②ALS患者の口腔ケア 広島県支部 三保浩一郎 (患者・歯科医師)
ALS患者にとって口腔ケアはとても重要です。毎日の栄養を口から摂取しているか、胃瘻から摂取しているかで、口腔ケアへの考え方を変えなければなりません。口からの場合は、健常者と同様に虫歯予防・歯周病予防を主な目的としますが、私のように胃ろうからの場合は、ただ一点、誤嚥性肺炎を防ぐのが目的と言っていいと思います。
虫歯を引き起こすには、「歯」、「ショ糖」、「虫歯菌」の3つの要素が必要ですので、口からの摂取を断念するとショ糖の供給が断たれるため、虫歯は(発生)起きません。一方で歯周病菌は肺炎の原因菌と言われていますので、歯周病予防=誤嚥性肺炎予防と考えられます。
ALSと告知されたら、訪問できる歯科医を探すといいでしょう。定期的に訪問歯科医の診察を受けることで口腔ケアの指導、虫歯や歯周病の検査などを在宅で受けることができる上に、普段から付き合うことにより、小さな異変でも気軽に相談できるメリットははかり知れません。また病状が進行したALS患者は口を大きく動かすことが困難になり、顔面が硬直し、コミュニケーションや表情にも支障をきたすので、口腔ケアだけでなく、口まわりの顔面の筋肉のほぐし方も指導してもらえるので気軽に利用してください。ただでさえ恐ろしい歯科治療ですが、ALS患者にとっては大きな見方になってくれるはずです。
家族や介護士による口腔ケアを紹介します。
スポンジブラシ、歯ブラシ、歯間ブラシ等、 水を張ったコップを二つ、歯科用排唾管、吸引器(持続吸引器)を用意します。※二つのコップのうち一つはブラシを大まかに洗う用、もう一つはブラシの仕上げ洗い用です。歯科用排唾管は100本入りで数百円と安価ですので訪問歯科医に相談するといいでしょう。持続吸引器はペットショップやホームセンターで入手できる金魚ポンプを改造したものが一般的ですので、ネット検索や先輩患者から教えてもらうとよいと思います。
① まず患者さんの口の中をよく観察し、歯が何本あるか、歯茎や舌に異常がないかを確認します。
② ALS患者の多くは唾液の分泌量が増し、粘度の高い唾液に悩まされます。口腔ケアを始める前に口腔内の吸引やスポンジブラシで絡め取るなどして、取り除いておくとよいでしょう。
③ ALS患者はうがいが出来ないことが多いので、最初にうがいの代わりに水を含ませたスポンジブラシで歯茎、頬の内側、唇の内側、上あご、歯をこする様にして汚れを浮かせ取り、歯科用排唾管で吸引します。
④ 次は歯ブラシで歯をブラッシングします。歯ブラシは鉛筆持ちで、軽い力で、歯1~2本ずつ、小刻みに動かすようにしましょう。漫然とブラシを動かすのではなく、歯の形を頭に思い描きながらブラッシングすると効率よく汚れが落ちます。必要に応じて、歯間ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)を使うといいでしょう。
⑤ 仕上げにはスポンジブラシを使います。ブラッシングによって浮いた汚れをスポンジブラシで絡め取ったり、排唾管で吸引します。その後、清涼感のあるうがい薬をスポンジブラシで塗り込むようにして終わります。漫然と行いがちな口腔ケアですが、歯の汚れを落とすのではなく、口腔内の細菌数を減らすことが目的です。順番を決めて声掛けをしながら、
清潔な口腔内を目指しましょう。ALS患者も歯が命です!
<JALSA 112 (一般社団法人日本ALS協会) 療養支援 ALSのステップアップ講座 掲載>
