「平成25年(ワ)第1112号損害賠償請求事件」(誠実義務違反は不法行為!)。

以前テキスト化した
平成25年(ラ)第1733号 面会交流審判に対する抗告事件。
に引き続き、
まだまだ問題はあるものの、
私が読んだ中では、現在において最高の判例なので、
敬意を表してここにテキスト化しておく。
つっこみは、また別途アップすることとして、
まずは、原文を読んでほしい。
原文は18ページ。
上から順に読んでいくと、
原告の言い分、
被告の言い分
裁判所の判断
というながれになる。
長文なので、とりあえず、裁判所の判断から読んだ方がわかりやすいです。
「不法行為の成否について検討する」という言葉でページ検索してください。

平成25年(ワ)第1112号損害賠償請求事件

原本は、
「共同親権運動ネットワーク(kネット) 公式サイト」

別居中、子どもとの面会妨げ 弁護士に賠償命令
にあります。
リンク先の「第1 請求の趣旨」って書きだしの画像をクリックすると、PDFで全文が見れます。

面会交流を求める場合、
この判例を引用しながら主張を展開し、
この判例を証拠として添付すべきだと思います。

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平成27年3月27日判決言渡・同日原本領収 裁判所書記官 友井満

平成25年(ワ)第1112号損害賠償請求事件
口頭弁論終結・平成26年12月11日
判決
○○○○○○
原告 ○○ ○○

○○○○○○
被告 ○○ ○○
○○○○○○
被告 ○○ ○○
被告ら訴訟代理人弁護士 
同           
同           

主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して20万円及び
  これに対する
  被告○○○○は平成25年12月21日から,
  被告○○○○は同月20日から
  各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを25分し,その1を被告らの連帯負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

被告らは,原告に対し,連帯して500万円及び
これに対する
被告○○は平成25年12月21日から,
被告○○は同月20日から
各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は、夫である原告が、
別居中の妻である被告○○及び
その代理人弁護士である被告○○
に対し,
被告○○が監護する二男につき
調停により月2回程度の面会交流が認められたにもかかわらず,
被告らが不当に面会交流を拒否したなどと主張して,
不法行為に基づき,慰謝料500万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日
(被告○○は平成25年12月21日,
 被告○○は同月20日)
から支払済みまで
民法所定年5%の割合による遅延損害金を請求する事案である。

2 前提事実

当事者間に争いがない事実並びに
各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実
は,次のとおりである。

(1)原告と被告○○は,
平成19年3月15日に婚姻した夫婦であり,その間には
長男○○(以下「長男」という。)及び
二男○○(以下「次男」という。)
がある。

(2)原告と被告○○は,
平成24年10月29日以降別居しており,
現在に至るまで,
原告が○○市内に居住して長男を監護し,
被告○○が○○市内に居住して二男を監護する状態が継続している。

(3)被告○○は,
平成24年11月,○○家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てた
(○○以下「第1調停事件」という。)。
その際,
原告は代理人弁護士を選任していたが,
被告○○は代理人弁護士を選任していなかった。

(4)平成25年4月15日,第1調停事件において,要旨次のとおり調停が成立した
(甲5。以下「本件調停」という。)。
なお,以下,平成25年は適宜省略する。
 ア 当事者双方は,当分の間,別居を継続する。
 イ 当事者双方は,婚姻解消又は同居するまでの間,
   長男の監護者を原告,
   二男の監護者を被告○○
   と定める。
 ウ 当事者双方は,
   被告○○が長男と,
   原告が二男と
   それぞれ月2回程度(原則として第2,第4土曜日)
   の面会交流をすることを認め,
   その具体的日時,場所,方法等については
   子の福祉を慎重に配慮して,当事者間で事前に協議して定める。
(5)4月中旬及び
   6月15日に,○○市内で面会交流が行われたが,
   7月6日に予定されていた面会交流については,
   被告○○が面会交流はできない旨断ったため,実施されなかった。
(6)被告○○は,
   8月2日,○○県弁護士会に所属する弁護士である被告○○に対し,
   夫婦関係調整(離婚)調停の申立てにつき委任した。
   被告○○は,
   8月5日,被告○○の代理人として,○○家庭裁判所に対し,
   夫婦関係調整(離婚)調停の申立てをした(○号。以下「第2調停事件」という。)。(乙1)
(7)原告は,
   8月12日までに,○○家庭裁判所に対し,
   本件調停に基づく面会交流を実施するよう履行勧告の申立てをし,
   同月25日までにその旨の勧告がされた。(甲10)
(8)被告○○は,
   8月9日,被告○○の代理人として原告に対して電話し,
   被告○○の体調不良により
   同月10日の面会交流は実施できないことを伝えた。また,
   被告○○は,
   同月12日付けで,原告に対して受任通知を送付した。(乙3)
(9)○○家庭裁判所は,
   10月1日,第2調停事件につき○○家庭裁判所に移送する旨の審判をし,
   現在,○○家庭裁判所において調停手続が行われている。(甲27)

3 本件の争点及び争点に関する当事者の主張

本件の主な争点は,面会交流が実施されなかったことについて,
被告らに不法行為が成立するか否かである。

(原告の主張)
(1)原告の主張する事実経過の要旨
ア 平成24年10月29日の別居以降,
  原告は被告○○に対し二男との面会交流を求めたが,
  被告○○は平成25年2月まで約3か月にわたりこれに応じなかった。
イ 原告と被告○○は,
  7月6日に○○県の○○○○動物園で面会交流を予定していたが,被告○○は来なかった。
  その後,原告は被告○○に対し振替日を求めてメールを出したが,返答はなかった。
ウ 7月19日,被告○○から,翌日の面会交流は被告○○と二男の風邪のため中止したい旨のメールがあったため,
  原告はこれを承諾して,後日,風邪の様子や振替日を尋ねるメールを出したが,返答はなかった。
エ 被告○○は,
  8月9日,被告○○の代理人として原告に電話をかけ,
  翌日の○○市内での面会交流は被告○○の体調不良により中止すること及び
  第2調停事件の申立てをしたこと
  を伝えた。
  原告は,自分が○○に行くので二男と面会交流させてほしい旨申し出,
  被告○○はこれを被告○○に伝えたが,返答はなかった。
オ 原告は,
  9月24日,被告○○に対し,面会交流を実施するよう求め,
  被告○○は事前協議に応じる旨を明らかにしたが,
  同月30日,被告○○は面会交流については第2調停事件の中で検討することが適切であるとし,
  その後,連絡手段をメールから書面郵送に変更して,
  迅速な協議を求める原告の要望を無視した。
カ 被告○○は,
  9月30日以降,原告に対し,
①場所は○○市とする,
②試行的面会交流を実施する,
③子の受け渡しは原告と被告○○が直接顔を合わさない方法で行うこと
を提案したが,原告がその必要性を問うと,説明なく①と②を撤回した。
なお,③は原告が承諾した。
キ 原告は,
  10月21日以降被告○○からの連絡が途絶えたため,
  同月31日,○○家庭裁判所に対し履行勧告の申立てをした。

(2)被告らの不法行為
 民法766条の趣旨からすれば,子の福祉のため,監護親には面会交流をできるように努力する義務があり,
非監護親は子と面会交流をする権利があるというべきであり,
面会交流が制限されるのは面会交流が子の福祉に反するという例外的な場合に限られる。
したがって,被告らの次の各行為は不法行為に該当する。
ア 被告○○において,平成24年10月29日から平成25年2月2日までの間,面会交流を実施しなかった行為
イ 被告○○において,7月6日から9月30日まで,面会交流及びその協議をしなかった行為
ウ 被告○○において,9月30日から10月11日まで虚偽の主張により協議を遅延させた行為
工 被告○○において,8月9日から9月30日まで面会交流への対応について被告○○に対し適切な関わりをしなかった行為
オ 被告らにおいて,10月1日から同月16日まで,協議を遅延した行為
カ 被告らにおいて,10月21日から11月12日まで,協議を遅延した行為
キ 被告らにおいて,10月21日以降,協議を中断している行為
ク 被告らにおいて,10月4日以降,第2調停事件の手続を遅滞させている行為

(被告らの主張)

(1)被告らの主張する事実経過の要旨

 ア 被告○○は,同居期間中,原告から暴力や暴言を受け,
「性格を直せ」と言われて○○○○○○○○○○○に連れて行かれるなど
人格を否定するようなことがあった。
 被告○○は,子供にまで危害が及ぶのではないかと不安になり,
平成24年10月29日,二男を連れて実家に帰り別居した。

 イ 被告○○は,
第1調停事件において代理人弁護士を依頼しておらず,
自分自身の意思や状況を適切に説明することができず,また,
原告の主張を受け入れなければ
原告が立腹してまた暴言を吐き怖い思いをするのではないかという恐怖心
を払しょくできないまま原告に押し切られて本件調停を成立させてしまった。

 ウ 平成25年4月中旬に○○市内で面会交流が実施された後,
5月11日に○○市内で面会交流が予定されていたが,
原告は約束の場所に現れなかった。
原告は,後で○○○○○○○○へ行っていたと述べていた。
そのため,被告○○は,5月13日に履行勧告の申立てをした。

 エ 6月15日,○○市内で面会交流が実施されたが,
その際,原告は長男と二男の荷物を全部被告○○に持たせた上,
被告○○をつけ回し,
二男の面倒を見ようとしなかったため,被告○○は恐怖感を抱いた。

 オ 7月6日に○○市内で面会交流が予定されていたが,
原告は,前日の7月5日,被告○○の父が以前の面会交流の際,
長男に対し
「すまんな,守ってやれんで」
と発言したことが虐待であるとして謝罪の動画を送信するように求め,
これに応じない限り被告の父の同席を認めないとしたため,
被告○○は父の同席がなければ面会交流はできないとして面会交流の延期を求めた。

 力 被告○○は,
7月16日,被告○○に相談し,
8月2日に委任契約を締結して
同月5日に○○家庭裁判所に第2調停事件を申し立てた。

 キ この間,原告から
7月19日に面会交流をする旨の希望が出されたが,
その頃被告○○と二男は風邪気味であったので,
被告○○は面会交流を実施できないとして断った。

 ク 原告は○○家庭裁判所に対して履行勧告申立てをし,
これに対して被告○○は第2調停事件のなかで改めて面会交流についても話し合うことを求めた。

 ケ 原告は○○家庭裁判所に対し第2調停事件を○○家庭裁判所に移送するよう申し立てたが,
○○家庭裁判所において移送に関する審判がなかなか出されなかった。

 コ 原告は,
9月24日,改めて面会交流をしたい旨提案し,
被告○○も
同月30日に○○市内において原告と被告○○が直接会わない方法であれば
面会交流可能である旨の返答をした。
 その後,原告と被告○○との間で,面会交流の場所や方法について調整が試みられたが,
原告が面会交流拒否に被告○○が関与したのかの確認にこだわったため,
具体的な面会交流の方法の合意に至らなかった。

 サ 
10月1日,○○家庭裁判所は第2調停事件を○○家庭裁判所に移送する旨の審判をした。
ところが,移送審判が原告に送達できず,被告○○が原告の住所調査をするために時間を要し,
11月17日にようやく送達がされた。

 (2)不法行為の成否

 ア 被告○○は,本件調停を遵守する意思はあったが,
原告が面会交流場所に現れなかったり,
荷物を全部被告○○に持たせた上,被告○○をつけ回すなどしたため,
原告の面会交流の目的に不信感を持ち,恐怖を覚えた。
 そのため,被告○○は被告○○に委任し第2調停事件の申立てをした上で,
調停期日で面会交流についての調整を試みるつもりであった。
しかし,第2調停事件の移送審判やその送達に時間がかかったため,
早期に面会交流をすることができなかった。

 イ 被告は早期に離婚ができると思って本件調停を成立させたが,
案に相違して紛争が長期化しその間に当事者間に葛藤状態が増したこと,
○○から○○に片道4時間半かけて通うことが予想以上に二男の負担であったことが事情変更に当たる。

 ウ 以上の事情により面会交流をすることができなかったものであるから,
被告らに故意過失はなく,不法行為は成立しない。

第3 当裁判所の判断

 1 証拠により認定できる事実

 上記前提事実に加え,各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり
の事実が認められる。

 (1)原告と被告○○は,平成19年3月15日に婚姻した夫婦であるが,
婚姻直後から原告が暴力を振るうことがあり,
夫婦関係が悪化して
平成20年9月ないし10月頃、被告○○が実家に帰り平成21年6月頃まで別居状態が続いた。
その後,
原告が暴力を振るわないことを約束した上で,
原告と被告○○は同居を再開し,
平成22年に長男,
平成24年に二男が出生した。(甲92,乙7,原告本人,被告○○本人)
 なお,暴力の内容及び時期については,客観的な証拠がないのでこれを認定することができない。
また,被告○○は,原告から暴言を浴びせられるなど人格を否定されるような扱いを受けたと主張しこれに沿った供述をするが,
これを裏付ける客観的な証拠はない。
かえって,証拠(甲40,42,103,104)によれば,
別居後とはいえ被告○○も原告に対してメールで暴言を浴びせていたことが認められることに照らすと,
被告○○が原告に対し恐怖感を抱いていたとは認めるに足りない。

 (2)被告○○は,原告の言動に不満を募らせ,
平成24年10月29日,二男を連れて実家に帰り,別居状態になった。

 (3)被告○○は,
平成24年11月、○○家庭裁判所に対し第1調停事件の申立てをした。
 第1調停事件係属中の
平成25年2月から4月にかけて,5回程度,面会交流が実施された。
このうち3回は○○で行われたが,被告○○は,母とともに二男を連れ,
休憩も含めて片道約4時間半かけて自家用車で移動した。
 (被告○○本人)
 
 (4)
平成25年4月15日,第1調停事件において本件調停が成立した。(甲5)

 (5)4月20日,○○市内で面会交流が実施された。
その際,被告○○の父が,
原告に監護されている長男に対して,
「守ってやれんでごめんな」
と発言した(以下「4月20日の発言」という。)
ことにつき,原告は,
同月21日に被告○○に対して抗議のメールを出した。(甲39, 原告本人)

 (6)被告○○は,
5月11日,本件調停により面会交流日と定められた第2土曜日であったため,
父とともに二男を連れて○○市の原告の実家を訪れたところ,
原告は被告○○から事前に面会交流場所の連絡がなかったことから同日に被告○○が来訪することはないものと誤解し,
長男とともに外出していたため面会交流ができなかった。
(甲46, 47,67,原告本人,被告○○本人)

 (7)被告○○は,
5月13日,○○家庭裁判所に対し,履行勧告申立てを行った。
○○家庭裁判所は,原告に対し,
同月27日までに被告○○と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。
 一方,原告も,
同月21日,○○家庭裁判所に対し,履行勧告申立てを行った。
○○家庭裁判所は,被告○○に対し,
同月30日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。
 (甲49,50)

 (8)その後,原告と被告○○は面会交流の日時や場所について協議を行い,
6月15日,○○市内(ゆめタウン)において面会交流が実施された。
 その際,被告○○が長男と手をつないで歩くと,原告は二男を抱いてその後ろを歩いた。
 (甲51~57, 原告本人,被告○○本人)

 (9)原告と被告○○は,メールにより面会交流の場所等を調整し,
7月6日正午から午後5時までの間,○○○○動物園(雨天等の場合は○○○○○○○○児童館)
で面会交流を実施することを合意した。
 被告○○は,
前日5日に原告に対して送信したメールにおいて,両親を同行する旨を伝えたが,
原告は,被告○○の父は以前から暴言癖があり4月20日の発言のこともあるので同行するのであれば暴言を反省し改善することを約束する旨の動画をメールに添付して送信することを要求した。
これに対し,被告○○は上記要求には応じられないとして,
7月6日の面会交流を拒絶した。
(甲58~62, 原告本人,被告○○)

 (10)原告は,被告○○に対し,
7月20日の面会交流について協議を求めたが,
被告○○は,同被告及び二男の体調不良を理由に拒絶した。
この問,被告○○は,被告○○に相談し,
8月2日に委任契約を締結した。
(原告本人,被告○○本人)
 (11)被告○○は,
8月5日,被告○○を代理人として、○○家庭裁判所に第2調停事件の申立てをした。
また,被告○○は,
同月9日,原告に対して電話で被告○○の体調不良のため
同月10日の面会交流は実施できない旨伝えるとともに,
同月12日,受任通知を送付した。
また,被告○○は,原告に対し,
第2調停事件の期日において改めて面会交流の方法について話し合いたい旨メールで申し入れた。
原告は,被告○○に対し,被告○○の体調か悪いのであれば場所は○○市内でいいから面会交流を実施したい旨メールで申し入れた。
(甲11,12,97, 乙1~3)

 (12)原告は,
8月12日までに,○○家庭裁判所に対し履行勧告申立てをした。
○○家庭裁判所は,被告○○に対し,
同月25日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。
これに対し,被告らは特段の応答をしなかった。
(甲10,15,原告本人)

 (13)原告は,
9月24日,被告○○に対し,面会交流を実施するよう求めるメールを送信した。
被告○○は,
同月30日,原告に対し,面会交流の実施を了承するが,
その条件として,
①○○市内で実施すること,
②原告と被告○○が直接顔を合わせないよう被告○○の事務所で子の引渡しをすることを提案するメールを返信
した。
 これに対し,原告は,同日,上記提案に対しては直接答えず,
7月6日以降面会交流がされていないことにつき被告○○が関与したのかを質問するメールを送信したところ,
被告○○は,面会交流の件については改めて書面で提案するというメールを返信し,
以降メールでのやり取りを打ち切り,
専ら書面郵送の方法で原告と連
絡するようになった。
(甲13~18)

(14)被告○○は,
10月1日,書面により,原告に対し,
○○市内(被告○○の事務所)において面会交流をすることを提案した。
 これに対し,原告は,
時間のかかる書面郵送の方法を用いることや,
場所を被告○○の事務所とすることなどの合理性を問いただすメールを送信した。
 被告○○は,
書面郵送の方法を用いる理由は
「意見の対立がみられるため,争点を明確化し,適格に解決すべく」(原文ママ)
というものであること,
場所を被告○○の事務所とする理由は被告○○の両親が多忙であるためであるなどと返答し,
面会交流に関する協議は,
第2調停事件において家庭裁判所調査官関与の上で試行的面会交流をするのが適切であると回答した。
 その後,原告と被告○○との間で,
10月21日までの間,
被告○○がメールを利用しない理由や面会交流の場所をどうするかなどにつき,
原告からはメールで,
被告○○からは書面郵送の方法でやり取りがされたが,合意には至らなかった。
(甲18~25)

(15)この間,○○家庭裁判所は,
10月1日,第2調停事件につき○○家庭裁判所に移送する旨の審判をした。
ところが,被告○○が申立書に原告の住所を誤って記載していたため
(正確な住所は○○○○○○○○であるが、○○○○○○○○と記載されていた。
なお郵便局の取扱いでは普通郵便については住所に多少の誤記があっても配達できるが,
書留郵便等においては正確な住所を記載しない限り配達できない。),
原告に審判書を送達するのに時間を要した。
被告○○は,本件調停調書の記載等から原告の正確な住所を容易に認識することができる状態にあったが,
それまで普通郵便は誤記した住所にも届いていたため,原告の住所を誤解していた。(甲5,乙4~6)

 (16)被告○○は,
10月21日以降,原告に対して書面郵送の方法も含め連絡をしなかったので,
原告は,
同月31日,○○家庭裁判所に対し再度履行勧告の申立てをした。
○○家庭裁判所は,被告○○に対し,
11月15日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。
これに対し,被告らは特段の応答をしなかった。(甲26)

 (17)被告○○は,
11月12日,○○家庭裁判所に対し住所訂正の上申書を提出し,
同月17日,原告に対し移送審判が送達された。(甲27, 乙6)

 (18)原告は,
12月10日,本件訴えを提起した。

(当裁判所に顕著な事実)

 (19)
平成26年1月23日の第2調停事件の第1回調停期日において,
原告と被告○○ないしその復代理人との間で面会交流について協議がされ,
同年2月1日に○○市内で面会交流が実施された。(甲82,83,乙8)

 2 不法行為の成否
 上記1認定事実に基づき,不法行為の成否について検討する。
 
(1)本件調停成立以前の不法行為について
 一般に,監護親は,
子の福祉のため,
非監護親と子が適切な方法による面会交流をすることができるように努力する義務があり,また,
非監護親は子と面会交流をする権利がある
ということは明らかである。

 もっとも,本件調停成立以前においては,
面会交流の具体的日時,場所,方法等が決定されていないことを考慮すれば,
上記の権利及び義務は,いまだ抽象的なものにとどまり,
原告が二男と面会交流をすることができなかったからといって
直ちに原告の法的保護に値する利益が侵害されたとまではいえない。

また,同様に,被告○○が面会交流をできるように努力する義務を負っているとしても,
結果的に面会交流ができなかったからといって
直ちに原告に対する不法行為を構成するということはできない。

 したがって,本件調停成立以前の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

 (2)本件調停成立以降の不法行為について
 
ア 本件調停に基づき発生する注意義務

 (ア)本件調停においては,
面会交流の具体的日時,場所,方法等の詳細については
当事者間の協議によるものとされており,また,
上記協議の方法や内容についても当事者に委ねられている。
したがって,
本件調停の不履行を理由として間接強制をすることはできないと解されるし,
当事者の行うべき協議の内容の特定を欠くことから,
本件調停に定められた協議を実施しないことを理由として
直ちに本件調停の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることもできないと解される。

 しかしながら,本件調停においては,
面会交流の実施回数と実施日につき月2回(原則として第2,第4土曜日)と具体的に定めた上で,
その詳細については当事者間の協議に委ねていること及び
非監護親との面会交流が子の福祉のため重要な役割を果たすことに鑑みれば,
当事者は,本件調停に従って面会交流を実施するため
日時等の詳細について誠実に協議すべき条理上の注意義務
(以下「誠実協議義務」という。)
を負担していると解するのが相当である。

そして,一方当事者が,
正当な理由なく一切の協議を拒否した場合や,
相手方当事者が到底履行できないような条件を提示したり,
協議の申入れに対する回答を著しく遅滞するなどして
社会通念に照らし事実上協議を拒否したと評価される行為をした場合には,
誠実協議義務に違反し
相手方当事者のいわゆる面会交流権を侵害するものとして,
相手方当事者に対する不法行為を構成するというべきである。

 (イ)被告○○は,
本件調停後,離婚訴訟を提起すれば早期に子らの親権者を被告○○と指定して離婚する旨の判決を得られると思っていた旨の供述をするが,
本件調停は第1項に「当事者双方は,当分の間,別居を継続する。」と定められていることに照らすと,
第1調停事件において被告○○は弁護士に委任していなかったことを考慮しても,
上記供述はにわかに信用することができない。
また,仮に被告○○がそのように誤解していたとしても,
その根拠は不明であって被告○○の一方的な思い込みであるといわざるを得ない。

したがって,上記の事情は,誠実協議義務を阻却する事由には当たらない。

 (ウ)また,被告らは,被告○○が二男を連れて○○に通うことか困難である旨の主張をする。
しかしながら,被告○○は交通事情につき本件調停成立時に認識していたことが明らかであり,
実際に,第1調停事件係属中にも○○市内で面会交流をしている。

また,面会交流の際には被告○○の父ないし母が移動に付き添い,
自動車の運転や二男の世話を手伝っていること,
原告も,長男を連れて○○に行き面会交流をしているが,
その際には,○○付近で一泊するなど負担軽減のための工夫をしていることも認められる
(原告本人,被告○○本人)。
もちろん,○○・○○間の往復が幼児である二男にとって一定程度の負担になることは否定できないものであるが,
本件調停に定められた面会交流の頻度は月2回程度にすぎないことからすれば,
面会交流を行うことにより子の福祉が増進する利益に比較して
上記負担は軽微なものであるというべきである。

 本件調停において面会交流場所は特定されていないことからすれば,
被告○○において面会交流場所につき要望を述べることは許容されているが,
上記の事情を考慮すれば,
移動の負担は事情変更とはいえず,
これを理由に誠実協議義務が阻却されることはないというべきである。

 (エ)以上の観点に基づき,各時期について,被告らに誠実協議義務違反があったといえるかについて検討する。

 イ 7月6日から8月上旬までの期間

 (ア)上記1(9)認定によれば,
7月6日の面会交流につき原告と被告○○の協議が決裂し,
被告○○は同日の面会交流を拒否したことが認められるので,
これが誠実協議義務違反というべきか否かについて検討する。

 (イ)被告らは,
被告○○が原告に対して恐怖感を抱いていたこと,
本件調停後葛藤状態が増したことなどを主張する。
 確かに,上記認定のとおり,同居期間中に原告が被告○○に対し暴力を振るったことがあることは認められる
(ただし,その詳細については客観的証拠がなく認定することができない。)。
しかしながら,
上記1(1)認定のとおり,被告○○においても別居後のメールのやり取り等で
原告に対して感情的な暴言を浴びせていたことがあるなどの事情も認められ
(甲40,42,103,104),
これによると,
被告○○が原告に対して恐怖感を抱いていたということには疑問を挟む余地がある。

また,別居後当事者間の葛藤状態が増したというべき事情も見当たらない。

したがって,上記事情をもって誠実協議義務が阻却されるということは相当ではない。

 (ウ)また,被告らは,
6月15日の面会交流の際に原告が被告○○を付け回したなどと主張するが,
これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。

被告○○は,
原告と感情的に対立しているため付け回されたと感じたとしても,
面会交流において親子4人で行動したことをもって
直ちに付け回したと評価することはできないものであって,
被告らの上記主張は採用することができない。

 (エ)もっとも,被告○○は,原告との面会交流に関する協議自体は行っているものであり,
それが決裂に至ったのは,被告○○の父を同行するか否かの点で意見の一致をみなかったためである。
 確かに,被告○○の父による4月20日の発言は長男に忠誠葛藤を生じさせるおそれのあるものであり,
また,証拠(甲60)によれば被告○○の父は激しい言動をする人物であることがうかがわれるので,
原告が被告○○の父に謝罪を求めたり,
謝罪がない限り同行を認めないと主張したことは合理性がある。
しかしながら,
本件において同居中に暴力があったことを考慮すると,
父の立ち合いがなければ面会交流を実施できないとした被告○○の態度が必ずしも不当であるとまではいえないし,
原告が動画を送付するという方法での謝罪を要求したことも協議がまとまらなかったことの要因であるといわざるを得ない。
そうすると,
7月6日の面会交流に際し被告○○において事実上の協議拒否があったとまではいえず,
不法行為を構成するものではない。

 (オ)その後,
8月上旬まで面会交流は実施されていないが,被告○○は自分自身及び二男の体調不良をその理由としており,
これが虚偽であることを認めるに足りる客観的証拠は提出されていないので,
このことをもって被告○○に誠実協議義務違反があったということもできない。

 (カ)他に,
7月6日から8月上旬までの期間について被告○○に不法行為が成立するというべき的確な証拠はない。

 ウ 8月上旬から9月末までの期間
 (ア)被告被告○○が被告○○に委任し,
被告○○において被告○○の代理人として第2調停事件の申立てをした後は,
原告と被告○○の間で面会交流に関する協議がされた。
上記1(11)認定のとおり,
被告○○は,当初は第2調停事件の期日における協議を求めたが,
移送の審判に時間を要したため,
9月24日から原告と被告○○の間で直接協議がされた。

 (イ)第2調停事件の申立てにより本件調停が当然に失効するわけではない以上,
第2調停事件において本件調停を変更する内容の調停や,
当面の間本件調停と異なる方法で面会交流を行う旨の中間的合意が成立するまでの間は,
本件調停に基づく誠実協議義務が残存していることは明らかである。

 もっとも,通常であれば
申立て後速やかに第1回調停期日が指定されると考えられること,
被告○○は第1回調停期日の指定が遅れている状況に鑑み
9月30日には第2調停事件の期日以外において面会交流協議をすることを了承したこと(甲14)
に照らせば,
被告○○において
第2調停事件の期日における協議を求めたことが
事実上の協議拒否や不当な遅延行為に当たると評価することは困難である。

 (ウ)以上の事情を考慮すると,8月上旬から9月末までの期間,
被告らに誠実協議義務の違反があったということはできず,
不法行為は成立しない。

そして,他に上記期間に被告らに不法行為が成立するというべき的確な証拠はない。

 エ 10月以降
 (ア)10月以降も,原告と被告○○の間で面会交流に関する協議が行われたが,
この間,被告○○はメールではなく専ら書面郵送の方法により原告に連絡をしている。

 被告○○から原告に送付された書面には,
メールを使用しない理由として,
「意見の対立がみられるため,争点を明確化し,適格に解決すべく」
との記載があるが,
本件は時効中断や形成権の行使等の書面による証拠化が必要な事案ではないし,
感情的対立を防ぐため
電話よりも書面郵送の方が優れている部分もあるにせよ,
メールによる連絡が可能であり
実際に9月まではそのようにされていた本件において,
あえて時間のかかる書面郵送を用いることにつき,
合理的な理由は見当たらない。

これに,被告らは第2調停事件において改めて面会交流のルールを作成すること
(すなわち,本件調停の効力を失わせること)
を求めていたこと及び
10月21日以降は書面郵送による協議すら行った形跡がないこと
(被告らは○○家庭裁判所からの履行勧告に対しても応対していない。)
を併せ考慮すると,
原告が被告○○に対して面会交流の方法等について必要以上とも思える説明を求めていたことや
法律専門家である弁護士は交渉手段の選択について裁量の幅を有していることを考慮しても,
被告○○の上記行為は
第2調停事件において調停期日が指定されるまで面会交流を行わない目的をもってする意図的な遅延行為であることが推認され,
これを覆すに足りる客観的証拠はない。

 (イ)第2調停事件が係属した後であっても
本件調停に基づく誠実協議義務が否定されるものではないことは上記ウ(イ)説示のとおりであって,
特に6月以降は面会交流が途絶えており
子の福祉の観点から早急な面会交流の再開が求められている状況に照らし,
被告○○は,
速やかに面会交流が実施できるようにするための誠実協議義務
を負っていたことが明らかである。
そして,原告に受任通知を送付し被告○○の代理人として
原告との交渉窓ロとなっていた弁護士である被告○○は,
このことを認識していたか,
そうでないとしてもその法律知識,能力をもってすれば極めて容易にこれを認識し得たというべきである。

 そうすると,被告○○が
10月上旬以降第2調停事件において面会交流に関する協議を行うまでの間
原告からの協議の申入れに対して速やかに回答せず,
殊更に協議を遅延させ面会交流を妨げた行為につき,
弁護士の専門家としての裁量の範囲を考慮しても,
なお社会通念上の相当性を欠くものとして誠実協議義務の違反があり,
不法行為を構成するというべきである。

 また,証拠(被告○○本人)及び弁論の全趣旨によれば,
被告○○は被告○○から原告との協議の状況について随時報告を受け相談していたことが認められるので,
被告○○についても,被告○○の上記行為につき主観的関連共同性があり
共同不法行為責任を負うものというのが相当である。

 (3)慰謝料額
 上記認定の事実経過等本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると,
本件の慰謝料は20万円が相当である。

第4 結論
 その他原告及び被告らは縷々主張するが,
各証拠に照らしていずれも採用することができず結論を左右するに至らない。
 以上によれば,原告の請求は,20万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで
民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,
その余は理由がないので,よって主文のとおり判決する。
熊本地方裁判所民事第2部
裁判官 中村 心

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