第三章突入!荒野のチャーリー・ブラウン!第11回 | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。



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 第三章・疾風丑の刻詣り、または作者を探す三組の登場人物たち。
 あらヤダわ、とみさえはひまわりの添い寝から起き出しながら柱時計の時刻を確かめました。まだしんちゃんの帰りまで買い物に行ってくる時間はあるかしら。柱時計はひろしが会社の後輩の結婚式の引き出物でいただいてきたものでした。
 最近の引き出物は気が利いてるよなー、カタログで好きなもの選べるようになっているんだぜ。最近、といっても野原一家は半永久的に夫35歳・妻29歳・長男5歳・長女0歳から歳をとらないのですが、この場合の「最近」は1990年代後半を指しているのだと思われます。ほーら、とひろしがニッセンのカタログほどではありませんが、ムーミン谷の職業別電話帳よりずっと分厚いその冊子をずい、と封筒から取り出すやいなや、
・ダイエットヨガをしていた妻みさえ
・ぶりぶりざえもんの絵を描いていた長男しんのすけ
・テレビのイケメン番組を観ていた長女ひまわり
 が正確に120度ずつ三方の角度から迫ってきました。単に欲が深いからわれ先にとただただ無我夢中なだけですが、こういう時にはチームワークが良いのが野原家の憎めないところです。
 オラはカンタムロボ!あなたジュエリーない?あままままあ。いいからまず落ち着け、みんな座れ(ひまちゃんはママのおひざね)。まずは家長のおれがだな……(よっ課長!うるさい!)。ええと、ここからここまでのページは時計か。カンタムロボ!うるさい!それから……時計……時計……時計……。あなたこれ時計しか載ってないカタログじゃない!おかしいなあ、気の早い連中なんか式のはねた後すぐ開いて喜んでたけどなあ。あなた間違えてもらってきたんじゃないの、カタログにもきっとランクがあるのよ、時計ばかりじゃカタログの意味ないじゃない!仕方ないだろっ、それよりビール、ビール。はいっ、今日は発泡酒ね、それもレギュラーサイズの!なんだよ、おれのせいかよ!課長だけに……(としんのすけは両腕を短針長針にして)カッチョン、カッチョン。お前はうまいこと言わなくてもいい!
 という事情で野原家の居間を飾っているのです。そうね、まだ二時間くらいは……とみさえが伸びをしていると、シロの喜びの鳴き声から間髪入れずしんのすけがドドドドと玄関から突進してきました。どうしたのよしんのすけ、幼稚園は、と尋ねるみさえに、しんのすけは「タイヘンなんだゾ、今スヌーピーが……」とだけ言うと、また駆け出して行ったのです。


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 そりゃ腕力では人間の少年としても非力な君にすらかなわないだろうさ、とスヌーピーは言いました。だが相撲に勝って勝負に負けた、という……逆だったかな?まあいい、そういうことわざもある。仮に武器を使っての戦いであっても、武器の性能より勝負は武器と技術の乗数で決まることくらい、ミリタリー・マニアを志したことのない君にはわかるまい。どうかねくりくり坊主くん?
 そのくらいはミリタリー・マニアでなくてもわかるよ、とチャーリーは反論しました。要するにキミはこう言いたいんだろ、運動神経や反射神経ではキミが圧倒的に有利だ、って。運動神経は攻撃力に結びつくし、反射神経は防御力以前の防御、すなわち攻撃回避能力に優れるのを意味する。つまりあれだな、牛若丸と弁慶だって言いたいんだろ?
 そうそう。だから無駄な争いはしないが賢い。君は野蛮な人間だから赤犬だと思えばぼくを食肉にもできようが、もしぼくが勝っても君に喰われるのを逃れたか先延ばししただけで、いっそ殺せば君からの危機はなくなるが、人間を殺めた動物はよほどの稀少種以外問答無用で殺処分になる。この場合の稀少種ってなんだい?パンダやコアラかい?パンダやコアラに人間が殺せるのかい?
 つまりさ、とスヌーピーは言葉を継ぎました。ぼくらが争ってどちらかが死ねば、君は勝っても負けても餓えがしのげる。死人に口なしだからね。だけど君に勝ってもぼくは君など食らうのは御免だ。先に述べた理由で君を殺めた咎で処分されるのも御免だから、結局この勝負は君がぼくに勝って犬肉にありつくか、ぼくが君を制して勝負をドロウし続けるしかない。だいたいぼくは餓えても君など殺して食べたくない。知能指数が下がってしまいそうだもの。
 ひどいこと言う犬だなあ、と偽ムーミンはあきれてまじまじとスヌーピーの表情に見入りました。いつも通り感情らしい感情の感じられない犬面がそこにはありました。
 その頃しんのすけは山を越える一本道をせっせと急いでいました。つらい斜面はアクション仮面、カンタムロボ、ぶりぶりざえもんたちの勇姿を脳裏に浮かべてがんばりました。オラ男の子だもの、本気でやらなきゃならない時には本気で勇気を出さなきゃいけないんだ。
 するとみちばたにセクシーなレースクイーンのハイレグおねいさんが立っていました。
「あら、可愛い坊や」
「オラ……ポッポー♥!」