二葉里志さんのクリニックでは週に一度、勉強会を兼ねてスタッフ全員参加のランチミーティングが行われています。「広島市歯科医師会だより」に連載の「誰もが納得! I ❤ 広島弁じゃけぇ。」はスタッフ受けもよく、ミーティング中に話題にあがることもしばしばです(自画自賛(笑))。そんな中、二葉さんをはじめ、スタッフ一同まったく理解できない広島弁に遭遇してしまったので紹介します。

60歳台の男性患者、Aさんは初めて二葉さんのクリニックを訪れました。Aさんのしゃべる言葉は広島弁のようでありながらも、どことなく名古屋弁の様な不思議な言葉に聞こえます。Aさん、「食べ物をイナス時にどうも引っかかってやれにゃあ」と。

相撲中継を観ていると、相手が突進してきた時に動きを上手にかわして、相手の体制やスタンスを崩す意味合いで「イナス」を使っていることが分かります。また、相撲用語から転じたのか、言葉での追及や攻撃に対しても使われます。相手が理由や原因を厳しく追及してきた際、言葉や態度で相手をはぐらかすようにあしらうことを意味します。こっちは力士ではなく、政治家の得意技ですね(笑)。

 


語源を調べてみると、「立ち去る・去る・行ってしまう」の古語である「いぬ【往ぬ・去ぬ】」にあるようで、漢字では「往なす・去なす」と表記します。広島弁(安芸地方)では「帰らせる・よそへ追いやる」の意味で「イナス」を日常的に使いまよすね。ところが、Aさんの育った備後地方では「よそへ追いやる」の意味から転じたのでしょうか?なんと!「飲み込む・嚥下する」を「イナス」と表現するようです。確かに、嚥下は口腔内から食物を「よそへ追いやる」ようにも見えますが・・・。

広島市内で育った筆者も本連載のためにネットサーフィンしていて初めて知ったくらいですから、二葉さんが知らなかったのも当然でしょう。また「廣島縣方言の研究」廣島縣師範學校郷土研究室編にも記載がありませんでしたので、備後地方特有の用法なのでしょう。

備後弁とはいえ、摂食嚥下にかかわる知らない広島弁がまだあったんですね。死ぬまで勉強の必要性を痛感した筆者でした。

※参考文献 「廣島縣方言の研究」廣島縣師範學校郷土研究室編
※国語学的な知識を持たない一介の歯科医の見解であり、間違っているかもしれません(笑)。
<広島市歯科医師会だよりNO.169(R3.5.14)掲載>