テレヴィジョン - ブライアン・イーノ・デモ1974 (Pentagram, 198?) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

テレヴィジョン - ブライアン・イーノ・デモ1974 (Pentagram, 198?)
テレヴィジョン Television - ブライアン・イーノ・デモ1974 1974, Hollywood Session Live At The "Fairland Studios" (Pentagram, 198?)
Recorded at Fairland Studios, 1974 except B3 Recorded in NY, 1975
Released by Pentagram Records PE 10.006 (LP), between 1975-1980
Engineering by Bryan Eno
Assistant Engineering and mixed by Jim Boyer except B3
Produced by Hank Cicalo except B3
Originally Produced by Brian Eno & Richard Williams (B3 only)
(Side A)
A1. Prove It (T. Verlaine) - 4:43 :  

A2. Give Me A Friction (aka. Friction) (T. Verlaine) - 4:26 :  

A3. Venus (T. Verlaine) - 3:27 :  

(Side B)
B1. Marquee Moon (T. Verlaine) - 7:08 :  

B2. Obsession (aka. Double Exposure) (B.Eno, R. Lloyd, T. Verlaine) - 3:09 :  

B3. High Voltage Pleasure (aka. Fire Engine) (B.Eno, J. Stonder, T. Verlaine) - 4:49 ※Live at Mother's, NYC, October 19 :  

[ Television ]
Tom Verlaine - vocals, guitar
Richard Lloyd - guitar, vocals
Richard Hell - bass, vocals except B3
Fred Smith - bass, vocals (B3 only)
Billy Ficca - drums, percussion
(Original Pentagram "1974, Hollywood Session Live At The "Fairland Studios" LP Liner Cover & Side A Label)
 1977年にアルバム『Marquee Moon』(Elektra 7E1098, February 8, 1977 / UK♯28, AUS♯92, Sweden♯23)でデビュー、翌年のセカンド・アルバム『Adventure』(Elektra 6E133, April 1978 / UK♯7)発表後の全米~ヨーロッパ・ツアーをこなして1978年8月には解散したニューヨーク出身のパンク・ロック・バンド、テレヴィジョンは1992年の一時的再結成、2001年からの再々結成を経て現在でも活動中ですが、リーダーのヴォーカル&ギタリスト、トム・ヴァーレイン(1949-)はメジャー・デビュー時には28歳と学生時代にデビューしていればサイケデリック・ロック世代と遅咲きで、デビュー作『Marquee Moon』が一世一代の傑作だったため以降のキャリアはどうしてもデビュー作と較べられてしまう、というミュージシャンでした。英米のロック史家にはパンク・ロック以降に決定的な影響を及ぼしたギタリストとしてポリスのアンディ・サマーズ(1942-)、ギャング・オブ・フォーのアンディ・ギル(1956-2020)と並ぶ存在とされますが、'60年代イギリスのブルース・ロック・シーンから活動してきたベテラン、アンディ・サマーズに較べても、デビュー作1作で決定的名盤を作ってしまったために後のキャリアがかすんで見える点でも、テレヴィジョンの『Marquee Moon』はギャング・オブ・フォーのデビュー作『Entertainment !』(EMI EMC 3313, September 25, 1979)と匹敵する伝説的アルバムになっています(天才ギタリスト、ブライアン・ジェイムスを擁したダムド1977年のデビュー作も加えてもいいと思いますが)。

 テレヴィジョンは1973年からニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで活動していたバンドで、ニューヨーク・パンクの中でも古株、ロンドン・パンクよりも早くパンク・ロック・ムーヴメントを先導していたバンドでしたが、パティ・スミス・グループ、ザ・ラモーンズ、ブロンディ、トーキング・ヘッズら同期のニューヨーク・パンクのバンドではもっともデビューの遅れたバンドでした。結成翌年の1974年には早くも西海岸ツアーを行っており、その時ハリウッドのプロデューサーの目にとまって、実質エンジニアを勤めたブライアン・イーノのプロデュースによって5曲のデモテープが制作されています。それが今回ご紹介した音源で、翌年脱退してリチャード・ヘル&ヴォイドイドを結成するリチャード・ヘル在籍時の編成です。今回採り上げた流出盤は1970年代からさまざまなレーベルにコピーが出回り、1975年に再びブライアン・イーノのプロデュースでニューヨークで制作された8曲のデモテープとともに地下流通のロングセラー・アイテムになっていますが、B2で「Obsession」とクレジットされている曲は正式なタイトルは「Double Exposure」で、作者もミスクレジットでトム・ヴァーレインとリチャード・ヘルの共作です。また1975年のデモテープからのB3「High Voltage Pleasure」(YouTubeに単独リンクが上がっていないので、同時期のライヴ・テイクをリンクに上げました)は実際にはテキサス州オースティンの伝説的サイケデリック・バンド、ザ・13thフロア・エレベーターズの1966年のデビュー・アルバム収録曲「Fire Engine」(Tommy Hall, Stacy Sutherland, Roky Erickson)のカヴァーで、カリフォルニア州サン・ノゼの学生バンド、カウント・ファイヴ1966年のヒット曲「Psychotic Reaction」とともにヴァーレインがソロ時代まで好んだステージ・レパートリーでした。エレベーターズのロッキー・エリクソンが1947年生まれ、カウント・ファイヴのメンバーが1948年生まれですから。ヴァーレイン自身が学生バンドでデビューしていれば同世代だったバンドです。

 本作の1974年録音のデモテープはまだリズム・アレンジにヴェルヴェット・アンダーグラウンド風の'60年代的なビート感覚がありますが、A1~A3、B1はのちにデビュー作『Marquee Moon』に引き締まったアレンジで収録される曲で、1974年時点ですでにこれはこれで完成型近くまで仕上げられていたのには驚かせられます。1975年のデモテープ8曲ではアルバム未収録になる3曲のオリジナル曲(うち1曲は自主制作シングルとしてメジャー・デビュー前にリリースされる曲)、セカンド・アルバムに収録されるオリジナル曲が1曲、ステージ・レパートリーだったローリング・ストーンズの「Satisfaction」とエレベーターズの「Fire Engine」、本作のA1、A2の再録音が行われます。テレヴィジョン、またトム・ヴァーレインはメジャー・デビューまでにすでに作風を確立しきってしまったために、デビュー・アルバムがそのままキャリアの行き詰まりになってしまったバンドでした。デビュー・アルバムのタイトル曲にしてテレヴィジョンの代表曲「Marquee Moon」は1974年のデモテープではリフの裏拍・表拍のアクセントがヴェルヴェット・アンダーグラウンド風にオン・ビートなのが面白く、ロッキー・エリクソンとジム・モリソンとルー・リードを合わせて首を絞め上げたような引きつったトム・ヴァーレインのヴォーカル・スタイル、ヴォーカル同様引きつって痙攣するようなリード・ギターもあと一押しすれば完成型、という聴きごたえと意外性のある、アルバム『Marquee Moon』のリスナーにはたまらないプロトタイプ音源になっています。リリース準備中にアンディ・ギルが逝去してしまったギャング・オブ・フォーの初期音源集『77-81』のように、アーティスト自身が現在なうちにこれらテレヴィジョンの未発表初期音源も公式リリースされてほしいものですが、今でも現役活動中というとなかなか実現できないのでしょう。ともあれ、アンディ・ギルの逝去とともに一斉に流出したギャング・オブ・フォーの初期未発表音源のように、これは聴かずには語れないパンク・ロックの秘宝です。テレヴィジョンについては日本語版ウィキペディアで、また公式アルバムの名盤『Marquee Moon』『Adventure』は手軽にYouTubeで試聴できますので、アナログLP時代からの伝説的デモテープをご紹介してテレヴィジョンへのご案内とします。テレヴィジョンがいなければギャング・オブ・フォーもジョイ・ディヴィジョンも、U2もR.E.M.も、ソニック・ユースもレッド・ホット・チリ・ペッパーズも、ニルヴァーナもレディオヘッドもないのです。