日本のパンク・ロック!(6) EP-4『昭和崩御』昭和59年(1984年) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

EP-4 - 昭和崩御 (ペヨトル工房, 1984)

EP-4 - 昭和崩御~リンガ・フランカX (ペヨトル工房, 1984) :  

(Side 1)
A1. Coco - 8:00
(Side 2)
B1. dB - 5:12
B2. Zoy - 4:42
EP-4 - 制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy) (ペヨトル工房, 1983)
Released by ペヨトル工房 夜想+Eos C0070 (Cassette 46min), March 13, 1983
(Side 1)
A1. Untitled
(Side 2)
B1. Untitled
include
Strangeness :  


EP-4 - 昭和大赦~リンガ・フランカI (日本コロンビア, 1983) :  

Released by 日本コロンビアレコード AF-7205, September 1983
(Side 1)
A1.Robothood Process - 4:39
A2. The Frump Jump - 4:17
A3. Similar - 4:53
A4. Coconut - 4:22
(Side 2)
B1. E-Power - 3:33
B2. Talkin' Trash - 4:43
B3. Broken Bi-Psycle - 5:39
B4. Tide Gauge - 4:43
[ EP-4 ]
佐藤薫 - voice
好機タツオ - guitar
バ・ナ・ナ(川島裕二、川島バナナ) - keyboards, tapes
佐久間コウ - bass
三条通 - drums
ユン・ツボタジ - percussions

 京都で何かすごいバンドが出てきたらしい、とこのバンド、EP-4が音楽誌の話題になったのが昭和57年頃で、EP-4は元ガセネタのメンバーによるセッション・バンド「TACO」ともメンバーが共通するらしい、と音源のリリース前から注目を集めていました。翌1983年に入るとEP-4はサブカルチャー誌「夜想」の特集号『制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy)』(1983年3月)で無題のカセットテープ版ライヴ・アルバムを発表し、またインディー・レーベルのテレグラフ・レコードから発表された『Lost Tapes』(Skating Pears/テレグラフ, 1983)もライヴ・アルバムでしたが、ともに曲目無記載、アーティスト写真もなく、ただリーダーの佐藤薫の名前が早くも伝説化していきました。それとともに1983年春には全国主要都市の街中のいたるところに「EP-4  5・21」とだけ記されたステッカーが貼られ、テロ予告か反体制政治集会かと騒動を呼び一躍EP-4の存在は知れわたりましたが、実際はこれはメジャーからのデビュー・アルバム発売日の予告で、その日1983年5月21日にはEP-4は1日のうちに京都、名古屋、渋谷の3か所でメジャー・デビュー・ライヴを行いました。

 ただし同日発売されるはずだった『昭和崩御』というタイトルのメジャー・デビュー・アルバムはレコード会社の自主規制によって藤原新也撮影の軍鶏のジャケット写真ともども発売が延期され(昭和天皇崩御まであと5年の当時、80代半ばの天皇は体調不良がしばしば報じられ、「崩御」という言葉自体がマスメディアのタブーになっていました)、9月に『昭和大赦~リンガ・フランカI』と改題されて発売、ジャケットも藤原新也撮影の予備校生金属バット両親殺人事件の現場の家の写真に変更され、ジャケットに印刷されたアルバム・タイトルはレコード帯に隠れるレイアウトがされました。翌1984年、サブカルチャー誌「夜想」を発行していたペヨトル工房から、EP-4はコロンビアから発売自主規制になった『昭和崩御』のタイトルと軍鶏のジャケット写真を使って書店流通で12インチ・シングル『昭和崩御~リンガ・フランカX』(ペヨトル工房, 1984)をリリース、またテレグラフ・レコードからライヴ・アルバム『Multilevel Holarchy』(Skating Pears/テレグラフ, 1985)をリリース後、活動を停止します。録音順で言えば『Lost Tapes』『制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy)』『昭和大赦』『昭和崩御』『Multilevel Holarchy』の5作はライヴ、スタジオ録音の違い、アレンジ違いこそあれ収録曲はほぼ同じで、アルバム1枚分のレパートリーだけで5作ものライヴ、スタジオ盤のヴァリエーションをリリースしたことになります。しかもメンバー写真を載せたアルバムは1枚もなければ、カセット・アルバムを含めたライヴ・アルバム3作はサイド1・サイド2の記載こそあれ曲目の記載もなければ楽曲ごとのトラック分けもありません。

 この徹底的な匿名性は京都の先輩、裸のラリーズにも匹敵するもので、また深いエコーとフランジャーをかけて歌詞などほとんど聴き取れないヴォーカル、黒人音楽色のないエレクトリックなダブ・ファンク・サウンドは以前採り上げたパブロ・ピカソ同様当時のイギリスのポップ・グループ~マーク&マフィアやグラクソ・ベイビーズのブリストル・サウンド(~トリップ・ホップ)に近いものでしたが、EP-4の場合はさらに無機的で冷徹、都会的な、インダストリアル・ノイズ系バンドからの影響が目立ちます。廉価版のカセット・ブックかつ書店流通のため、ステッカー騒動の最中の最高のタイミングで発売された『制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy)』はEP-4のアルバム中もっとも広く聴かれたカセットテープ・アルバムかもしれませんが、この46分テープのライヴ盤ですでに曲順まで含めて『昭和大赦』の内容は出来上がっており、音質は民生用機材(ラジカセ一発録りを編集したものかもしれません)のため良くありませんが、代表曲とも言えるファンク曲「The Frump Jump」はスタジオ・ヴァージョン以上に作為の少ない、その分バンドの演奏力・音楽性の高さがストレートに伝わってくる好ヴァージョンになっています。

 これら初期アルバムのうち現在CD化されて容易に入手できるのはフルアルバム『昭和大赦』、ミニアルバム『昭和崩御』、ライヴ盤『Multilevel Holarchy』の3作だけで、『Multilevel Holarchy』も『制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy)』よりぐっと音質の良くタイトな演奏が聴けるライヴ盤ですが、編集もさらに凝っているために『制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy)』のストレートな臨場感と比較すると一長一短な印象もあります。オリジナル・マスター自体が音質に難があるため『制服・肉体・複製 (Costume・Corps・Copy)』のCD化は見送られているのかもしれませんが、唯一のフルアルバム『昭和大赦』は凝りすぎで、ミニアルバム『昭和崩御』はオリジナル『昭和大赦』の原タイトルとジャケット写真を世に出すための企画の趣きが強く、パンク/ニュー・ウェイヴからインダストリアル・ノイズ、ダブ・ファンクという当時のポスト・パンクの趨勢を伝える作品として、EP-4のアルバムはより土着的なレゲエ色、ジャズ・ファンク色の強い暗黒大陸じゃがたらの『南蛮渡来』(Ugly Orphan, 1982)と好対一をなすものでしょう。一方でポスト・パンク・シーンにはハードコア・パンク、ポジティヴ・パンクの流れがあり、ファンク的なものもハード・ロック的なものも、ともにのちのバンド・ブームを経てJ-POPの主流なり傍流なりに吸収されると思うと、実質的にはただ1枚のアルバムしか残さなかった(2010年代から最活動しますが)EP-4は、やはり実質的にはアルバム1枚きりのバンドだったセックス・ピストルズのような刹那感があるのです。