バド・シャンク - バッグ・オブ・ブルース (Pacific Jazz, 1956)
From the album "The Bud Shank Quartet Featuring Claude Williamson", Pacific Jazz Records PJ-1215, 1956
[ Bud Shank Quartet ]
Bud Shank - alto saxophone
Claude Williamson - piano
Don Prell - bass
Chuck Flores - drums
バド・シャンク(1926-2009)はロサンゼルスのアルトサックス、フルート奏者。'60年代以降はボサ・ノヴァ、ラテン・ジャズ系のスタジオ・ミュージシャンに転向し、ポップス系アルバムで糊口をしのいでいたチェット・ベイカーを始めするポップ・ジャズへの参加も多い人でしたが、'90年代以降は再び主流ジャズ路線に戻りました。初期の名盤『バド・シャンク・カルテット』冒頭の名曲「Bag of Blues」はテナーサックス、オーボエ奏者で作曲、編曲に長け、シャンクとの共演アルバムも多いボブ・クーパーのオリジナル曲。AABA=32小節形式の曲で典型的な定型ブルースのAA'B=12小節形式ではありませんが、洒脱な味が白人ジャズらしい「なんちゃってブルース」ぽさを漂わせる小粋でチャーミングな1曲です。シャンクのアルトを始めカルテットの演奏の軽みもバップ系黒人ジャズ中心のニューヨークのジャズとは異なる魅力があります。シャンクはニューヨークのパーカー派白人アルト奏者フィル・ウッズ(1931-2015、ビリー・ジョエルの「素顔のままで (Just the Way You Are)」のアルトサックス・ソロでも有名)のように黒人・白人の垣根を払うアメリカ全国区の一流アルト奏者とは見なされませんでしたが、ジェリー・マリガン・カルテットのアルバム制作からスタートしたPacific Jazz社からは1954年から1970年まで契約を続け、同社社主のリチャード・ボックはブルー・ノートにおけるホレス・シルヴァーの長期在籍とシャンクを比較し、マリガンやチェット・ベイカーが去ったあとのPacific社を支えたアーティストとしてかけがえのない存在だったと発言しています。
軽みと才気、若々しさを兼ね備えた粋人、シャンクのこの曲は、いわゆる「ウェスト・コースト・ジャズ」の最良の面を示した、極上の7分弱を寸分もない完成度でしめした名演でしょう。シャンク'50年代のアルバムはいずれもかっこいいジャケット・アートそのままにリスナーの期待を裏切らず、軽量級なのに味があって、黒人ジャズマン主導だったニューヨークの主流ハード・バップとはまったく異なるものでしたが、そこがウェスト・コースト・ジャズならではの力みのないテクニシャン、シャンクの美点にもなっている、くり返し愛聴できるアルバムばかりです。この曲がお気に召された方には、収録アルバムともどもお勧めいたします。