ヨーコ・オノ - ヨーコの心 (Apple, 1970) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ヨーコ・オノ - ヨーコの心 (Apple, 1970)ヨーコ・オノ Yoko Ono - ヨーコの心 Yoko Ono/Plastic Ono Band (Apple, 1970) : YouTube Yoko Ono/Plastic Ono Band Full Album
Recorded at Ascot Sound Studios, Sunninghill, Berkshire and Abbey Road Studios, London in Early October 1970 (except "AOS" from rehearsal tape for a show at Albert Hall with Ornette Coleman Quartet, February 29th, 1968)
Released by Apple Records SAPCOR 17, December 11th, 1970
All songs written by Yoko Ono.
(Side A)
A1. Why - 5:37 (An edited version became the B-side to Lennon's single "Mother")
A2. Why Not - 9:55 (Excerpted in a 1980 RKO Radio tribute, featuring Lennon's last recorded interview)
A3. Greenfield Morning I Pushed an Empty Baby Carriage All Over the City - 5:38 (The title and lyrics come from Ono's book Grapefruit)
(Side B)
B1. AOS - 7:06 (Featuring Ornette Coleman, recorded on 29 February 1968, predating the rest of the material)
B2. Touch Me - 4:37 (Also selected as a B-side, to "Power to the People", replacing Ono's "Open Your Box" for the US market)
B3. Paper Shoes - 7:26 (Referenced by Lennon during the 1980 RKO interview)
(CD Additional Tracks)
7. Something More Abstract - 0:44
8. The South Wind - 16:38
[ Plastic Ono Band ]
Yoko Ono - vocals
John Lennon - guitar
Ringo Starr - drums
Klaus Voormann - bass
< Additional musicians (on "AOS") >
[ Ornette Coleman Quartet ]
Ornette Coleman - trumpet
Edward Blackwell - drums
Charles Haden - bass
David Izenzon - bass
(Original Apple Records "Yoko Ono/Plastic Ono Band" LP Liner Cover & Side A/B Label)
 今回ご紹介するのは日本人(正確には日系アメリカ人)女性アーティストによるロック・アルバムでは全世界的に最も高い知名度と影響力を誇るものです。日本では徹底的に無視され、嫌悪されすらしましたが、フェミニズム・ロックの確立として以降の欧米諸国の女性ロッカーにジャニス・ジョプリン以上に決定的な影響を与え、尊敬され、サウンド面でもニューヨーク・パンク、ロンドン・パンクからポスト・パンクのオルタナティヴ・ロック全般に絶大な影響力を誇り、ノイズ=インダストリアルからグランジ、ローファイ、ハウス、ジャムバンド、テクノ、トランス、ハウス、シューゲイザーまで21世紀の現在まで50年あまりを時代を隔絶したアルバムとして聴き継がれ、今なお非音楽的な録音メディア上の冗談から究極のロック・アルバムまで賛否両論評価の定まらない半永久的な問題作とされている、アルバムの存在は知っていても聴いている人は極めて少ない、おそらく今後もポピュラー音楽として受容される可能性はほとんどあり得ないだろうと考えられているアルバムです。しかしこうしたアルバムはまたとない、特権的な条件・環境があったからこそ生まれたので、これに匹敵するものは他には探しても皆無というだけでも無視のできない、だからこそ目ざわりなアルバムであり続けたのです。本来ならばこれは月の裏のように人類には観測できないはずの領域にしかあり得ないものでした。このアルバムが暴いたのはその月の裏なので、それがフェミニズム・ロックの起点と見なされるのも、また皇室や政界・財界にすら対等な出自の日系アメリカ人一世の女性によって作られたのも、文化史的な必然性を持った転換点とさえ言える出来事でした。本作の作者女性は以降もこのアルバムで公約した通りのアーティスト人生を送ります。しかも世紀に数人というような、他の誰もが真似られられないような運命すら、このアーティストにはアートの糧になりました。

 本作の邦題は『ヨーコの心』で、対をなす『ジョンの魂(John Lenon/Plastic Ono Band)』と同時リリース、メンバーも同一でジャケットもジョン・レノン(1940-1980)によって統一デザインされました。しかし『ジョンの魂』とは何もかもが対照的な反響をもって世に迎えられたアルバムです。メンバー4人中2人が元ビートルズ、1人が元マンフレッド・マンで、イギリス原盤のアルバムですから制作国ではブリティッシュ・ロックになりますし、特別に1曲1960年代最高のアメリカのフリー・ジャズ・カルテットとのセッション曲を収録してあり、この伝説的カルテットはこのメンバーでの公式レコーディングはこれが唯一というテイクです。『ジョンの魂』とは甲乙つけがたい夫婦アルバムですが、『ジョンの魂』が自意識と演出過剰で鼻につく時に本作を聴くと、音楽的な快感はむしろこちらの方に軍配が上がるとも思え、少なくともベースとドラムスの破壊力、常軌を逸したギターは『ジョンの魂』より確実に上です。『イマジン(Imagine)』と対でリリースされた2枚組LPの次作『フライ(Fly)』とともに早すぎたポスト・ロックの金字塔と言っては持ち上げすぎかもしれませんが、現にそうした評価もあり、類のないユニークなポップ音楽で、パティ・スミスもB-52'sもスージー・スーもリーナ・ラヴィッチもスリッツもレインコーツもSPKもホワイトハウスもここから生まれてきたのです。この場合の「ポップ」はポップ・アートの「ポップ」でありアート作品であって商業音楽ではないという性格からも、本作を画期的な成功作と見るか、非音楽作品として切り捨てるかをリスナーに問う時点ですでに、本作は巨大な財力と権力を当然のように与えられて生まれてきたアジア随一の上流階級・三井財閥令嬢、ヨーコ・オノ(1933-)の側に有利に働いているのです。このアートはアートである限りポピュラー音楽の基準を超越していますし、これを痛快な勝利と見るか音楽への侮辱と見るかもリスナーに委ねたからこそ本作は無視され嫌悪されすらし、また最大の賞賛を集めてもいます。まず聴く前からリスナーを敬遠させるポップ・アート音楽としても、本作『ヨーコの心』以上のアルバムはないでしょう。まるでタキシード仮面様とセーラームーンの出会いのようなこの夫婦の出会いは、ヨーコの個展で「釘を打ってください」というアートにジョンが惚れこんだことから始まったのは有名な話です。このアルバムは釘です。それを打つかどうかはリスナーの意志次第なのです。
(Original Apple Records "John Lenon/Plastic Ono Band" LP Front/Liner Cover & Side A/B Label)