本稿に取り組むきっかけ

何だか後ろ向きの様に感じて「いわゆる闘病記」を残すつもり等サラサラなかったのだが、多くの同病患者が

人工呼吸器装着後の生活に悲観して呼吸器の装着を拒み亡くなっている現状を憂い、本稿が現状打破の一助になればと思い、私なりの「ALS考」を綴ってみることにした。

 

連載の経緯

2018年10月、知らない人から突然メールが来た。

三保 浩一郎 様

 

初めまして。中国新聞社文化部の●●と申します。平素より、弊社の取材活動にご協力いただきありがとうございます。▲▲記者から三保先生のことを伺い、弊紙朝刊くらし面への寄稿連載をお願いできないかと思い、連絡いたしました。

広歯月報の記事を毎回、楽しく拝読しています。「へえ」と思うことが満載で、大変勉強になります。三保先生が、ALSを発症されてから、日々感じられていること、大事にされている思い、趣味のことなどを、弊紙の読者にもぜひお伝えできればと考えています。人工呼吸器を装着しても、社会生活が営めるという発信を、ぜひ、弊紙を通してもお願いしたいと思った次第です。

月報でご紹介されていた「免許返納」や「福祉車両の購入」「入浴」などは、他の病気の患者さんたちにとっても、三保先生の思考の過程が参考になるのではないかと思いました。また、これからの社会の在り方を考える一助になるのではと感じています。

つきましては、一度、お会いして、寄稿についてのご相談をさせていただけませんでしょうか。お受けいただける場合は、1回600~800字程度でお願いできないかと考えています。まずは、メールで失礼いたしました。どうぞ、ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。

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中国新聞文化部

●●

〒730-8677

広島市中区土橋町7-1

 

 

▲▲は以前、オートバイレース史を出版した際に記事にしてくれた美人女性記者の名前だ。自宅で会った●●記者は物腰柔らかく、広歯月報の本連載を表面だけでなく、文字の裏に忍ばせた私の意図までをも読んでいるように感じ、気を良くした私は二つ返事で中国新聞の連載を引き受けることにした。声を発することのできないALS患者が多い中、大変栄誉なことだ。聞けば水曜日のくらし欄、医療などのページの中で、600字から800字程度の枠だという。そんな文字数で起承転結、ボケとツッコミを完結させられるのか?

 

担当記者からは連載4回(ひと月)で一つのテーマを取り上げながら連載して欲しいとの申し出があり、自分なりに連載計画を立ててみた。連載を通して起承転結を付けるのはもちろんのこと、連載4回で一つのテーマの起承転結を付けながらも、1話800字でも起承転結を付けるのは至難の業だな・・・と頭を抱えた。「NHK、朝の連続テレビ小説の脚本家や新聞の連載小説の執筆者は凄い能力じゃ」、と感心する。と言っても向こうはプロ中のプロじゃ。そういえば謝礼もプロには程遠い1連載数千円と安かったな(笑)。連載回数も好きに決めてくれという。「うーーん、どうしよう・・・」、本心ではエンドレスで書きたい気持ちもあったが、何となく6つのテーマに触れることにして「24回とします!」とメールで返答した。

 

6つのテーマは順に①病名告知編、②ALS病歴編、③目標設定編、④患者会(ALS協会広島県支部)活動編、⑤障害者差別編、⑥将来の夢編、とした連載企画をぶち上げてみた。⑤の障害者差別は広歯月報での本連載その20が評判良かったのでその焼き直しとし、他にも面倒くさがりの私は中国新聞社の記者が本連載を他の人にも伝えたいと、拡大解釈し、焼き直しを多用する計画だ。タイトルも本連載の「ALS恐るるに足らず」は避けたいということで、記者の提案に従い「ALSひるまず力まず」に決まった。

 

本連載は読者が広島県内の同業者に限定されるので(中国新聞社の記者が読んでることなんて思いもしなかった)、読み手の考え方、医学的知識も私と同じである、と勝手に想像してどんどん書き進めることができるが、焼き直しとはいえ中国新聞となると不特定多数、幅広い読者が読むと思うと身構えてしまい、ペン(と言ってもペンは持てんが)が進まなかった。

 

また写真も掲載してくれという依頼もあった。本連載では県歯会員限定の刊行物であるので著作権にはうるさくないと勝手に判断して(笑)、ネットの拾い物など、本来は著作権が発生する画像も添付しまくっているが、ネットから許可なくコピペすることはNGなのをオートバイレース史を出版した時に学んだ。担当記者にその旨伝えると、イラストを多用しようと提案があり、素敵な女性イラストレーターを紹介され、連載の大半でイラストの私が活躍した。イラストで描かれる私は誰もが「この男前誰?」と首をひねる姿だったが、きっと女性イラストレーターの目にはそう映ったのだろう。罪な男じゃ(笑)。

 

担当記者・女性イラストレーターと

 

執筆開始

自分では病名告知の瞬間を第一回目に持って来るのがインパクトのある書き出しになると考え、原稿をメールに添付して送信してみた。記者からの返事は「現在の身体の状態の紹介にして下さい。これは上司の意見でもあります」と。うーん・・・好きに連載していい訳ではないのね。気を取り直し、「シュー、シュー、シュー」と人工呼吸器の機械的な呼吸音を書き出しに持って来て、4回連載分の原稿をメール送信した。数日後に担当記者の手の入った原稿が返ってきた。ある程度は想像していたが、それ以上に編集されとるぞ!なにより一つ一つの文が短くなっとる!そういえば新聞の文体って短かった気がするわ。担当記者によると、中学生でも読める文書を目指してくれと。その他にも誤解を招きかねない表現や分かりにくい表現は理由を知らせた上で訂正された。

 

そんなこんなで3月6日に連載は始まった。6か月、24回の予定だ。編集で削られることを見越して、規定の文字数の約一割増しの原稿を送付するとちょうど良いことも学んだ。連載の途中では何度か紙面の都合で「お断り 連載『ALSひるまず力まず』は休みました」との告知が載るたびに、「体調が悪いのか?」「生きてる?」「ど・どした?」と山ほど連絡が来るのには閉口した。せめて「紙面の都合で」とか「筆者の都合ではありません」とか書き添えてほしかったなぁ。また、山本太郎氏率いるれいわ新選組から私のように人工呼吸器を装着した参議院議員が誕生した際には、連載予定を変更して急遽議席獲得について触れてくれと依頼された。新聞向けにかなりトーンを落としたつもりで原稿を仕上げたが、それでも私の持論は大幅にカットされて掲載された。

 

休載の告知

 

24回の連載の計画だったが、参院選で1回、終盤に書き足りなくなってもう1回連載を増やしてもらい、都合26回の連載となった。「やれやれ終わった」と最終回の原稿を送付すると、「好評につき、インタビュー記事をお願いします」とメールが返ってきた。インタビュー記事なら頭をフル回転させて原稿に向かう必要もないので快く引き受けた。記事掲載の朝っぱらから妻が騒々しい。ため息交じりに隣室で文句言ってるのは分かるが、内容までは分からない。聞けばどうやら私の膝に乗るチワワのハレ君の表情が気に入らないらしい・・・。

 

26回の連載

 

まとめ

一般に病人の書いた文章は暗くなりがちだが、それなりに三保らしさが出せた連載だったような気がする。多くの方から「文書力あるね~」とお褒めの言葉を頂いた。記者によるとデスクも舌を巻いたという。そりゃあそうだ。だって現国は10段階の3が指定席だったもんね(笑)。また読者からの声もたくさん中国新聞社に届いたという。広場欄でも私の連載に触れた投稿が何通かあった。また複数の友人からは書籍化を薦められた。実は連載中には絶えず「書籍化」という下心(笑)がちらついていた。下心では「文字に魂を込める」→「中国新聞社内で『これは凄い』と話題になる」→「中国新聞出版から書籍化のオファーがくる」→「ベストセラー作家の仲間入り」(笑)、と妄想したものだが、商業出版社も含めてなーんにも音沙汰はない。結構読者はいるはずだけどなぁ、中国新聞・・・

 

街で知らない人から「三保さんですよね、新聞読んでますよ!」と声を掛けられることも何度かあった。連絡の途絶えていた古い友人からも連絡があったのも嬉しかった。連載中は締め切りの事が頭から離れず、いつもより緊張した日々を過ごしたが、今となってはそれもいい思い出だ。広歯月報の本連載をはじめとして歯科医師会の仕事に全力投球じゃ!

(つづく)

※本連載は歯科医向けの連載ですので専門用語を含みます。

<広歯月報No.777 令和2年2月号掲載>