誰もが納得! I  広島弁じゃけぇ。

 

7 ヨボウってなんだ??

 二葉里志さんのクリニックに60歳台の女性患者、Aさんがやって来ました。今日は左下小臼歯部の温水痛を訴えての受診のようです。レントゲン撮影の結果、左下45間に大きなう蝕がみられ、そこが原因歯のなのは一目瞭然です。二葉さんはAさんにレントゲン写真を見せながら、「これは大きな虫歯ですねぇ、さぞかし痛かったことでしょう。麻酔をして虫歯部分を取り除きますが、神経まで虫歯がいっている場合には神経を取ることになりそうです」、と説明します。「エーっ!そんなに深いんですかぁ?私は怖がりなので痛くないように、しっかりと麻酔は効かせて下さいね」。「任せて下さい。絶対に痛みを感じさせませんから」。そう、二葉さんは歯科麻酔についても勉強熱心なのです。

 

 慎重に麻酔を施した二葉さんは、Aさんを気遣いながら背もたれを起こして、「うがいをどうぞ」。Aさんは「ヨボウてヨボウて上手く出来ません」と。二葉さんの頭の中では、(ヨボウ、ヨボウ、予防、予防・・・、僕が予防歯科出身なのを知ってるのかな?)・・・。

 

 広島県内の中高年は「液体が伝って流れ落ちる」という意味で「ヨボウ」を使います。Aさんは「麻酔が口唇に奏効して、うがいをしようにも口からこぼれてしまって上手く出来ない」と伝えたかったのですね。例えば「醤油差しの注ぎ口からヨボウ」たり、「急須の口からヨボウ」たりしますね。標準語にはない動詞なので、使い方によっては便利な言葉といえます。広島県内のみならず中国地方、四国、九州の広い範囲で使われているようです。語源は分かりませんでしたが、広範囲で使われていることから古語に語源があると推察する筆者です。


 古語辞典でヨボウを調べてみると、「よばふ(呼ばふ)」(発音はヨボウ)[「繰り返し呼び続ける」という意味合い。転じて、「男が女に言い寄る(求婚する)」という意味]が出てきましたが、どー考えてもこれは違いますね。ちなみに古語辞典によるとこのから《「呼ばう」の連用形「よばい」「夜這い」「婚い(よばい)」言葉が生まれたようです。漢字は「呼ばい」「婚い」「夜這い」と変化しているのは、言葉と漢字は別々に普及していった証拠と言えそうで、興味深いと思いませんか。それにしても「夜這い」=「夜に這うようにして忍び寄る」とは素晴らしい当て字ですね。筆者は古(いにしえ)の人のこんなセンスが好きなのです。皆さんも「夜這う」or「婚う」際のピロートークにこのエピソードを紹介してみてはどうでしょうか(結果は保証できません())。

 二葉さんも直感的に予防歯科と間違えてしまいましたが、発音は同じでも大きく意味が異なりますから間違えは厳禁です。日々の臨床で耳にすることの多い言葉ですので、覚えておきましょう。

 

参考文献 「廣島縣方言の研究」廣島縣師範學校郷土研究室編

国語学的な知識を持たない一介の歯科医の見解であり、間違っているかもしれません(笑)。