派ロックの代表グループになりますが、このデビュー作ではコンラッド・シュニッツラー(チェロ、1937-2011)、クラウス・シュルツェ(ドラムス)にフルート、オルガンのゲスト・ミュージシャンを迎えて生楽器による演奏、特殊なエフェクトと録音・編集によって特異なフリー・フォームのサイケデリック・ロックを演っており、この路線はフローゼ以外のメンバーを一新したセカンド・アルバム『ケンタウロス座のアルファ星 (Alpha Centauri)』(Ohr, 1971)にも引き継がれます。本作発表の時点ですでにシュニッツラーはタンジェリンと平行して活動していた、より過激な実験的サウンドを追求していた自己のグループ、クラスター(Kluster)に専念するため、またシュルツェはマニュエル・ゲッチング(ギター、1952-)とハルトムート・エンケ(ベース、1952-2005)とのヘヴィ・サイケデリック・トリオ、アシュ・ラ・テンペル(1971年デビュー)の結成のために脱退しており、本作はリーダー級のメンバー三人による、タンジェリン・ドリーム史上でも特記すべき異例の傑作になりました。サイバーパンクを15年早く予言したようなジャケットも素晴らしいこのアルバムは(オリジナル盤では人形の頭の部分に頭部をあしらったゴム風船が装着されていました)、本作のメンバーだっただけでもクラウス・シュルツェの名前がクラウトロック史上に残るほどの、ジャーマン・サイケデリック・ロックでも三指に入る傑作です。

 アマチュア時代のサイ・フリー(Psy Free、現存音源なし)からドラマーだったシュルツェは本作でもドラマー、ただし音楽は従来のロックの枠を越えて定則ビートも排されていれば、ギターもチェロもドラムスもクレジットを見てよほど注意して聴かなければ何の楽器か判別のつかないほど音色、フレーズともに変調させられています。ギターはA面では効果音的使用でB面になってようやくジミ・ヘンドリックスを独自解釈したような屈折したリード・ギターらしいプレイが聴け、ゲスト・プレイヤーによるフルートとオルガンにかろうじて生楽器の音色が認められる程度です。発想としては本作は、ピンク・フロイドの初期アルバムでも1970年前後の実験的ロックで影響力のもっとも大きかった『神秘 (A Saucerful Of Secrets)』(EMI Columbia, 1968)や『ウマグマ (Ummagumma)』(Harvest, 1969)にヒントを得たものでしょう。同様のアルバムにイギリスの実験音楽家デイヴィッド・ヴォーハウスのプロジェクト、ホワイト・ノイズ(White Noise)による『An Electric Storm』(Island, 1969)がありますが、コンセプトの徹底と成果・完成度でタンジェリン・ドリームの本作はピンク・フロイドの影響にとどまらない音楽性を確立しており、フロイドの模倣作にとどまる『An Electric Storm』をはるかに抜いています。またこれほどの即興的実験音楽でありながらロック的なメリハリと昂揚感に溢れているのが、本作をサイケデリック・ロックの究極型として聴ける優れてキャッチャーなアルバムさています。それがリーダーのエドガー・フローゼのコンセプトとしても本作の場合はシュニッツラー、シュルツェの貢献も対等で、タンジェリンのアルバムでも一期一会の金字塔的デビュー作になっています。エドガー・フローゼを中心にしたより詳しいタンジェリン・ドリームの解説はリブログ先の旧記事をご覧ください。またシュニッツラーのように純粋に実験音楽畑に向かわず、あくまでロックのフィールドに軸足を置いて本作からアシュ・ラ・テンペルを経てソロ~コズミック・ジョーカーズ・セッション、GOプロジェクト~ソロ活動に進んだシュルツェのキャリアは、いずれの時期においても才能・資質と時代の、これ以上はないほどのめぐり合わせを感じさせます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)